第33話 大魔王、学園長室に呼び出される




 翌日。

 俺は学園長室に呼び出された。


 ま、Aクラスの生徒をぶん殴って床にめり込ませたんだから無理もないわな!!



「学園長!! だから私は魔王を教師にするのは反対だったのです!!」


「う、うむ、そ、そうじゃな」



 今、学園長に向かって怒鳴っているのはAクラスの担任の先生らしい。


 名前はたしか……。



「まあまあ、ウンコ先生。落ち着けよ」


「ウルコだ!! 次その間違い方をしたら許さん!!」


「お? やる? 魔王として受けて立つが?」


「くっ!!」



 ウルコ……いや、ウンコ先生は俺に勝てないことを分かっているのだろう。


 だから俺に直接文句を言わず、学園長に怒鳴っている。

 意気地無しめ。先生なら傷付けられた生徒のために戦えっての。


 負けてやるつもりは無いがな、はっはっはっ。



「ま、殴ったのは悪かったと思ってるよ」


「な、なんだと?」


「でも、うちの生徒に手を出されちゃ黙っておけない。知ってる? おたくの生徒、うちの生徒をいじめてるみたいでさ」


「ふん。それがどうした」



 おっと?



「Fクラスの生徒なぞ、Aクラスに比べればゴミの集まりではないか」


「……ふむ、続けて」


「そんなゴミがいくらいじめられようが、些細な問題ではない!! Aクラスの生徒は、将来聖騎士団に入ることが確約されたエリートたちだ!! 強者が弱者に蹂躙されるのは自然の摂理であり、この学園のルール!! 何が問題だ!!」



 あー、そういう考え方ね。はいはい。


 まじでアルテナティアの奴、よくこんな方針で学園を運営させたな。


 生徒を指導するべき教師にまでそんな思想が浸透してるとか、もうホラーだよ。


 ……言われっ放しは、俺の性に合わないな。



「なら、おたくの生徒をFクラスの生徒がボコったら解決だな」



 俺は満面の笑みでウンコ先生に言った。



「……なんですと?」


「おっと、生徒が難聴なら教師も難聴か。耳糞詰まってんじゃね? あ、ウンコ先生だから耳に詰まってんのはウンコか」


「っ、ず、随分と安い挑発ですな。魔王と言っても所詮は暴力で訴えるだけの獣!! 舌戦は不得手なようで」



 安い挑発と言っておきながら、頬をピクピクと震わせるウコン先生。


 あれ? ウンコだっけ。ま、どっちでもいいか。



「なあ、学園長先生よ」


「は、はい、なんですかな?」


「この学園って、生徒の優劣はどう決めてるんだ?」


「そ、それは、テストの成績と模擬試合の結果ですが……」


「じゃあ模擬試合で勝負しましょうや、ウンコ先生」


「ウルコだと言っているだろう!! ふん、いいだろう。だが、相応のものを賭けてもらうぞ」


「ん? 賭け?」



 教師がギャンブルか? と思ったが、どうやら少し違うらしい。


 この学園には決闘というシステムがあり、それは教師にも生徒にも適用されるらしい。

 今回の場合、俺がウンコ先生に「生徒を戦わせる決闘」を挑むという形になるそうだ。


 うーむ、こうして考えると、帝国の学園は平和だったんだなあ。



「ま、何でもいいよ。俺が負けたら土下座してやってもいい。何なら世界中に生配信してもいいぞ」


「なっ」


「ウンコ先生は魔王を土下座させた男、ってことになるな」


「……良いだろう。私の生徒が勝ったら、貴様の土下座だ」



 俺の土下座に余程の魅力を感じたのか、ウンコ先生が条件を飲む。



「そちらは何を望む?」


「この学園でAクラスが享受する権利、その全て」


「……は?」



 間の抜けた表情で、ウンコが目を瞬かせる。



「本当に耳が悪いみたいだな。Aクラスが享受する権利の全てだ。要するに俺の生徒が勝ったら、AクラスはFクラスの教室で過ごし、FクラスはAクラスの教室で過ごす」


「な、何を――」


「おっと、逃げるのか? 将来は聖騎士団に入るエリート様たちが、落ちこぼれで無能のゴミみたいなFクラスから? これは酷い醜聞になるなあ?」


「ぐっ」



 これで逃げ場は封じた。


 傲慢な人間は、己のプライドを守るために戦うという選択肢を取る。

 その時点で、もう向こうの負けは決まっているのだ。


 いや、少し違うな。


 俺の生徒をバカにした時点で、おたくの敗北は確定事項だ、ウンコ先生。



「い、いいだろう!! 日時と場所はこちらが指定する!! 精々配信の準備をしておくといい!!」


「へいへーい」



 俺はニヤリと笑いながら、ウンコ先生の言葉に適当な返事を返すのであった。







「ってことになったから、エルト。お前、ちょっとAクラスをボコってこい」


「僕!? む、むむむむむむ無理ですよ!!」



 Fクラスの教室に戻ってきた俺は、早速エルトに決闘の話をしていた。


 しかし、エルトは無理と首を横に振る。



「なんでだよ?」


「なんでって、先生は知らないかも知れないですけど!! Aクラスは怪物の集まりなんです!! 現役の聖騎士団の団員にも匹敵する実力を全員が持ってるんです!! 勝てるわけがない!!」


「おいおい。俺が何の策も無しに勝負なんか仕掛けるわけないだろ」


「え?」



 勝つ算段はある。まあ、エルト次第だがな。



「ゴーレム作りをしている時、俺はずっとお前を観察していた」


「え?」


「お前は自分に才能が無いと言ったが、やっぱり才能が無い人間ってのはいないな。お前にも十分才能がある。魔力量と、集中力だ」


「そ、それは、たしかに魔力の量だけなら自信はありますけど、攻撃魔法はからっきしで……集中力だって、実戦じゃすぐ切れちゃうし……」


「ああ、そういうタイプだろうな、エルトは。だからこそ、戦いが始まる前に勝敗を決する」


「え?」


「いいか? 決闘の日まで、俺が言う通りにやってみろ。なーに、負けても俺が土下座するだけさ」



 俺はエルトに必勝の策を授け、決闘の日を迎えるのであった。














 決闘は、学園の地下にある決闘場で行われる。


 円形の広い場所で、特殊な結界が張られており、いかなる怪我も即座に治癒してしまうらしい。

 即死しても一瞬で蘇生してしまうため、学園での決闘は基本的に本物の武器を使う。


 模擬戦とは言っているが、その正体はガチの殺し合いだ。

 ただ死ぬことがないってだけでな。



「しかし、随分と人が集まったなー」



 決闘場には多くの観客席が設けられている。


 その他にも映像が学園敷地内の至る所で映し出されており、決闘の様子はリアルタイムで見ることができるらしい。


 いやはや、技術の進歩は素晴らしいねー。


 観客席にはAクラスの生徒を応援する生徒たちが大半を占めていて、決闘場の中心に立つエルトは明らかに孤立していた。



「……先生」


「ん? お、レリーナか。お前もエルトの応援か?」



 決闘場の観客席からエルトを見守っていると、Fクラスの生徒であるレリーナが話しかけてきた。


 俺と同じ黒髪の女の子である。



「……先生は、酷いですね」


「何が?」


「Fクラスの生徒が、Aクラスの生徒に勝てるわけないじゃないですか。こんなの、ただの公開処刑です」


「ああ、そうだな」


「っ、やっぱり貴方も、今までの先生と同じですね!!」



 急にレリーナが怒鳴る。



「何を怒ってんだ?」


「どいつもこいつもそう!! 私たちを無能と見下して、『自分は見捨てない』と言って希望を持たせながら嘲笑う!! 本当に最低!!」


「何を勘違いしてるのかは知らんが……」



 俺は我ながら邪悪な笑みを浮かべる。



「公開処刑されるのはAクラスの生徒だ」


「……え?」



 忘れちゃならないのが、今のエルトに味方しているのは、この俺ということ。


 エルトに敗北はない。あるのは勝利のみ、なんてね。

 




――――――――――――――――――――――

あとがき

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