第37話 大魔王、他クラスを偵察する





「えー、コホン。お前らがやる気になったということで、それぞれの適性に応じた特訓メニューを考えた。筋トレや走り込み等の基礎メニューを終えたら、毎日欠かさずやるんだ。良いな?」



 俺はエルトたちに一枚の紙をそれぞれ渡す。


 それをまじまじと見つめながら、時に首を傾げたりしている。


 最初に手を上げたのはエルトだった。



「あ、あの、先生。どうして兵法……部隊運用の勉強が必須なんですか?」



 エルトに課した特訓メニューは二つ。


 可能な限りのゴーレムの製造と、古今東西あらゆる兵法の学習だ。



「そりゃお前。いくら物量で攻めても戦術、戦略を練れなきゃ所詮は有象無象だ。普通の軍隊と違って、ゴーレムはエルトの意志で動かせる軍団だ。お前の知識・作戦が強さに直結するんだよ」


「な、なるほど」


「先生!! 私の特訓メニューはどういうことですか!!」



 次に声を上げたのはレリーナだった。



「私の特訓メニュー、筋トレとランニングと格闘術ってなんですか!? 私は魔法使いですよ!?」


「あー、それな」



 レリーナの特訓メニューは、たしかに魔法使いがするようなものではない。


 しかし、今の彼女に必要なものである。



「レリーナ。お前、俺とやり合った時のこと覚えているか?」



 レリーナが苦虫を噛み潰したような表情を見せる。

 俺に反撃することもなく負けたことを悔しがっているようだ。


 しかし、俺は敢えて指摘する。



「あの時、お前が俺の攻撃を防御、あるいは回避できていたら結果は少し違っていた。魔法使いは魔法だけ使えても意味ないぞ。魔法が使えるのと同じくらい、近接戦闘ができなきゃならん。持論だが」


「む、むぅ、たしかに一理ありますね」



 俺の言葉にレリーナが渋々頷く。


 どうやら納得したらしい。



「ひひ、あ、あの、先生、わ、わわわ私の特訓メニュー、白紙なんですけど、へへ」


「すまん。毒に関してはからっきしなんだ。取り敢えず俺に使ったヒュドラ毒を量産しておけ」


「ひひ、は、はい、へへ」



 ミナに関しては何も言えん。


 毒を使った戦い方を俺は知らないからだ。


 しかし、小声でボソッとアドバイスしておく。



「……他クラスが口にするものへ毒をぶち込む方法を一緒に考えるぞ」


「――ッ!! ひ、ひひ、せ、先生って、悪い人ですね、へへ」



 そりゃ魔王だからな。


 くっくっくっ、戦う前から敵の戦力を削るのは戦争の常識。


 まさに外道? 褒め言葉だね!!



「な、なあ、先生。オレの特訓メニュー、『気合いと根性を鍛えろ』って書いてあるんだけど……」


「お前はヤンキーな見た目に反して肝っ玉が小さい。俺が殺気をぶつけた時に一番ビビってたからな。技術云々以前にそれを鍛えろ。なーに、紐無しバンジーを何回か繰り返せば大丈夫さ」


「バンジーって……え? 紐無し?」



 カインは俺の殺気に一番ビビり散らしていた。

 気絶しなかったのは称賛してやりたいが、それだけでは足りない。


 技術を鍛えるのはそれからだ。



「ねー、先生ぇ。あーしの特訓メニュー、『ひたすら戦闘』ってあるんだけど……」


「お前は唯一Fクラスの中で俺の攻撃に反応できていた。必要なのは経験だ。しばらくは俺とマンツーマンでやる。死ぬ気で来い」


「うわー」



 俺と戦った時のことを思い出したのか、ブルッと身体を震わせるキーラ。


 実際、こいつはFクラスの中で一番強い。


 Fクラスで主戦力となるのは、キーラとエルトの二人だろう。


 エルトが大量のゴーレムを使って戦術・戦略を駆使したら、その時点で脅威だ。

 ただその間、エルト本人は無防備になってしまう。


 キーラをエルトの護衛に使うか、あるいは更なる攻撃のために使うか。


 戦局に応じて役割を変えられるのは十分な強みになる。



「じゃ、俺はちょっと敵の視察に行ってくる」



 作戦を立てるには、まず敵を知らねばならない。


 俺は魔法で身を隠しながら、各クラスの情報を集めることにした。










「意外と強い奴が多いな」



 それが、他クラスを見た俺の正直な感想だった。


 下から順番にEクラス。

 こちらはわずか三十人程度だったが、それぞれがFランクにはなるまいと必死に授業へ食らいついている感じがした。


 ただ心配なのは、明らかに無理をして体調が悪そうな生徒が多いことだろう。


 個々の能力は高そうだが、本来の実力を発揮できるとは到底思えないくらい疲れ切っているため、むしろ心配だ。


 次にDクラス。

 Dランクの生徒数は百人弱だった。Eクラスの生徒より自己管理に優れており、自分にできる範囲で努力している者が多い印象。


 だが、大した脅威では無いと思う。

 身の程を弁えているというか、より上を目指そうという気骨を感じない。


 毒でも盛って戦闘不能にすれば、無理をせずに棄権しそうだ。



「……問題はCクラス以上、だな」



 Cクラスはヤバイ。

 生徒の総人数が五百人ほどいて、物量が関わりそうな競技では一番勝率が高そうだ。


 各々の実力も割と高い。


 正面からエルトのゴーレム軍団と戦わせたら、意外と善戦すると思う。


 次にBクラス。

 Cクラスから一気に人数が減って、八十人くらいしかいないが、それぞれが素晴らしい実力を有している。


 努力すればアリアぐらいの実力の勇者になれるんじゃないか、というのが素直な感想だ。


 普通に将来性がある。



「Aクラスは論外、と」



 Aクラスはヤバイね。何がヤバイって、あいつら真面目に授業をしちゃいない。


 ウンコ先生が授業をしていても上の空で、ノートも取らず、隣の席の連中と雑談している奴が多かった。

 実力はたしかにBクラスの生徒以上みたいだが、強者であるが故なのか、突け入る隙は多かった。


 あんな連中を生徒として大切にしているウンコ先生は聖人君子だと思うね、うん。



「さて、一番の難敵はSクラスだな」



 Sクラスの生徒は、たった三人だった。


 まず一人目は精霊召喚士の少女だ。


 精霊、というと清浄な存在をイメージする人が殆どだろう。

 しかし、それは間違いだ。


 連中は概念的な存在であり、自分達がこの世界には必要だと思っている自己中心的な奴らだ。

 それを従えている時点でヤバイ匂いがプンプンするね。


 二人目はバーサーカーだった。


 大の大人が両手で握るような大剣を二本振り回して暴れ回っている。

 中々強い学園の先生たちが総出で取り押さえていたため、あれを相手にすると骨が折れるだろう。


 最後の一人は……。



「お前、まじで何やってんだ?」


「なんのことか分からないですね、シュトラール先生?」



 最後のSクラスの生徒。


 髪はくすんだ鼠色をしており、瞳の色は薄い黄色で印象はまるで違う。


 しかし、俺に刻まれているトラウマが、その少女の正体をあいつだと語っている。



「とぼけるな、アルテナティア」



 俺がそう言うと、少女は妖しい笑みを見せた。



「くふふ、流石はシュトラール。妾の高度な変装を見抜くとは思わなんだぞ」



 そう、最後のSクラスの生徒はアルテナティアであった。


 ただし、本人だが、本体ではない。



「分身体、か。それも俺がやったような魂を分割する方法じゃなくて、複製したのか」


「正解、流石は妾のフィアンセだ」


「お前の婚約者になった覚えは無い。まじで何をしてんだ?」


「くふふ、決まっておろう? 妾がこの宇宙で最も美しく尊い、そして強い存在であることは周知の事実。ならば妾という強者を弱者が喰らってこそ面白いというもの」



 こりゃ無理だわ。


 学園戦祭で優勝とか無理っすわ。

 いきなりハードルがエベレストくらい上がりやがった。


 如何に本体ではなくとも、アルテナティアを相手に生徒たちが勝利することは絶対に無い。


 魔王として、それは断言することができる。



「ふっ、案ずるが良い。妾とて弱者相手に本気は出さぬ」



 唯一突け入る隙があるとするなら、彼女の慢心だろうか。


 ……神特攻の効果を持つ武器を作って持たせてみようかな。



「くふふ。では学園戦祭、楽しみにしておるぞ」



 そう言ってSクラスの教室に戻るアルテナティアの分身体。


 生徒だけでは、勝てないだろう。


 俺が全力でバックアップして、ようやくトントンだろうか。


 魔王に二言は無い。


 勝つと言ったら、絶対に勝つ。やってやろうじゃないか。


 学園戦祭で、二度目の神殺しをしてやる!!








――――――――――――――――――――――

あとがき

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