第21話 大魔王、二度目の油断をする





 相手は死体でも、同格の魔王。


 油断したらこちらが死ぬだろう。だから、速攻で潰す!!



「深淵魔法・アビスハンド!!」



 すかさず魔法を起動。

 俺の足元に魔法陣が展開し、黒い手が這い出てくる。


 そして、グルムンドに襲い掛かった。



「……死生魔法・回天」



 死生魔法。

 グルムンドが【命】の権能を用いて使う魔法だ。


 回天は防御用の魔法で、光の膜を張り、あらゆる攻撃を防ぐ魔法だ。

 恐ろしいのは魔法に込めた魔力を吸収し、本体に強力な回復効果を与えること。


 カタを付けるには、超高火力で一気に仕留める必要がある。


 天獄門よりも威力は低いが、深淵魔法は俺が使える最大火力の魔法である。

 少なくないダメージは期待できるが、さてグルムンド相手にどこまで通用するか……。


 と、思ったのだが。



「あれ?」


「な!?」



 俺の魔法はグルムンドの回天を呆気なく貫いてしまった。


 そのままグルムンドの胴体を貫通し、結構なダメージを与えて行動不能に陥らせる。



「な、何故だ!? たかが下位デーモンの攻撃を、何故魔王が防げない!?」


「……今の感触は……」



 ふと自分の手を見る。


 そして、俺は何が起こったのか瞬時に理解した。


 ふっ。



「ふふっ、ふはははははははっ!!!! そりゃそうか!! お前は死体!! 俺の方が千年長く生きてるんだ!! そりゃ差が開くわな!!」



 つまり、そういうことだ。


 自分ではあまり分からないが、俺は千年前よりも魔力の質も魔法の腕前も上がっているのだろう。


 ましてやグルムンドは狡猾さが厄介な魔王だった。

 その厄介な狡猾さが、操られているせいで発揮できていない。


 これで俺が負けたら、魔王失格だろう。



「さーて、警戒すべき相手が自分よりも弱いと分かった時点で強気に出ようじゃないか」



 え? 小物臭いって?


 くっくっくっ、魔王なんて所詮は勇者に倒される存在。

 小物臭いも大物臭いもあるもんか。



「くっ、下位デーモンが魔王を凌駕するなんて、有り得ない!!」


「あぁ、まずそこからか。ま、別に正体明かしても大丈夫かな」



 俺は変身を解いて、魔王シュトラールの姿になる。



「な……」


「どうも、下位デーモンの魔王シュトラールです。グルムンドへの態度で察しろ、バカ」



 俺の正体を知った宰相の息子(笑)が言葉を失って俯く。


 そして、肩を震わせた。


 ん? なんだ、泣いてるのか? 舐めてた相手が魔王だと知ってビビっちまったのだろうか。



「ククク、ハハハハハハハハハハハハッ!!!!」


「……恐怖で頭がおかしくなったか?」



 宰相の息子(笑)が笑いながら天を仰ぐ。



「そうか、そうか!! 貴様が魔王だったのか!! だったらむしろ好都合だ!! ここで貴様を殺せば、僕の計画は完了する!!」



 余裕な態度を見せる宰相の息子(笑)。


 その様子から察するに、俺への対策が何かあるのかも知れない。



「……計画、ね。ところでヴェインとか、城で働いている人間はどうした?」


「貴様に言う必要は無い!! 人の形をした化け物め!!」


「もし殺してるなら、お前はその化け物と同じようなもんだぞ」


「黙れ!! 皇帝陛下も含めて城の人間は地下に監禁しているだけだ!! 貴様と一緒にするな!!」



 ちょっと煽ったらペラペラ喋るじゃん。


 しかし、ヴェインも城の人間も無事なのか。

 てっきりクーデター的なものかと思っていたが、違うのだろうか。



「お前の目的はなんだ? ちっともやりたいことが分からん。クーデターならヴェインを生かしておく必要も無いだろ」


「クーデター? ふんっ、そんなことするわけがないだろう。皇帝陛下には生贄になってもらうのさ」


「生贄ぇ? なに? お前、邪神崇拝者か何かなの?」


「違う!! 貴様ら魔族を皆殺しにするための、大義名分となってもらうのだ!!」



 ……ああ、なるほどな。



「魔物の群れに帝都を襲わせて、ヴェインを殺し、その罪を俺に擦り付けるつもりなのか」


「そうだ!! 多くの民から慕われる皇帝陛下が死ねば、帝国の民は団結して貴様ら魔族と戦う!! 否、帝国だけではない!! 帝国の属国も、クリシュリナ教国すらも貴様らの殲滅のために動く!! 世界が、貴様らを葬るために!!」



 たしかに、戦争の起爆剤としてヴェインの死は有効だろう。


 宰相の息子(笑)の言動から察するに、まだ生きているようだが……。



「そして、ここで貴様を殺せば、貴様の配下は烏合の衆と化す!! ここで、貴様を殺せば!!」



 それはない。

 俺の配下たちは、俺に万が一のことがあった時のために言い聞かせている。


 ダンジョンを永遠に封鎖して、外の世界には関わるなってな。


 それはまあ、今は置いといて。



「できるとでも?」


「っ」



 俺は全力で宰相の息子(笑)を威圧した。


 俺は少し、怒っている。


 魔王を倒すために策を練るのは良いことだ。

 むしろ無策で挑んでくる輩の方がどうかしてるだろう。


 しかし、そのために同族の命を奪おうとするやり方は気に入らない。


 やるなら正面から来いというのが本音だ。


 

「ふ、ふん!! できるできないではない!! やるのだ!! 僕にはその義務がある!!」


「義務?」



 少し、宰相の息子(笑)の言い回しに疑問を抱く。


 まるで何かを焦っているような……。


 その時だった。


 宰相の息子(笑)が懐から銃を取り出し、躊躇いなく引き金を引いたのは。


 この世界ではまだ珍しい、片手で扱える銃。拳銃だった。



「死ね!!」



 無駄なことを。


 たかが銃火器で俺にダメージを与えられると思っているのなら、大きな間違いだ。


 俺の肉体は如何なる攻撃をも弾く。


 ……あれ? 今日もこんなことがあったような気がする。

 ちょうど今日、油断していたところをエレシアにやられたばかりだ。


 直感。


 数百年ほど感じることが無かった、死への本能的な恐怖が俺を襲う。


 しかし、回避は間に合わず。


 宰相の息子(笑)が撃った銃弾は、俺の脳天を貫通した。



「っ!?」



 思考が鈍る。


 当たり前だ、脳味噌が鉛玉でぐずぐずになっているのだ。

 すぐに動くことはできない。



「今だ!! 畳み掛けろ!!」



 宰相の息子(笑)の合図で、気配を完全に殺していたゴブリン等の魔物たちが至る所から飛び出してきた。

 グルムンドの魔王の力で支配している魔物たちだろう。


 グルムンドの魔力が辺り一帯に漂っているせいで、伏兵の存在に気付けなかった。


 いや、問題はそこではない。


 問題なのは、その伏兵たちが持っている武器が宰相の息子(笑)が持っているものと同じということだ。


 まずい。まだ・・その攻撃はまずい。



「撃てっ!!」



 バババババンッ!!!!


 十数発の弾丸が俺を強襲する。


 顎を、腕を、脚を、腹を、背中を、弾丸が容赦無く貫いた。


 これはまずい。消える。



「やった……はは、やった!! やってやったぞ!! 魔族殺しの弾丸を苦労して作った甲斐があった!!」



 宰相の息子(笑)が勝利の笑みを浮かべる。


 ああ、まずい。このままじゃあ、俺は消えてしまう。


 俺を俺たらしめるもの、俺の、理性が……。



「あ……ああ……ッ!!」



 笑みが溢れた。


 魔王としての本能を上回る理性が消えたことで、俺は壊れる。


 本当の魔王シュトラールが、誕生する。






――――――――――――――――――――――

あとがき

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