第31話 大魔王、生徒たちと顔を合わせる





「コホン。えー、その、本日から聖アルテナ学園の講師になった――」


「どーも、魔王シュトラールです」



 聖都にある学園の職員室で、俺は自己紹介をしていた。

 校舎はやたらと黄金が使われている建物で、やはりアルテナティアの趣味が全開だった。


 というか、聖都の学園の名前って聖アルテナ学園って言うのか。


 あいつどんだけ自分大好きなんだよ。

 校庭のど真ん中に黄金のアルテナティア像があったし。



「が、学園長!! 納得しかねます!!」


「そ、そうですよ!! 魔王と一緒に仕事なんて!!」


「な、何か企んでるんじゃ……」



 まあ、当然の反応だわな。


 特に教国なんて「魔族ぶっ殺す」って思想が一番強い国だし。

 企んでるというのも嘘ではないし。


 俺がアルテナティアの頼み事を引き受けたのは魔核石のためだからな。


 やるからにはちゃんと先生らしいこともするが。



「み、皆の言い分もあるだろうが、これは教皇猊下が決めたことだ」


「そ、それは……」


「それに、魔王殿が見るのはFクラスだ。気にしないで仕事をしたまえ」



 冷や汗を掻いている小太りの中年学園長。


 きっとアルテナティアに色々言われてるんだろうなあ。

 同情するぜ、学園長。



「まあまあ、仲良くしましょうや。俺は人に迷惑かけないタイプの大魔王なんで、シクヨロでーす」


「「「「「胡散臭い……」」」」」



 失礼な。


 とまあ、こんな感じで自己紹介を終えた俺は、校舎を案内してもらうことになったのだが……。


 当然、俺は場所が分からない。

 そこで今いる教師たちの中から案内する人を決めることになった。



「ドラン先生、魔王殿の案内を頼みます」


「ふぇ? わ、私ですか!?」


「そ、それはいい!! ドラン先生は受け持ちのクラスがありませんからな!!」


「さ、賛成!!」


「お願いしますね、ドラン先生!!」


「ふぇえええええええッ!!!!」



 何やら若い女性教師が押し付けられている。


 薄緑色の髪をポニーテールにまとめた、気弱そうな女性だ。


 かろうじて教師がまとうローブのお陰で先生に見えているが、背が低く、童顔なことも相まって生徒に見えなくも無い。



「よろしくお願いしますね、ドラン先生!!」


「ひっ、よ、よよ、よろしくお願いしますぅ!!」



 やだ、ちょっと嗜虐心が煽られるな。



「あ、えっと、しゅ、シュトラール先生の受け持つクラスは、こ、こちらですぅ」



 膝をガックガクに震わせながら俺の前を歩くドラン先生。


 うーん、ここまで怖がられるくらいなら美少女モードで来た方が良かったかなあ。


 でも、あの全世界へ向けた配信からは結構な時間が経ってるし、積極的に「人類大好き」アピールした方が今後のためだ。


 多少はビビられるだろうし、避けられるだろうが、最初だけだろう。……と思いたい。



「ところで、ドラン先生」


「ひゃい!? な、なんですか?」


「この学園、徹底した実力主義って聞いたんですが……」



 今回のアルテナティアの頼み事。


 その内容をざっくりまとめると、要はテコ入れである。


 この学園では強者が弱者を蹂躙することを是としているらしい。

 弱い奴に人権は無い、強い奴が偉い、というシンプルなルールで成り立っている。


 そのルールをぶっ壊して、アルテナティアを満足させるのが今回の目標だ。


 ぶっちゃけて言うとアルテナティアを楽しませるのは不服だが、全ては魔核石のため。

 ここは我慢しよう。


 今するべきは情報収集だ。


 俺の質問に応えて、ドラン先生が親切に色々と教えてくれる。



「あ、は、はい。そうです。生徒たちには、成績に応じてSからFの七段階のランクが付与されるんです。ランク毎にクラスが分けられていて……」


「ふむ。さっきの学園長の話から察するに、俺が担当するクラスはFランクの生徒たち、と」


「は、はい、そうです。……あ、あの!!」


「うわ、びっくりした」



 ドラン先生が急に大きな声を出す。



「あ、あの子たちは、や、やれば出来る子なんです!! だから、その、酷いことはしないであげてください!!」


「ん? いや、別に酷いことするつもりは無いんだが」


「ほ、本当ですね!? や、約束を破ったら怒りますからね!!」



 俺は少し、いや、かなり驚いた。


 まさか魔王を相手に怒るなんて言う人間がいるとは思いもしなかった。


 いや、それだけ生徒達が大事なのか? どっちにしろ凄いわ。


 あんなにビビリ散らかしてたのに。



「分かった、そうしよう。っと、ここがFランクの生徒がいるクラスか? 本校舎から随分と離れてんなあ」


「そ、その、Fクラスの生徒は、学園内で使える施設が著しく制限されていて……」



 やってきたのは至る所に黄金が使われている華やかな本校舎とは違い、木造の地味で質素な建物だった。


 一昔前の学校って感じの校舎だ。


 本校舎とはかなり離れていて、敷地内のかなり端っこにある。

 しかも汚い上に、一部が崩れ落ちていてボロボロだった。



「も、もう教室で生徒達が待っていると思います。く、くれぐれも!! くれぐれもよろしくお願いします!!」


「おう」



 俺に深々と頭を下げて本校舎の方へ向かっていくドラン先生。


 ちょっと気弱みたいだが、良い先生じゃないか。



「さて、俺も少し先生っぽく振る舞おう」



 俺はボロ校舎のボロ教室の前に立ち、勢い良く扉を開いた。



「おっはよー!!」


「「「「「……」」」」」


「う、うわ、すっげー空気が死んでる……」



 教室に入った途端、魔王である俺すらも気分が悪くなるような淀んだ空気が漂ってきた。


 生徒の数はたった五人。


 このたった五人が、現在の学園にいるFランクの総数である。



「今日からお前らの担任になった、シュトラールだ。よろしくな」



 短く挨拶を済ませるが、返事は無い。


 話をするのも億劫なのか、ただ俺を一目見ただけで全員が興味を失った。


 うーん、顔はそこそこ知られてるはずなんだが、ここまで反応が薄いとショックだなー。


 ま、気にしないで行こう。



「んじゃあ、出席を取る。カイン・クラッゾ」


「……うっす」



 返事をしたのは、赤い髪のぶっきらぼうな少年だった。

 俺が見た限りでも魔力量が少なく、あまり強そうにはみえない。



「次、キーラ・イーシュ」


「はーい」



 ギャルだった。

 高そうなアクセサリーを付けている、学生とは思えない程の豊満で色白な胸元を晒しているギャル。


 けしからん。



「次、レリーナ・リウ」


「……」


「返事しないと欠席にするぞー」


「……はい」



 俺の呼びかけを一度無視したのは、目つきの悪い黒髪の少女だった。


 俺と同じ黒髪。良いね、親近感が沸く。



「次、ミナ・ボーマン」


「あ、は、はい、ふへ、へへへ」



 根暗そうな女の子だった。

 不気味な愛想笑いを浮かべており、大鍋を掻き混ぜてたら完全に魔女っぽいね。


 嫌いじゃない。



「最後はエルト・ハルトマン」


「はい」


「……あれ? え、女の子? 生徒名簿には男ってあるんだけど……」


「よく間違えられますけど、男です」



 最後はまさかの男の娘。


 良いね、時々美少女になったりする俺と気が合いそうだ。



「じゃ、改めてよろしくな!!」


「「「「「……」」」」」



 完全無視だった。


 ……大丈夫。俺はコミュ力ならある方だし、きっとすぐ打ち解けるよな!! 多分!!




――――――――――――――――――――――

あとがき

「面白い!!」「男の娘って良いよね!!」「続きが気になる!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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