第45話 大魔王、事の成り行きを見守る






「火魔法・ファイアボール!! 熱っ、み、水魔法・ウォーターボール!! 冷たっ!!」



 アルテナティアたち教国の人間が俺のダンジョンに移住してきた翌日。


 俺は自分の身体を自分の魔法で攻撃していた。


 傍から見れば「何アホなことやってんだろ?」と思われるかも知れないが、俺には必要なことなのだ。


 今の俺にはあらゆる耐性が無い。


 火に触れたら火傷するし、水に顔を浸けたら窒息してしまう。


 これはそれらを克服するための行為なのだ。



「はあ、はあ、はあ……」


「魔王様、少し休まれては?」


「だ、駄目だ。一刻も早く耐性を付けなきゃ。クラウディア、明日からご飯に色んな毒を混ぜてくれ。あっ、最初は弱めので頼む。いきなり猛毒とかはやめて……」


「承知しました」



 その後も雷魔法で感電したり、風魔法で吹っ飛ばされたり、土魔法で埋まってみたり……。


 もうセルフ拷問である。


 いや、こうなってしまったのには、俺にも少なからず責任がある。


 あの時、油断せずに封印を回避できたなら、アルテナティアが判断を誤って女神モドキを復活させるような攻撃をすることは無かった。


 人生砲は必要だったと思う。


 だからこそ、このセルフ拷問は反省の意味も込めて絶対に必要なことなのだ。



「はあ、はあ、でも、やっぱしんどい!!」


「魔力回復ポーション入りのお茶をお持ちしました。どうぞ、お飲みください」


「ああ、ありがと。んごくっ、ぷはあ!! しっかし、相手が誰であろうと油断する悪癖はどうにかならんもんかねぇ」



 自分でも分かっているのだ。


 俺は油断が多すぎる。

 ユージーンとの一件でもそうだったし、今回でも然り。


 ただの油断で二度も大変なことになった。


 いや、この短期間で二度も大変な目に遭う不運を呪うべきなのだろうか。



「いっそのことまたダンジョンに引きこもれば、厄介事に巻き込まれずに済む気がする……」


「元も子もない解決策なのでは? 仮に実行したとしても、千年か二千年で飽きるでしょう?」



 クラウディアが俺の性分を理解しているが故の発言をする。


 まったくその通りである。


 それに、良き隣人となったフレイベル帝国との縁を切ってしまうのは勿体無いような気がしてしまうのだ。



「っと、帝国はどんな様子だった?」


「……正直、好ましい状況ではないようです」


「だろうなあ」


「詳しくお聞きしますか?」


「ん、お願い」



 俺はクラウディアに帝国の状況について調べてくるようお願いした。


 セルフ拷問を続けながら、クラウディアの声に耳を傾ける。



「まず帝国の属国が一斉に武装蜂起しました」



 それは知っている。


 昨日、レルゲンおじいちゃんから聞いたからな。


 気になるのはそこじゃない。



「属国はどこから武器を集めたんだかな」


「……そこまでは分かりませんが、魔王様は見当がついているのでは?」



 まあな。


 帝国は属国を支配するに当たり、各国に軍隊の所持を禁止させた。

 その代わりに帝国駐在軍がその国を他国から守るという条約を結んでいるのだ。


 軍が無い以上、いくら民衆でも大した武器は得られないはず。


 駐在している帝国軍が武器を横流ししているというなら話はまた変わってくるだろうが、訓練の行き届いた帝国軍に限ってそれは無いと思う。


 考えられるのは……。



「キーラとかドランだろうな。話してた感じだと結構大きい組織みたいだし、大量の武器を流すのも簡単そうだし」


「……なるほど。真偽は不明ですが、魔王様がそう思うならそうなのでしょう」



 問題は現状、俺たちが帝国のためにしてやれることが無いということだ。


 下手に援助しようものなら、火に油を注いで帝国が世界中の標的にされてしまうだけだろう。


 そうなったら敵の思う壺だ。



「現在、帝国は属国の独立を認める代わりに今後三十年の戦闘行為を禁じるという条約を交わす予定のようです」


「その間に時間稼ぎをして、属国を制圧できるだけの戦力を蓄えるつもりかな?」


「しかし、それは属国側も同じ。しばらくは互いに互いを睨む状況が続くでしょうね」


「仮初めの平穏とは虚しいな」



 あ、そう言えば。



「教国の方はどうなってる?」


「かなり混乱していますね。崇めていた神が偽りだと知り、絶望している人間が多かったです。正直、最高に良い気分でした」


「人様の不幸を喜ぶなっての。性格の悪い女になっちまうぞ」


「自覚しておりますので」


「なお悪いわ!! ……学園の生徒は?」



 俺は一番気になることを訊いた。



「問題は無さそうでした。魔王様が気にかけていたFクラスの生徒、特にゴーレム使いの少年は自立型ゴーレムを作ることで、弱体化した教国の守りを固めていましたよ」


「おお、そりゃ良かった」



 ゴーレム使いの少年ってのはエルトのことだよな。


 あんな自己肯定感低めだった子がそんなことをするなんて……。


 先生は鼻が高いよ。



「混乱はしているようですが、完全に地図から消える程ではなさそうですね」


「そうなのか?」


「はい、学園のウン……ウコ……ウル……?」


「ウンコ先生?」


「それです、最低な名前ですね。彼が『教国は偽りの神に騙されていたのだ』と白々しく周辺諸国に触れ回っているようです」



 おお、賢いな。


 他国もクリシュリナ教国が同じ被害者だと言い張っている以上、あまり強気には出られないだろうからな。


 ウンコ先生もウンコ先生なりに国、ひいては生徒のために奮戦しているのだろう。


 

「っと、今日はこんくらいにしとくか。一日で最低限の耐性は付けられたな」


「お疲れ様でした。今後のご予定は?」


「うーん、帝国が落ち着くまでは様子見だな。もし帝国が援助を求めてきたら助けよう。属国もその気になれば俺たちが滅ぼせばいいだけの話だし。一応、いつでも軍を動かせるようにベネさんに言っといて」


「承知しました」



 俺が帝国と交わした条約の対象は帝国のみ。


 帝国の支配下にある国であれば手出しはできないが、独立しようと反乱しているのなら話は少し変わってくる。


 それにしても……。



「くっくっくっ。悪いとは分かっていても、魔王としては世界中が混乱しているのは気分が良いな!!」


「私よりも魔王様の方が性格が悪いと思います」


「そこ!! 主人の悪口を堂々と言うな!! 聞こえないところで言いなさい!!」


「言うことは駄目ではないのですね……」



 そりゃお前、誰だって不満の一つや二つはあるだろう。


 俺だって完璧じゃないんだし、そういう評価は甘んじて受け入れるさ。


 そんなことを考えながら、俺は自室にこもってある計画のために作業を進めるのであった。






――――――――――――――――――――――

あとがき

「帝国は大変だなあ」「教国も大変だなあ」「アルテナティアだけ逃げやがった」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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