第39話 大魔王、観戦する






『さあ!! 遂にこの日がやって参りました、学園戦祭!! 年に一度の大イベント!! 実況は毎度お馴染みのこの私!! そして、今回は特別ゲストとして二人の解説をお呼びしております!!』


『解説のレルゲンです。生徒の皆さん、頑張ってください』


『お、同じく解説のセレナです!! こ、このような場は初めてなので、至らぬ点もあるでしょうが――』


『長いです!! 尺が足りないので教国聖騎士団長の長ったらしい挨拶はカットします!!』


『ちょ!?』



 実況の生徒がとても楽しそうにマイクを握って声を張り上げている。


 ……レルゲンおじいちゃん、解説なのか。

 そして、神剣使いのセレナに対する扱いがとても雑なのが笑える。


 

『例年通り、本日は教皇猊下自らがご観戦なされるため、私もテンションが高いです!!』



 学園戦祭が行われるのは、エルトとAクラスのクソリーダーが戦ったあの決闘場だ。


 俺は教師用の観戦席に座り、種目が始まるのを待っていた。



「げっ、き、貴様は……ッ!!」


「お、ウンコ先生。ちわーっす」


「ウルコだ!! 貴様は何度言えば分かる!!」


「え? ウコン?」


「ウルコだ!!」


「ウルコ?」


「ウン……じゃない!! そうだ!!」



 朝から苛々した様子で自分の観戦席に腰掛けるウンコ先生。


 俺の右斜め前だった。近い。



「……貴様は、さっきから何を食べている?」


「カレー。外の売店で売ってた」



 学園戦祭は聖都の一般市民も観戦することができるため、道には多くの屋台が並び、結構な盛り上がりを見せている。


 流石は〝祭〟といったところか。


 学園戦祭が始まる前に、やれるだけのことはもうやった。


 俺の仕事は無く、あとは観戦するだけ。

 こうして屋台の食べ物を食べるくらいしかできることが無い。


 俺はウンコ先生にカレーを差し出した。



「ウンコ先生も食べる?」


「ウンコはやめろ!! 渡そうとする食べ物がカレーならば尚更やめろ!! ……いただこう」



 意外なことに俺の渡したカレーを受け取るウンコ先生。


 どうしたんだろうか? 何か悪いものでも食べたのだろうか?



「おい、その『何か悪いものでも食べたのか』みたいな顔はやめろ」


「いやー、てっきり要らないって言うと思って」


「……ここ数日、食事をまともに摂っていなかったからな。それにしても貴様、随分と余裕だな?」


「うちの生徒は優秀だから」



 俺が課した結構な無理難題の特訓を、エルトたちは見事に達成した。


 あとは本人たち次第である。



「ふん、余裕でいられるのも今のうちだ」


「ええ? おたくの生徒、全然ウンコ先生の授業聞いてなかったじゃん」


「ウルコだ。……ふん、やはり見ていたのか」


「ん?」


「情報収集は戦いの基礎。貴様がこちらを偵察するであろうことは読んでいた」



 ほほーん?



「なるほど。あのAクラスの不真面目な授業態度は演技か」


「そうだ。Fランクの生徒に負けたのが良い刺激になったのか、全員が積極的に協力してくれたよ。まあ、夜中に特訓をしたせいで、私も彼らも寝不足だが……。貴様らの対策はバッチリだ!!」



 こりゃまたげた。


 Aクラス相手には少し苦戦するかも知れないな。



『それでは第一種目を発表します!!』



 実況の生徒が高らかに叫ぶ。

 

 学園戦祭の種目は当日まで秘密にされている。


 というか、女神教の教皇ことアルテナティアがその場のノリと勢いで決めるため、当日まで決まっていないのだ。


 まあ、一つだけ。

 クラス対抗決闘だけは最初から決まっているらしいけどな。


 とどのつまり、ここからは本当に生徒たちの実力と運次第ということになる。



『第一種目は、【チキチキ★ドラゴンまで何m? 一番近づいた奴が優勝な!!】です!!』


「なっ、ドラゴン、だと!?」



 ウンコ先生が驚愕する。


 種目が発表されると同時に、決闘場の中心へ鎖に繋がれたドラゴンが配置された。


 いや、あれはドラゴンじゃないな……。



『えー、運営教皇猊下よりお知らせです。本物のドラゴンを用意できなかったので、代わりにブラックワイバーンを用意したそうです!!』


『ブラックワイバーンは、ワイバーンの最上位種。場合によっては大型のドラゴンすらも喰らう魔物ですね。口から吐く炎には毒があり、浴びた者を夏場のアイスみたいにしてしまいます』


『解説のレルゲン司祭、ありがとうございます。それにしても流石は教皇猊下!! ドラゴンの代わりに普通のドラゴンよりヤバイ魔物を連れてくるとは!! 怖い!!』



 ルール説明が始まる。


 まあ、ルールはシンプルだ。

 スタートラインからブラックワイバーンに向かって何m近づいたかを競う種目である。



『あーっと!! Aクラスは15m!! 流石のエリート(笑)でもブラックワイバーンにはビビったらしい!!』



 あの実況、辛辣だなあ。


 その後、Bクラスは10m、Cクラスは9m、Dクラスは11m、Eクラスは5mという結果が出た。


 なお、この競技にSクラスは参加していない。


 そもそもこの学園戦祭自体、強制参加のイベントではないからな。

 Sクラスの生徒、つまりはアルテナティアの分身体はクラス決闘にだけ参加してくるものと思われる。


 ……この種目、Fクラスの勝ちだな。



『さあ!! 最後はFクラスのカインだ!! 見た目はヤンキーなくせにビビりなこいつが参加とは意外や意外!! 根性見せろ!!』


「……」


『お? おお!? ど、どんどん近づく!? と、止まらない!? おい!! それ以上は危ないぞ!! ちょ!! まじで止まれって!! おい誰か!! あいつが大怪我する前に止めろー!!』



 ブラックワイバーンにずかずかと近づくカイン。


 実況の生徒がすごく焦っている。


 ブラックワイバーンもすごく焦っている。

 今まで人間がここまで遠慮無しに近づいてきたことが無かったのだろう。


 ブラックワイバーンの方が逃げ始めた。


 しかし、ブラックワイバーンは鎖に繋がれているため、逃げようにも逃げられず、ぐるぐると決闘場の中央で円を描くように周り始めた。



『おおお!? き、記録は200m!! Fクラスがダントツです!!』


「くっくっくっ。紐無しバンジー100連戦の成果が出たな」


「貴様、それは人としてどうかと思うぞ」


「俺、魔王なので」


「……そうだったな」



 続いて第二種目。



『第二種目は、【レッツ★地獄マラソン!!〜10000km走るまで止まれません〜】です!!』


『ただ聖都内を走るだけですが、魔法、妨害、何をしてもオッケーというシンプルかつハードなルールです。頑張ってください』



 どうでもいいけど、このダサい競技名はアルテナティアが考えているのだろうか。



『ああっと!! Fクラスのエルトがゴーレムを召喚した!! ぬお、変形!? 車になった!? ちょ、車に乗って走るのは有りなのか!?』


『少し、教皇猊下に聞いてきます』



 一旦レルゲンおじいちゃんが退席。


 数分後。

 レルゲンおじいちゃんは戻ってきて、マイクに向かって短く一言。



『面白いからオッケー、とのことです』


『オッケーです!! 教皇猊下が許したのなら実況するのが私の仕事!! エルトが見事なドライブテクで聖都の街中を疾走する!!』



 あいつ、実況の鑑だな。



『素晴らしいドリフトだ!! ああっと!? 曲がりきれずに壁に激突した!! すぐ別のゴーレムに乗り換えて再発進!! すごいぞ、ぶつかった壁の修繕が大変だあ!! 壁の持ち主はあとで学園に被害額を請求してください!!』



 まだまだ、学園戦祭は始まったばかりであった。



 

――――――――――――――――――――――

あとがき

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