第38話 大魔王、決意を表明する





 Sクラスの生徒のうち、一人の正体はアルテナティアであった。


 もうね、勝ち目が一気に薄くなったよ。


 しかし、生徒にやる前から諦めるなと言った手前、俺が諦めるわけにはいかない。

 本気で対策を練る。



「今からお前らに、エンチャントのやり方を教える」


「「「「「エンチャント?」」」」」



 それはいわゆる、魔法付与というもの。


 武器や防具に魔法を付与することで攻撃力や防御力を底上げする、錬成魔法の一種だ。


 俺が魔剣を趣味で作る際にも、このエンチャントを施している。



「やり方は簡単だ。こうやって、こう!!」



 俺は剣にありったけの魔力を込める。


 すると、禍々しく邪悪なオーラを放つ魔剣が完成した。



「いや、あの、先生……」


「その教え方では何も分かりません!!」


「ひひ、え、えっと、こここ、こうかな? へへ」


「なんでお前できるんだよ!?」


「ミナっちすごー。よく今の説明でできるねー」



 なんと付与に成功したのは、クラスでミナ一人だけだった。

 いや、自分で言うのもあれだけど、よく今の説明で理解できたな!?


 普通に凄いと思う。



「よし。ならミナ、お前は毒の量産と並行してエルトのゴーレムに持たせる武器にエンチャントしまくってくれ。素材は俺が用意する」


「ひひ、は、はい、へへ」



 そして、ミナがエンチャントした武具にこっそり神特攻の効果を付与しておくのだ。


 これでアルテナティアにも攻撃が通じるはず。


 あとの問題は、生徒たちが学園戦祭までにどれほど実力を伸ばせるか、だな。



「……あ、あの!!」



 不意にエルトが手を上げた。


 ん? どうしたんだ?



「先生は、どうしてそこまでして勝ちたいんですか?」


「きゅ、急な質問だな? うーん」



 なんと説明しようか。


 アルテナティアから魔核石を譲ってもらうため、と正直に言っても良いが……。


 あと二つ程、単純な理由がある。



「一つは、お前らが無能ではないことを証明するためだ」


「え? 僕たちのため?」


「ああ、この学園の教育方針が悪い。お前らが弱い扱いを受けてるのは、大体そのせいだと思うぞ」



 実際、キーラ以外のFクラスの生徒はたしかに他クラスに劣っている部分が多い。


 しかし、同時に勝っている部分もあるのだ。


 長所を伸ばさず、短所だけを指摘して弱者として扱う学園のやり方が気に入らない。


 何より……。



「どうしてもギャフンと言わせたい奴がいる」



 思わず殺気が漏れ出てしまう。


 あの日、アルテナティアに植え付けられたトラウマのせいで俺は毎日夜しか眠れない。


 そんなアルテナティアを、勇者でもない学生が打ち倒したらどうなるだろうか。



――最高に気分が良いよなあ!!



 だから全力で潰しに行く。


 EクラスからAクラスなんてただのおまけだ。本命はSクラス。


 アルテナティアをボコって、お前より俺の方が優れていると言ってやるのだ。



「くっくっくっ、想像しただけで笑みが止まらん」


「う、うーわ、先生の顔が邪悪そのものなんですけどー」



 魔王ですからね、それは褒め言葉だよ。



「いいか、お前ら。目標は優勝だ。Aクラスは当然、Sクラスも仕留める」


「「「「「っ!!」」」」」


「競技は飛行魔法を使ったレースとか色々あるみたいだが、一番の目玉は最後の集団決闘だ。そこでお前らの本当の強さってやつを見せつけてやれ。お前らを無能と言った奴らを鼻で笑ってやれ。俺たちの強さを見抜けなかったお前が無能だってな」



 俺の言葉に生徒たちは力強く頷いた。












 学園戦祭当日。



「というわけで、今日はちょっくらアルテナティアに一泡吹かせに行ってくる」


「は、はあ、そうですか」



 ダンジョンに戻った俺は、配下たちに決意表明をしていた。


 会議室にはクラウディアと四天王ズが揃っており、俺の突然の呼び出しに困惑しているらしい。


 あ、ダークエルフのボス、黒妖精くろようせいアルエヒナはお休みだ。

 何でも身内の誕生日らしい。


 誕生日は大切だ。しっかりお祝いするべきだ。



「じゃ、行ってきます」


「え、ちょ、終わりですの!?」


「え? 終わりだけど?」



 サキュバスたちの女王、魔界妃まかいひモルナトがドンとテーブルを叩く。


 小声で「それだけで呼び出しなんて……」と嘆いては何度もドンドンとテーブルを叩く。



「なに? なんか荒れてんね?」


「どうやら良い感じになったインキュバスの青年とのデートの予定を断ってきたらしいです」


「え? まじ? 悪いことしちゃったかな?」



 こっそりベネさんが耳打ちしてくる。


 モルナトは巨乳で美人だが、気位が高い性分だ。


 それ故に恋愛経験が乏しく、サキュバスでありながら処女という残念なことになっている。


 せっかくのデートを台無しにしたのなら、本当に申し訳ないことをした。



「大丈夫なの!! どうせ振られるか捨てられるかのどっちかなの!! 期待するだけ無駄なんだし、むしろ良かったの!!」



 と、ここで空気を読まないルシェちゃんが大声で爆弾を投下した。


 もうそこまで来ると天然じゃなくてただの暴言魔なのよ。


 会議室の気温が一気に下がる。

 感覚的な話ではなく、実際に温度が氷点下に達したのだ。


 モルナトは卓越した氷魔法の使い手だからな。

 彼女の怒りに反応して、勝手に氷魔法が発動したのだろう。


 正体がドラゴン、つまりは爬虫類であるベネさんがブルッと身体を震わせる程だった。



「――ルシェ、ちょっとこっちに来なさいな」


「?」



 満面の笑みを浮かべながらルシェちゃんを手招きするモルナト。


 あ、ガチギレしてやがる……。



「じゃ、じゃあ、俺は学園戦祭に行ってくるから!!」


「そ、某は訓練の時間なので!!」


「私もメイドの仕事がありますので、失礼致します」



 急に会議室から出始めた俺たちに小首を傾げるルシェちゃん。


 その後、彼女がどうなったのかは学園戦祭へ向かった俺に知る由もなかった。






――――――――――――――――――――――

あとがき

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