第30話 大魔王、教師生活の準備をする
一旦、クリシュリナ教国からダンジョンことアビスゲイト国に帰ってきた。
少しやることがあったのだ。
「うーん」
「何かお悩みですか、主殿」
「お、ベネさん。いやー、どういう教師スタイルで行こうかなと」
自室で悩み事をしていると、ベネルペンデことベネさんが話しかけてきた。
「熱血教師スタイルか、クール教師スタイルか、はたまたミステリアス教師も悪くない。ベネさんは何がいいと思う?」
「さて、
「えー、普通なのはつまんなくね? ってか、何か俺に用事でもあったか?」
「失礼。実は、その、ロロ姫が……」
「ん? ロロ? ていうか姫って?」
ロロはモンスターテイマーの素質がある女の子である。
以前、グリフォンの討伐依頼の依頼主である村で迫害されていたようで、その場で保護した。
あの子を迫害していた村がどうなったのかは知らん。興味も無いからな。
しかし、何故あの子が姫呼びされてるんだ?
「あー、いえ。その、ロロ姫のモンスターテイマーとしての素質が凄まじく、ダンジョン内の魔物の一部が彼女を祀り上げておりまして」
「ふぁ?」
「いつか主殿が仰っていた『アイドル』のような扱いになっているのです。もう水着写真集が出回っております」
「おいコラ。うちのダンジョンはいつからロリコンの巣窟になった!? 子供の水着写真集なんて不埒なものは禁止だ、禁止!!」
帝国からいくつか輸入したカメラがそんなことに使われるとは思いもしなかった。
我が配下ながら情けない!!
「そう言うと思って某の方からお触れを出したのですが……」
ベネさんが視線を逸らす。
「いくら命令でも従えない、と。場合によっては叛逆するとも」
「くそっ、今までうちの奴らを自由にさせ過ぎたかな!!」
「それと、こちらが現物になります」
「なんで持ってんの!?」
ベネさんがどこからか取り出した、ロロの写真集を受け取る。
俺は何となく中を見た。
「……これは……写真集というより、ファッション誌じゃないか?」
「ええ、たしかに水着の写真もありますが、そこまで過激なものではありません」
「これなら、まあ、規制する必要は無いな。問題なのはこれを見て水着写真集と言い始めた連中だ。とっ捕まえて説教しておけ」
「あ、それはもう済ませてあります。言い始めたのは一部のゴブリンとオークですね」
「あの下半身野郎共……」
ゴブリンとオークは、少し下半身がだらしない。
合意なしでやらかしはしないものの、女を見かけたら胸や尻をまじまじと見つめてしまうような連中だ。
子供でも、女は女。
そういう考え方をする連中なので、ロリコンもクソも無い。
「万が一、ロロに何かあった場合は処刑するって脅しとけ。ただでさえあの子は生まれた村で可哀想な目に遭ってたんだ。怖がらせるなよ」
「承知しました。……ところで、帝都の学園の方はどうなさるので?」
「それは安心しろ。こんなものを用意した」
俺は収納魔法を使い、異空間から用意しておいたあるものを取り出す。
「!? こ、これは……少女姿の主殿?」
「そ。俺の形をしたゴーレムだ。こいつを依り代にして、俺自身の魂を一旦割って押し込めば――」
俺は美少女モードの俺を象った人形を弄る。
「こんな感じで」
「分身できるってわけ」
「お、おお、主殿が二人……。しかし、魂を二つにとは? 大丈夫なので?」
「うーん、大丈夫ではないな。単純に肉体強度も魔力も半分になるから」
「!? そ、それは安心して良いのでしょうか?」
「何とかなるさ。戦争に行くわけじゃないし、まだまだ過剰戦力だろ」
色々と難点はあるが、分身ゴーレムの記憶は俺にフィードバックできる仕組みだし、何も問題は無い。
「……ならば良いのですが……【神】の魔王が何を企んでいるか分かりませぬ。どうかご用心を」
「分かってるって。あ、いや、あいつが何を考えてんのかまでは分からないけどさ。死にはしないだろ、多分」
アルテナティアからは敵意を感じなかった。
俺を欺いているという可能性もあるが、あいつは物事を企てたりしない。
【人】の魔王である俺に人間っぽい性質があるように、【神】の魔王にはそういう神っぽい性質があるのだ。
神は全能であるが故に、策を弄しない。そういう意味での奴は信用できる。
そこら辺の心配はしなくて良いだろう。
「……あと、差し出がましいようですが」
「ん?」
「その、赤ジャージと丸メガネはダサイですよ?」
「え? ダメかな? これで生徒に『お前ら、缶蹴りしようぜ!!』とか言いたかったんだけど」
「何故か駄目な気がします」
残念。
こうして俺は、着々と聖都学園で教師になるための準備を進めるのであった。
◆
クリシュリナ教国、その聖都にある路地裏の一画にいくつかの人影があった。
「計画は?」
「問題無い。依然順調だ。ただ、少し不安要素が出てきた」
「……件の魔王か」
「ああ、あの簒奪者の差し金だ」
「忌々しい。流石は本物の女神様を害し、その座を奪った悪神だな」
「だが、我らの神が復活すれば悪神も魔王も大した障害ではない。儀式の準備に抜かりもない」
人影がくつくつと嗤う。
「……本当に、やるのだな?」
「何を今更。正義は我らにある。偽りの神を打倒し、真なる神にその座を返す。それが我らの使命であり、存在意義だ。……生贄となる聖都学園の若者たちには悪いと思うがな」
「……」
「罪悪感があるなら、お前は何もしなくて良い。お前も、学友を手に掛けるのは心苦しいだろうからな」
「……問題は無い。どうせ人はいつか死ぬ。ならば、少しでも我らの悲願のために死んでもらう」
「良い覚悟だ。では、手筈通りに。そなたに主の祝福があらんことを」
「祝福あらんことを」
人影は闇夜に紛れて消える。
不穏な足音が少しずつ、少しずつ近づいてくることに気付く者は、まだいない――
――――――――――――――――――――――
あとがき
「面白い!!」「ゴブリン&オークを許すな」「続きが気になる!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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