第25話 大魔王、カチコミじゃああああッ!!!!




「よし、グルムンド。カチコミに行くぞ」


「了解デス!! バットの用意はできていマス!!」


「……お二方、どうか落ち着いてくださいませ」



 ユージーンが起こした事件から一ヶ月が経った。


 俺はグルムンドと共に、バットで相手を殴る予行演習をしていた。


 ブン!! ブンブン!!


 よし、足腰は絶好調。

 オリハルコン製の金属バットも俺のスイングに耐えているし、問題は無さそうだ。


 クラウディアが溜め息混じりに問いかけてくる。



「はあ。……どこを襲撃なさるのですか?」


「「クリシュリナ教国」」



 クリシュリナ教国。


 それは、世界の覇権を握るとさえ言われている女神教の総本山である国だ。


 では何故、そこを襲撃しようと言うのか。



「ワタクシの身体を好き放題してくれた連中に魔王の怒りをぶつけてやるのデス!!」


「というと?」


「クリシュリナ教国がグルムンドの遺体を保管していたと、ユージーンから情報を得た。保管していただけならまだ良い。だが、クリシュリナはユージーンにグルムンドの遺体を売ってたんだ」



 いや、正確に言うと、それは構わないのだ。


 魔王の遺体は髪の毛から血の一滴に至るまで使い道のある品。


 売買するのは何も悪いことではない。


 しかし、復讐に燃える少年を利用して、他国に甚大な被害を与えておいて自分たちは儲けている教国のやり方が気に入らない。



「だからカチコむ。ついでに他の魔王の遺体があったらぶんどって来ようかなって」


「ワタクシは単純に、身体を千年も拘束されていた恨みを晴らしに」


「そんなことをしたら、帝国の一件でそこそこ得た信頼が無くなりますよ」



 俺は、正確にはアビスゲイト国は帝国の住人から一定の信頼を得た。

 というのも、俺の配下たちが帝都を守るために戦ったことが大きいらしい。


 帝都民の多くが『自分たちを守ってくれたんだから、信じてもいいのではないか』という考え方を抱き始めたのだ。


 無論、まだまだ『信用ならない』とか『人間を騙そうとしている』みたいな声もあるが、あと数十年も経てば自然と消えるだろう。

 そのうち魔族と人間が仲良くする未来がやって来るかも知れない。


 クラウディアの言うように、その信頼を裏切るような真似はたしかにしたくない。


 なので。



「安心しろ。目出し帽を被って行くから」


「なら安心ですね、とはなりませんよ?」


「大丈夫だって。何も人を殺すわけじゃない。クリシュリナ教国の首都にある大聖堂とやらのステンドグラスを全部叩き割ってくるだけだから」


「迷惑すぎる……」


「人間に迷惑かけてこその魔王デス!!」



 というわけで、俺はグルムンドと共にクリシュリナ教国の首都付近に転移魔法で移動した。


 本当は直接大聖堂とやらに移動したかったのだが……。



「強力な結界だな、これ」


「まさか我々の転移魔法が弾かれるとは思いませんでシタ」


「しゃーない。歩いて向かうか」



 俺たちは首都を囲む壁、その入口となる大門に降り立った。


 大門では武装したクリシュリナの兵士たちが街に入ろうとする者たちの検査をしており、結構な待ち時間となっていた。



「並ぶか?」


「マサカ。ワタクシたちは魔王デス」


「だよな」



 こういう時、魔王という免罪符は罪悪感を抱かなくて済むな。


 俺とグルムンドは列を無視してずかずかと進み、兵士に止められる。



「待て!! 順番を守って列に並ん――」


「おりゃあ!!」


「へぶっ!?」



 止めようとしてきた兵士の顔面にドロップキックする。


 一応、死なないように加減はした。



「カチコミじゃああああああああああああああああああああッ!!!!」


「街中の窓ガラス叩き割ってやりマス!!」


「と、止めろッ!!」


「応援を呼べ!!」



 兵士たちが大勢集まってくる。



「おらあ!! 俺のバットの染みになりたい奴はかかってきなあ!!」


「くっ、な、なんなんだ、こいつら!?」


「せ、聖騎士様を呼べ!! 我々では止められん!!」



 大門を突破した俺たちは街中を闊歩し、観光がてら窓ガラスを叩き割る。



「お? あっちにあるレストランから美味しそうな匂いがするな。終わったら食べに行こうぜ」


「ワタクシ、身体が骨なので食事は不要なのデスガ」


「釣れないこと言うなよー。っと、あれが大聖堂か」



 大聖堂と言うくらいだから、多少は大きいだろうと思っていたが……。


 想像以上の大きさだった。

 荘厳というか、神々しさのある派手さとでも言うのか。

 中々どうして歴史を感じさせる建築物だった。


 しかも辺り一帯に神聖な魔力が満ちていて、俺やグルムンドの身体に少なくない負荷がかかる程だ。



「これはまた、街を覆う結界よりも更に強力な結界が張ってありマスネ。中に入ったら我々の力が大きく減衰しそうデス」


「だな。ま、気にせず行こうや」



 俺とグルムンドは大聖堂に足を踏み入れて、早速窓ガラスを叩き割る。


 この世界の文明レベルでは、透明なガラスはとても高価な代物だ。

 それを全力で叩き割ると快感を感じてしまうのは、俺が魔王だからだろうか。


 しばらく窓ガラスを割っていると、完全武装した騎士達が俺とグルムンドを取り囲む。


 その中でも一番地位がありそうな黄金の鎧をまとった女が前に出てきた。

 綺麗な水色の髪と瞳をした、人形のように整った容姿の美女である。



「そこまでです、悪党!! 私は教国騎士団団長、セレナ・エレオニクス!! 大人しくお縄に付きなさい!!」


「ああん? やんのかコラ?」


「少しは骨のありそうな奴デスネ!! ……ワタクシたち、ものすごーく小物臭くありまセン?」


「今の俺たちは小悪党だからな。気にするな」



 ふと我に返ったグルムンドが耳打ちしてきたが、適当に流す。


 セレナと名乗った聖騎士は、やたらと嫌な気配を放つ剣を俺たちに向けてきた。



「シュトラールさん、あの剣……」


「ああ、神気を放ってやがる。斬られたら超痛い奴だから気を付けろよ。俺はもう耐性があるから平気だが」


「本当にズルい権能デスネ」



 我ながらチートだと思うがね、初見の攻撃は普通に死ぬ可能性が高いから怖いのも難点だよ。



「何をコソコソと話しているのですか!!」


「あー、すまんすまん。それより来るなら来な」


「……大人しく捕まる気はないようですね。ならば、我が神剣の錆びとなりなさい!! はあ!!」



 セレナが神気を纏った剣――神剣を振るう。


 俺は咄嗟にバットで受け止めた。



「な、金属バットで受け止めた!?」


「オリハルコン製だから、な!!」



 バットでセレナを押し返し、足払いをかける。


 その場から飛び退いて回避するセレナだが、そこをグルムンドが追撃した。



「死生魔法・起死回生」


「ぐっ、ま、魔力が、奪われる!?」


「おら!! 止まってたら当たっちまうぞ!!」



 グルムンドがセレナの魔力を吸い取って、彼女の動きを鈍らせる。

 そこを俺が更に攻撃し、セレナは防戦一方となってしまった。



「だ、団長!!」


「セレナ様!! 神剣の力を解放してください!!」


「に、人間相手には使えません!! 消し飛ばしてしまいます!!」



 ほーん? どうやら奥の手があるみたいだな。



「で、でもこのままじゃ!!」


「大丈夫ですよ!! うっかり殺しても、司祭様の蘇生魔法で生き返ります!!」



 あ、それは俺もよくやるなあ。殺しても生き返ったらセーフ理論。


 でも魔王の考えと女神を信仰する国の聖騎士団の人間が同じ考えってどうなのよ?



「それは倫理的にどうかと思いますが!? あと女神様の奇跡をそのような使い方をしてはなりません!!」



 お、セレナは凄く良いことを言うな。



「ですが、想像以上の賊であることは事実……。少し本気を出しますが、死なないようにしてくださいね」


「ササッ」



 グルムンドが俺の背後に隠れる。



「おいコラ、グルムンドこら。人を盾にするな」


「ヤバそうな気配がしましたノデ……。ほら、来マスヨ!!」



 セレナの握る剣から、神気が溢れ出る。



「神剣・真名解放――」



 その時だった。

 セレナの背後に、見覚えのある老人が音もなく立つ。



「そこまでです、セレナ聖騎士団長」


「!? レルゲン司祭様!?」


「え? おじいちゃん?」



 セレナの背後に立っていたのは、以前フレイベル帝国のお城に緊急で呼び出された時にいた女神教のの司祭のおじいちゃんであった。


 相変わらず好々爺然としており、ちょっぴり怪しい。



「し、司祭様、そこまでとは……?」


「そちらのお二人は、教皇猊下のお客人です」


「お客人が大聖堂の窓ガラスを割るわけがないでしょう!?」


「それは、まあ、そうですが……。それでもお客人です。神剣をしまいなさい」


「わ、分かりました」



 セレナが剣を鞘に収め、おじいちゃんがにっこり笑顔で話しかけてくる。



「シュトラール様、グルムンド様、こちらへ。教皇猊下が待っておられますので」


「どうしマス?」


「せっかくだし行ってみるか? 教皇とやらを捻って手打ちにしよう」


「……レルゲン司祭、この二人は本当にお客人ですか?」


「そうですよ。ええ、そうですよ」



 おじいちゃんが大事なことだから二回言ったらしい。


 そうして俺たちは、おじいちゃんに続いて教皇とやらがいる大聖堂の奥へと向かった。


 先程まで暴れていたこともあり、騎士達の目が厳しいが、俺とグルムンドは特に気にしないでゆったり歩いて進む。


 やがて辿り着いたのは、大きな黄金の扉がある部屋だった。


 その扉の前で、おじいちゃんが片膝をついた。



「教皇猊下、魔王シュトラール様と魔王グルムンド様をお連れ致しました」


『うむ。そなたは下がれ、レルゲン』


「はっ。では、私はこれで失礼致します」



 そう言って立ち去るレルゲン。


 俺は黄金の扉を押して、ゆっくりと開いた。


 扉の向こう側には幼い少女が一人。


 その少女を見て、俺とグルムンドは本能的に殺気を放った。



「久しいな、グルムンド。そして――」


「深淵魔法・天獄門」


「死生魔法・輪廻転死」



 俺とグルムンドはほぼ同時に、互いの必殺魔法を扉の向こう側にいた幼女に向けて撃つのであった。






――――――――――――――――――――――

あとがき

「面白い!!」「開幕必殺かよ!!」「続きが気になる!!」と思った方は、作者のやる気に繋がるので感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします!!

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