フェリーに乗って

つばきとよたろう

第1話 フェリーに乗って

 鹿児島港からフェリーに乗って桜島までは、わずか十五分の航行だ。ゆっくり景色を眺めていると、あっと言う間にたどり着いてしまう。その日は晴れていたので、甲板に出て潮風に当たりながら、海を眺めていた。波が立つと日差しが反射して、目が痛くなるほど輝いて見えた。

 すると、三四人の女の子たちが、船の後部に立っていた。三四人と言ったが、実は三人なのか四人なのか分からないのだ。そんな事が有り得るのか、頭を傾げた。横目でじっと見ていると、三人なのだが。ふと気付くと、その後ろに一人立っている。三人は海を眺めながら、携帯で写真を撮りながら、楽しそうに話をしていた。

 しかし、四人目の一人だけは黙って、じっとどこか一点を見詰めているようだった。それが何だか気になって、盗むように見てしまう。ところが、見ていておかしな事に気付いた。三人がいる所は手すりのすぐ側で、体を押し付けるように立っていたから、四人目がその後ろに立つ隙間は無いのだ。立っているとしたら、手すりの向こう側になる。

 しかし、そこには当然足場は無かった。立っていることは出来ないのだ。その上よく見ると、三人と四人目とは随分離れているような気がした。つまり海のずっと向こうに景色のように立っているのだ。それなのにはっきり見えるし、三人と大きさも変わらなかった。その奇怪さに段々恐ろしくなってきた。もう見るのは止そうと思うのだが、視線はそちらに吸い寄せられていく。やがて到着の知らせるアナウンスと共に三人が立ち去ってしまうと、四人目もいなくなっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

フェリーに乗って つばきとよたろう @tubaki10

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ