第44話 大魔王、クソザコナメクジになる





「ふむ、教国でそのようなことがあったのですね」



 俺の話を聞いて、クラウディアが頷いた。


 教国で奥の手を使った後、俺は速攻でダンジョンの最奥にある自室に引きこもっている。


 何故かって?


 今の俺は下手したらスライムの攻撃でも死ぬクソザコナメクジだからだよ!!


 こんな状態で外出なんかできるか!!



「しかし、毛布にくるまって部屋に籠もるのは身体によくありませんよ。せめてダンジョンの中だけでも出歩かれては?」


「絶対にやだ。今は部屋から出たくない。耐性が一切ないんだぞ? 俺の命を狙う輩がいたら死ぬ」


「そのような輩がいれば私が処分しております」


「……もしかしたら見落としがあるかも知れないじゃん」



 俺が魔王らしく傲慢に振る舞うのは、圧倒的な力があるからだ。


 しかし、今の俺に力はない。


 もしかしたら俺が魔王であることを気に入らない輩が配下の中にいて、弱体化している今の俺の命を狙ってくる輩がいるかも知れない。


 あの技を使うと毎回、俺もやっぱり人間なんだなあって思う。


 俺は死ぬのが怖い。


 だからこの世界に来た当初、俺は死ぬ気で強くなった。

 自分の命を誰にも脅かされないようにするために。


 長い年月を生きるほど、その考えは強まっているような気がする。



「本当に、俺は浅はかだ」


「後悔するくらないなら、何故あの技を使ったのです? 知らぬふりをすれば良かったでしょうに」


「いや、それはだってさ、あのまま放置してたら結構な数の人間が死んでたと思うし。やらなかったらやらなかったで絶対に後悔しただろうし」



 やらない後悔よりやった後悔の方がましだ。


 そのせいで俺はクソザコナメクジになってしまったわけだが。



「はあ。ナメクジに生まれ変わりたい」


「子供に塩をかけられて溶けますよ」


「あれ溶けてるんじゃなくて浸透圧で縮んでるんだぜ?」


「何故急にドヤるのですか」



 俺がクラウディアと話しながらベッドにくるまっていると。


 不意にコンコンと誰かが俺の部屋の扉を叩いた。

 中に入ってきたのは、ベネルペンデことベネさんだった。



「主殿、少し報告が……何故クラウディア殿の後ろに隠れておられるのですか?」


「いや、すまん。今の俺は警戒心が凄いから、ノックの音でもビックリするんだ」


「そ、それは失礼を」


「で、報告ってなんだ?」


「それが――」



 ベネさんが何か言おうとしたその時。



「邪魔するぞ、シュトラール」


「……は?」


「ふむ、お主の私室は随分と質素なのだな。黄金が好きな妾とは正反対だ」



 部屋に入ってきたのは白金色の長い髪と黄金の瞳の美少女。


 【神】の魔王、アルテナティアだった。



「な、なん!? どうしてお前がここに!?」


「しかし、まだ縮んだままなのか。まあ、幼いお主も中々そそるから構わんが」


「ヒエッ」



 俺はクラウディアを盾にして隠れる。


 そして、アルテナティアを連れてきたであろうベネさんを問い詰めた。



「ベネさん!! これどういうこと!?」


「そこからは私がお話しましょう」


「あ、レルゲンおじいちゃん」


「先日ぶりですな、魔王陛下」



 丁寧なお辞儀をしてきたのは、女神教の司祭である初老の男性、レルゲンだった。


 レルゲンがアルテナティアと共にダンジョンに来たことの事情を説明する。



「実は、教国が滅びました」


「ふぁ!?」


「正確には、アルテナティア様が支配する教国が終わりました。あのドランという女性の暗躍でしょうな。世界中の国々が教国を敵と見なし、多くの国から宣戦布告されたのです」



 どうやらドランの計画は遂行されたらしい。



「唯一、友好国であったフレイベル帝国だけは最後まで我が国を養護してくださったのですが、今まで支配の後ろ盾となっていた教国が孤立したことで属国が次々と独立すべく武装蜂起したようで」


「うわあ、帝国も大変なのかあ」



 帝国の皇帝、ヴェインが頭を抱えている姿が思い浮かぶ。

 ……今度、何か美味しいものでも差し入れしてやろうかな。


 ってそうじゃなくて!!



「な、なんでうちに来たんだ?」


「お主は行き場の無い魔族を受け入れるであろう? 光栄に思うがよい。妾と妾の配下を受け入れる赦しをやる。盛大にもてなせ」


「おま、仮にも人に頼む態度かそれが!!」


「ほう? せっかく約束の物を持ってきてやったというのに追い返すのか?」


「え、約束のもの……?」



 それってまさか!!


 アルテナティアが懐から光沢のある黒い玉を取り出した。


 見間違うはずがない。魔核石だ!!



「ほれ、要らんのか?」


「ほ、欲しい、けど、ぐぬぬぬぬ!!」



 アルテナティアという制御できない強大な存在を受け入れるのは少し抵抗がある。


 こいつに限って俺が弱っているところを襲うつもりは無いだろうが、ただでさえ勝てない相手と一緒に暮らすのは流石に怖い。


 でも、でも魔核石は欲しい!!


 悩んだ末に俺が出した結論は。



「クラウディア、まだ七十二階層って空いてたよな?」


「はい。今は森林地帯となっており、大型の魔物が十数匹棲息しているだけです」


「アルテナティア、七十二階層なら好きに使って良いよ……」


「くっくっくっ、流石は愛しのフィアンセ。話が分かるな。ほれ、魔核石はくれてやろう」



 てっててー、シュトラールは魔核石を手に入れた!!


 ちっとも喜べねーけどな!!


 まあ、でも世界最強の戦力が仲間になったと思えば少しはマシか?


 ……いや、駄目だな。

 アルテナティアはまず自分の都合で物事を考えるし、絶対に俺の言うことは聞かない。


 仲間と認識するのは良くないだろう。


 どうにかしてこいつを抑えることが出来れば少しは安心なんだが。



「……はっ!!」



 俺に天啓が舞い降りた。


 先程アルテナティアから受け取った魔核石は、その本来の持ち主の強さによって質は変わってくる。


 こいつを上手く使えば、アルテナティアを余裕で倒せる最強の武器や防具が作れるかも知れない。


 くっくっくっ。

 そうなれば俺がクソザコナメクジでも関係ない!!


 俺はその日から配下に内緒で、アルテナティアを倒せる武具の開発を進めることを決意した。







――――――――――――――――――――――

あとがき

第二部、完!! 明日から第三部です。


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