第16話 大魔王、魔法使いに正体がバレていた




「今回の依頼は、村の付近に棲み着いたグリフォンの討伐だ」



 列車に搭乗した俺、アリア、メルト、エレシアは詳しい依頼の内容を確認していた。


 いやはや、列車は良いな。

 窓から見える景色が次々と変わり、妙に心が落ち着いてしまう。


 何より最高なのが――



「おい、シュウ殿。聞いているのか?」


「ふぁい、ひいへまふよ」


「……食べながらでは何を言っているのか分からん」


「んごくっ。はい、聞いてますよ。駅弁って美味しいですよね」



 俺は駅で買った弁当を何種類か味わっていた。


 特に美味しいのが焼き肉弁当だ。

 旨味の塊である肉のジューシーな脂が下に敷いてあるお米に染みて、まさしく味の爆弾になっている。


 この組み合わせを考えた奴は天才だな。


 ……それにしても。



「帝国には米があるのですね」


「ああ、それか。私はどうも苦手だが、民衆の間では人気らしい」


「は? お米が苦手ですって?」


「う、うむ? どうにもべちゃっという感じがしてな」



 アリアが視線を逸らしながら言う。


 まさか。米は美味いぞ。きっとアリアが食べたお米の炊き方が悪かったんだ。

 この世界、まだ炊飯器なんて無いからな。


 ……ふむ。今度美味しいお米の炊き方を教えてやろうか。



「……アリア……話の続き……魔族も聞いてろ」



 相変わらず眠たげなエレシアだが、俺に対して苛烈な態度は変わらない。


 若干居心地の悪くなる視線だ。



「そ、そうしよう。えーと、依頼の内容はグリフォンの討伐だ。群れからはぐれたのか、縄張り争いで負けたのか。大型のグリフォンが一匹と小型が数匹、村の近くに棲み着いたらしい」



 グリフォン。

 鷲の頭と獅子の身体を持つモンスターであり、群れで行動する厄介な魔物。


 おまけに頭が良くて、罠に嵌める等も難しい面倒な相手だ。



「でも、変ですね」



 俺は思わず呟いていた。



「ん?」


「何がです?」


「……」



 アリアとメルトが首を傾げ、エレシアは仏頂面で俺を睨む。


 自慢じゃないが、こちとら魔王。


 魔物に関する知識は人間の遥か先を行くという自負がある。

 俺はグリフォンに関するうんちくを話すことにした。



「グリフォンは縄張り意識が強く、上下関係がハッキリしています。群れと群れのボスが勝負して、負けた群れはボスごと勝ったボスの群れに吸収される」


「ふむ。となると、群れからはぐれた線が濃厚か?」


「残念ながら、グリフォンは群れの仲間が迷子になると総出で探し始めます。もっと大事になるんですよ。つまり、村の近くに棲み着いたというグリフォンたちは群れそのもの。群れのボスが大型なら、それなりの数がいるはずですが……」


「事前情報によると、群れの数は大型を合わせても十匹もいない」


「なら、何かあったんでしょうね」



 住処を飛び出してまで逃げた理由が、グリフォンたちにはあるのかも知れない。



「……それが何? 魔物が人間に害を為している事実は変わらない。私達の役目はグリフォンを殺すこと」


「本当に害を為しているなら止めませんよ」



 人間も魔物も、生きるためには戦わなければならない。

 圧倒的な武力を持つ俺が言うのもおかしいが、この世界は文明が発展しても未だに弱肉強食だ。


 弱い奴が悪い。


 まあ、俺は弱い奴は強い奴が責任を持って守るべきだと思うがね。


 そして、強い奴を弱い奴が後ろから支える。


 弱肉強食ではなく、強弱共存。それを実現したのが俺たちのダンジョン改め、アビスゲイト国だ。


 おっと、今はグリフォンの話だったな。



「……どういう意味?」



 エレシアが忌々しそうに訊いてくる。



「グリフォンは縄張り意識が強い。自らの縄張りに立ち入る者には容赦がない。逆に、自分の縄張りではない場所に立ち入る場合は借りてきた猫のように大人しくなります」


「そ、そうなんですか?」


「そうですよ。グリフォンが何もしていないのに、村人たちが怯えて依頼を出した可能性もあります。殺すなら、せめてそのことは頭に入れておいてください」



 いくら生存のためとはいえ、理不尽に殺されることは悔しい。

 長い人生の中で、いや、魔王生の中で辛酸を嘗めた経験は俺にだって少なからずある。


 やるなら徹底的に、互いに全力で殺し合うべきだろう。


 それが一番、禍根を残さない最善の方法だ。



「っと、話してるうちに目的の駅に着いたな。降りるぞ」


「え、あっ、ちょ!! まだお弁当食べてます!!」


「買いすぎだ!! 食べられる分だけ買え!!」



 それはごもっとも!!


 俺は大慌てでお腹にお弁当を掻き込み、三人に遅れて列車を降りた。


 列車から降りると、メルトが馬車の手綱を引いて待っていた。



「あれ? 馬車? メルトさん、車とかじゃないんですか?」


「自動車は帝都でしか普及してませんから。それに、持っているのは大金持ちかお貴族様くらいですよ」


「へー、知りませんでした」



 帝都の中を結構ブンブン走ってたし、もっと普及してるものかと思っていた。



「アリアさんとエレシアさんは?」


「駅員さんに目的の村までの道を訊いてます。私達はここで待ちましょう」


「分かりました」


「……」


「……」


「あ、あの!!」



 沈黙に耐えかねたのか、メルトが話しかけてきた。



「なんですか?」


「えっと、その……」


「?」



 何やら口ごもるメルト。どうしたんだ?



「あの、シュウさんって、魔王さん、ですよね?」


「……ナ、ナニヲイッテルノカナ?」



 なんでバレたんだ!? 俺の変身は完璧なはず!! ま、まさかアリアが話したとか?


 いや、それは流石にないだろう。


 俺の正体が知られたら、間違いなく帝都に混乱を招く。

 彼女のようなしっかり者がうっかり話すことはないだろう。



「えっと、その、私、魔力視の魔眼持ちなので、分かっちゃうんです」


「ま、魔力視……ああ、そうか。それじゃあバレちまうな」



 魔力視の魔眼。


 対象の魔力を色や形として視ることができる特殊な眼。


 石化の魔眼や魅了の魔眼のような強力なものではないが、魔力の流れから敵の次の動きを予測できたりする便利な魔眼だ。


 おそらく、魔王の時の俺の魔力と美少女デーモンシュウの時の魔力が同じだと気付いたのだろう。


 流石の俺でも魔力を偽装することは――できなくはないが、かなり疲れるし、面倒だ。

 しかし、偽装を怠ったせいでこうも簡単にバレるとは思わなかった。


 まさかメルトが魔眼持ちとは……。



「バレたなら仕方がない。このことは黙っていてくれないか?」


「そ、それは、はい。分かっています。多分、国が秘密にしてるんですよね?」


「ああ。バレたら帝都観光ができなくなっちまう」


「か、観光……」



 俺が正体を秘密にしている理由が意外だったのか、メルトが間の抜けた表情を見せる。



「それで? わざわざ俺の正体を暴いて、何がしたかったんだ?」


「あ、はい。その、実は折り入ってお願いがありまして」


「お願い?」


「そ、その、私を――」



 メルトが一呼吸おいて、大声で言う。



「私を弟子にしてくだしゃい!!」



 あ、噛んだ。え? ていうか、弟子って?



「その、例の配信の動画を見たんです。何度も何度も見て、やっぱり魔王さんの魔法は凄いって思って!! だ、だから、弟子にしてくだしゃい!!」



 あ、また噛んだ。


 これは、困ったことになったぞ。






――――――――――――――――――――――

あとがき

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