第40話 大魔王、封印される





『さああああああああッ!!!! 学園戦祭の前座は全て終わった!! ここからが本番!! クラス対抗決闘戦の開幕ですッ!!』



 午前の競技はまあまあ良い感じでFクラスが得点を稼いだ。


 観客の全員がFクラスの大躍進に驚愕し、今やFクラスをFランクだからと見下す者は観客に誰一人としていなかった。


 これなら当初の目的、弱者が強者を見返すという目標は達した。

 決闘戦でSクラスを下せば、もうFクラスが無能の集まりという固定観念はぶっ壊せるはずだ。



『ちなみに現在の得点は以下の通りです!!』



 実況の生徒の合図で、空中に得点が表示される。



 Sクラス   0


 Aクラス 108


 Bクラス  65


 Cクラス  54


 Dクラス  45


 Eクラス  39


 Fクラス  98



 Fクラスが決闘戦でAクラスに勝てば、逆転勝利を狙える。


 問題は……。



『ちなみに決闘戦で勝利したクラスには300点が付与されます!! 要はこれで勝った奴が優勝な!! ってことです!!』


「これ、午前の部って必要ある?」


「……私も毎年思う。必要無いだろうに」



 最後に勝った奴が勝ちというルールは嫌いじゃないが、こういうイベントではどうかと思う。

 ウンコ先生も俺と同意見なのか、カレーを食べながら呟くように言った。


 ……ウンコ先生、ご飯はゆっくり食べるタイプなんだな。



『さあ!! 第一回戦、第一試合はAクラス対Eクラス!! 各クラス用意を!! 次の試合のクラスは準備しておいてくださいね!!』



 AクラスとEクラス。


 人数でも実力でも、Aクラスの方が上なので、正直結果は見えている。


 そして、Aクラスは更に俺を驚かせた。



『あーっと!! Aクラスの生徒が、全員オリハルコンの武器を持っているぞ!? あんな剣一本で家が買える剣を人数分とかどうしたんだ!?』


「くっくっくっ。これが、貴様のクラスのゴーレム使いを降すための秘策だ!!」


「いやいや、どうやって用意したんだよ!?」


「……そこは秘密だ」



 ウンコ先生が視線を逸らして明後日の方を向く。


 しかし、ここで実況の生徒が声を張り上げた。



『えー、ただいま学園情報部に入った情報によりますと。あのオリハルコンの武器は全てAクラスの担任、ウルコ先生が自らの屋敷を売り払い、借金までして購入したそうです!! 食料を買う余裕すら無く、校庭に咲いている食用植物を採取している姿が目撃されています!!』


「……」


「……」



 ま、まじか。ウンコ先生、そこまでして勝ちに来てるのか。



「だ、大丈夫か?」


「ど、同情するな!!」


「いや、同情じゃなくてさ。そこまでして勝ちにこだわる理由はなんだよ?」


「ふん!!」



 ウンコ先生が鼻を鳴らしながら、答える。



「Aクラスはエリート中のエリートだ」


「うん?」


「エリートには、ただの一度の敗北も許されん。だが、彼らの輝かしい人生の一端が、私の油断で汚されてしまった。ならば責任を取るのが教師というものだろう!!」



 えーと、つまり。


 以前エルトとの戦いで負けてしまったクソリーダーのために、Aクラスのエリートとしての矜持のために、責任を取ったってことか。


 ……ちょっとカッコ良いじゃねーか。



「ウンコ先生、カレーもう一杯食べるか?」


「同情はやめろと言っただろう!! あとカレーを勧めるならウンコとか言うな!! ……貰おう」



 AクラスとEクラスの戦いは、完全武装したAクラスの圧勝だった。


 うーん。

 俺の目標は打倒Sクラス(アルテナティア)だが、Aクラスも厄介そうだなー。


 さて、どうしたものか。



「あ、せんせー」


「ん? お、キーラか。どうしたんだ?」



 俺が頭の中でAクラスへの対策を練っていると、キーラがやって来た。



「いやー、ちょっとAクラスを見て作戦練り直そうかなって思って。ここじゃなんだし、こっち来て」


「おう。じゃ、ウンコ先生。またあとで」


「ウルコだと何度言えば分かる!! ……カレーの礼は言っておこう」



 お礼とか、律儀な奴だなー。


 俺はウンコ先生を観戦席に置いて、キーラと共に人気の無い場所へと移動した。


 校舎裏である。


 てっきり他のFクラスの面々も揃っているのかと思ったが、他には誰もいない。



「他の連中はどうした?」


「……先生」


「なんだ?」


「先生って、魔王なんだよね?」


「ん? おう!! 全然誰も魔王扱いしてくれないけどな!!」


「じゃあ、心が痛まなくて済むや」



 キーラがこちらに振り向いた。


 その手には、何やら不気味な魔力を発する箱が握られていた。



「――神気解放・封印錠ふういんじょう



 背筋がゾッとする。


 魔族が一番嫌いな神聖な魔力の気配だ。



「うお!?」



 慌てて回避しようとするも、箱から伸びた触手に捕まってしまった。


 すると、ごっそり魔力を奪われてしまう。



「いや、これは奪ってるんじゃなくて、どこかに流してるのか」


「……さっすがー。一目で見破るとは」


「で、キーラ。こりゃどういうことだ? すまんが、お前にこんなことされる覚えはないんだが。あれか? 前にお前らの根性を叩き直すためにボコったことに怒ってんのか?」


「違うよ。先生、これは正義なの」


「んん? 正義?」



 どういうことだ?



「……私は、偽りの女神を殺すの」


「んあ? もしかして、アルテナティアのことか」


「そ。先生の魔力を利用して、本物の女神様を復活させる。そして、偽りの女神を殺して世界をあるべき形に戻す」



 ……馬鹿なことを。



「やめとけやめとけ。あのクソ女神は魂もろとも破壊してんだ。蘇生魔法は無意味だぞ」


「無意味じゃない。あるんだよ、女神様を蘇らせる方法が。……でも、先生に言う必要は無い。バイバイ、嫌いじゃなかったよ」



 次の瞬間、触手が俺を飲み込む。









 うーん、困った困った。


 原理で言えば収納魔法に近いのか? 異空間そのものに押し込められたらしい。



「問題は出られないってことか。幸いなのは、意識がしっかりしてることだな」



 封印したものの意識が消えるとか、そういう封印だったらヤバかった。


 これなら時間をかければ破壊できそうだ。



「でも魔力がじゃんじゃん吸われてるし、こりゃ長期戦だな。百年か、二百年か。外側から破壊してもらったら楽なんだけど、校舎裏に人は近寄らんわなあ」



 帝国に残してきた分身体を頼るのも有りだが、完全に俺と分身体のパスが切れている。

 向こうが異変に気付いてくれるのを祈るしかないか。


 それにしても、気になるのはあのクソ女神の復活方法とやらだな。


 アルテナティアなら問題は無いだろうが、キーラのあの自信満々な様子。

 まず何かあると思って良いだろう。


 もう一つ気になるのは。



「心が痛まないとか言っておきながら悲しそうな顔しやがって。……放っておきたくはねぇなあ」



 今の俺は先生だ。


 先生なら、生徒を助けてやらなくちゃなー。







――――――――――――――――――――――

あとがき

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