第14話 大魔王、目が、目があ!!






「ここが冒険者ギルドだ」


「おお、すごい。思ったより人が多いな」



 帝国のお城で会議が終わり、俺はアリアの案内で帝都にある冒険者ギルドを訪れていた。


 冒険者ギルド。あの冒険者ギルドである。


 歴史は女神教の次に古く、名だたる勇者たちの大半がこの組織に所属していたと言っても過言ではない。


 では何故、その冒険者ギルドにやってきたのか。


 先程の会議で決まったことだが、冒険者たちに近隣の村の警備を依頼することが決まったのだ。


 どの村を敵が襲ってくるか分からない以上、戦力を各地に配置する必要がある。

 しかし、兵士だけでは到底手が足りず、自由に動かせる戦力が欲しかった。


 そこで冒険者ギルドの出番である。


 冒険者たちは金さえ払えば、どんな依頼にも飛びつくような連中だ。


 そして、ヴェインという皇帝は国民を守るために金を渋るような男ではない。

 一人当たり、一ヶ月の警備で金貨十枚(平民の半年分の稼ぎくらい)という報酬は破格であった。


 流石はフレイベル帝国。

 古くから冒険者と密に接してきた国なだけあり、扱い方を心得ているな。


 冒険者ギルドに入ると同時に、周囲の視線がアリアとその後ろを歩く俺に注がれる。


 おお、厳つい男ばっかだな。



「いらっしゃいませ、アリア様」


「すまない。今日は冒険者ではなく、一国の皇女として来た。国から依頼を出したい」


「かしこまりました。内容をお聞かせ願えますか?」



 アリアが受付に座る女性に今回の事件の概要を説明する。

 そして、受付が書類を書き始めたかと思えば、それをすぐさま依頼書を張り出す板に貼り始めた。



「……随分と依頼が出されるのが早いな。色々と確認とかあるんじゃないのか?」


「冒険者ギルドは金の匂いに鋭い。おそらく、村が魔族に襲われたことは事前に把握していたのだろう。貴殿を見る目が鋭いのも、その影響かも知れん」



 ん? 鋭い? あー、うん。

 睨まれてる感じはするけど、脅威になりうる冒険者はいなさそうかな。


 しかし、ずっと見られているのは不快だ。


 観光する時みたいに、角や尻尾は隠すべきだったかな。


 そんなことを考えているうちに、張り出された依頼の紙を冒険者たちが一斉に覗き込む。

 すると、凄まじい歓声が上がった。



「おお!! こりゃ美味い依頼だな!!」


「討伐じゃなくて警備ってのがミソだな。これなら運が良ければ戦わなくて済みそうだ」


「んー、でも食糧や宿はこっち持ちだろ? うちは今懐が厳しいからなあ」



 俺を警戒していた冒険者たちはどこへやら。


 国という信頼できる相手だからこそ、冒険者たちは美味しい依頼に飛びついた。

 ふむ、この様子なら結構な戦力が集まりそうだな。


 ちらりとアリアの表情を見ると、冒険者たちを前に少し嬉しそうだった。



「戦力が集まりそうで嬉しいのか?」


「む。いや、それもあるが……。ふふ、最近は冒険者たちもやる気を失くしていてな」


「ん? なんで?」


「冒険者とはダンジョンに挑むものだ。残された最後のダンジョンは国の都合で挑めなくなり、冒険者の間にも不満があった」



 あ、うちのことか。



「近頃は護衛や野良の魔物を狩るばかりで、そういう依頼は依頼主が貴族や豪商でもない限り報酬は少ない。やる気も失せていく一方だった。新しいダンジョンでも見つかってくれれば良いんだが」


「ふむ。じゃあ、うちのダンジョンの表層を開放しても良いかもな」


「……え?」



 俺の呟きに、アリアが目を瞬かせる。


 冒険者ってのは、魔王にとっちゃあ天敵と言っても過言ではない。


 しかし、魔王の一人として言わせてもらうと、自分に挑みに来る者がいなくなるのは寂しい。

 これは魔王にとっての本能のようなもので、抑えられるものではない。


 当然、殺し合いをしたいわけじゃない。俺は常に平和が第一だからな。

 ラブ&ピース。これは俺自身の理性である。

 

 本能と理性の拮抗。その両方を取る方法を、最近は寝る前にずっと考えていた。



「それは、どういう?」


「一種のスポーツみたいにするんだよ。モンスターは俺が作ったゴーレムのみ。罠は非致死性にしとくけど、命の危険を感じるようなもの。奥には俺が待ち構えている、みたいな」


「……それは、少し面白そうだが……」


「ま、やるにしても全然先だし、今は目の前の問題をどうにかしてからだろうが」


「ふふっ」



 不意にアリアが微笑んだ。おお、笑った顔はかわいいな。



「なんだ?」


「いや、なんでもない。少し想像したら楽しそうだな、と。やはり私は、一国の姫よりも冒険者が似合っているらしい」


「お姫様が嫌なのか?」


「違う。ただ、冒険者としての、勇者としての私は何者でもない私自身。それが楽しいだけだ。っと、もう一つの用事を忘れていた」


「あれ? まだなんかあったっけ?」


「貴殿の冒険者登録だ。ダンジョン攻略部に所属する者は冒険者登録が義務だからな」


「そんな義務があったんだ」



 そう言って、アリアは俺の手を引いて受付へと向かった。


 先程の受付嬢が応対する。



「どうかなさいましたか、アリア様?」


「彼……じゃなくて、彼女の冒険者登録を頼みたい」


「え? えっと、そちらの女性は、噂の学園の留学生ですよね? デーモンの……。その、冒険者登録?」



 そりゃビックリするわな。普通に考えて。



「問題ない。お父様……皇帝陛下からの許可も貰っている」


「そ、そうですか。それならこちらの水晶に触れてください」



 受付嬢が受付カウンターの下から水晶を取り出した。

 なんじゃこりゃ? と首を傾げていると、アリアが説明してくれた。



「これは身体能力を数値化する魔導具だ。こうやって――」



 アリアが水晶に触れると、その水晶の中に文字や数字が表示される。



――――――――――――――――――――――


アリア・フォン・フレイベル


体力:1059

筋力:3844

魔力: 962

知力:2253

技量:2738

敏捷:3176


――――――――――――――――――――――



 おお、こりゃ凄い……のか?


 他の人間の数値が分からないから高いか低いか分からないが、アリアは上澄みの人間だ。

 きっと高い方なのだろう。


 ……これ、うちにも欲しいな。


 配下の成長を確かめるという意味でも、一つか二つ譲ってもらえないだろうか。



「ほら、触れてみろ」


「ん、了解」



 俺はアリアに催促されて、水晶に触れた。俺の数値に興味があるのか、アリアが横から覗き込んでくる。


 その次の瞬間。


 水晶が爆発した。破片が目に刺さる。



「いぎゃああああああああッ!!!! 目があ!! 目があっ!!」


「シュト、シュウ殿!?」



 眼球に傷は付いていない。しかし、衝撃は受ける。痛いもんは痛い。



「ま、まさか水晶が爆発するとは……。故障でもしていたのか?」


「い、いえ!! つい先日新品に買い替えたばかりです!!」


「え? ちょ、待って。もしかして弁償しなきゃいけない感じ?」



 新品をぶっ壊しちまった。



「あ、あの、受付さん。ちなみにこの水晶のお値段は?」


「ええと……」



 前世が庶民だった俺からすれば、目ん玉が飛び出るような金額だった。


 いや、俺だって魔王だ。そこそこ金になるものは持っている。


 俺は収納魔法を使い、異空間から自慢の逸品を取り出した。



「これを売れば、多分足りるかと……」



 取り出したのは魔王剣ディアボロス。


 俺が生み出した最高傑作のうちの一つであり、一振りで山を裂き、海を割る威力を誇る。


 これなら結構な金額になるはず。


 何度も何度も試行錯誤して作った、汗と涙の結晶である。

 これを手放すと思うと……。


 うう、涙が出てきた。



「ま、待て、シュウ殿!! 泣くな!! 貴殿それでも魔――ああもう!! すまない、弁償代は皇室が持つ!!」


「……いいの?」


「う、うむ!!」



 や、やったあああああああああああああああああああああああああッ!!!!


 俺が内心で狂喜乱舞していると、砕け散った破片を受付嬢が集め始めた。


 そして、何かに気付いて呟く。



「あら? 数値が……9ばかり……?」



 破片に残っていた水晶の数字を見て首を傾げる受付さん。


 もしかしたら、俺は数字がカンスト以上で水晶がぶっ壊れたとか?

 ……いや、流石にそれはないか。


 こうして俺は冒険者登録を済ませたのであった。






――――――――――――――――――――――

あとがき

多分、大魔王の数値はオール99999+


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