第13話 大魔王、おじいちゃんを警戒する






「か、囲めえっ!! 前衛はシュトラール様を食い止めろぉ!!」


「中衛は前衛へのバフを切らすな!! 少しでも隙を見せたら食い込まれるぞ!!」


「怪我人の手当てが間に合ってねぇぞ、後衛!! 前衛死なす気かぁ!!」



 ダンジョンの一部と呼ぶにはあまりにも広い平原のフィールドで、俺は一万から成る軍勢と対峙していた。


 各部隊の指揮官が怒号のような命令を下す。


 その指示は的確だが、時折慌てて見当違いな動きを見せる部隊もいくつかあった。

 その度に、総大将であるベネさんが全体をカバーする。



「慌てるなッ!! 訓練通りに動け!! 右翼を下げろ!! 左翼を前進させ、シュトラール様を前後から叩け!!」



 ベネさんが遠方で軍勢を指揮しているのが聞こえてくる。


 その動きは堅実で、読みやすい。

 対応するのは軍勢が隊列を為した後でも遅くはないだろう。


 だから俺にとって警戒するべきは、ベネさんではない。



「みんなー!! ばーっと行ってどん!! なの〜!!」



 堕天姫ルシェルヴァーナ。


 ダンジョン内のアンデッドを統括、支配する堕天使である。


 今回の訓練にはベネさんとルシェちゃんの二人が参加しているのだが、よく分からない指示を出すルシェちゃんを一番警戒しなきゃいけない。


 言葉の意味を読み違えたら追い込まれるからな。



「って、おま!? それはダメだろう!?」



 ルシェちゃんの声が聞こえた上空を見上げると、無数の魔法陣が展開していた。


 その魔法陣から、アンデッドの定番モンスター、スケルトンが湧いてくる湧いてくる。

 スケルトンは重力に従って落下し、地上に降り注いだ。


 しかし、俺が驚いたのはそこではない。


 それぞれのスケルトンが、ある魔法を発動していたのだ。

 その魔法とは、爆裂魔法。高威力で広範囲を破壊する魔法だ。


 当然、スケルトン如きではその魔法をコントロールできない。

 とどのつまり……。



「絨毯爆撃なの〜!!」


「おい!! そんなことしたら死人が出るだろ!!」


「今だ!! 全軍進撃!! スケルトン爆弾は気にするな!! シュトラール様が何とかする!!」


「卑怯者!! ベネさんの卑怯者ー!!」



 どうやらベネさんは、俺が死人を出したくなくて上空のスケルトンを全て対処すると踏んだのだろう。


 その隙を狙って、全軍が俺に向かって突撃してきた。


 くっ、こうなったら!!



「お前ら全員麻痺してろ!! 麻痺魔法改・フィールドパラライズ!!」


「「「「「ぎゃあっ!!!!」」」」」



 まずは地上の軍勢を足止めした。


 あとは落下中のスケルトン爆弾だが、こちらは対処が大変だ。


 幸いなのは、スケルトンはルシェちゃんの魔法で生み出した魔法生物ということか。


 配下の魔物とは異なるので、遠慮なく本気で魔法を撃てる。



「混沌魔法・アブソリュートカオス!!」



 魔法を発動すると、俺の足元に無数の魔法陣が発生し、蠢く黒い触手が這い出てくる。


 これ、コントロールが難しいから嫌いな魔法なんだよな。


 触手が上空のスケルトン爆弾を攻撃し、破壊した。

 空中でいくつもの花火が爆ぜる。



「よし!! 何とかなった!!」


「流石はシュトラール様なの!! 凄いの!!」


「ぬぅ、あれに対応されるとは。やはり範囲妨害系の魔法対策が必要ですな」



 これにて訓練は終了。


 そろそろ学校が始まる時間なので、後片付けを二人に命令(ルシェちゃんは多分逃げる)して、俺は美少女に、変身してから学園へ向かった。


 教室に入り、クラスメイトと挨拶を交わす。



「おはようございます」


「あ、ど、どうも、はは」



 しかし、どうにもクラスメイトの歯切れが悪い。


 若干、怯えのような、疑っているかのような感情が見え隠れしている。



「おい!! 今までどこに行っていたのだ!!」



 俺を見つけたアリアが、慌てた様子で駆け寄ってきた。

 よし、彼女に事情を聞こう。



「おはようございます、アリア。何かあったんですか?」


「ああ!! 今はとにかく城へ来い!! お父様と謁見して欲しい!!」


「……分かりました」



 今日は学園を休み、アリアと共に帝城へ向かう。


 娘であるアリアでも、ヴェインは大陸を統べる帝国の皇帝。

 会うには相応の手続きが必要だが……。


 余程の事態なのか、殆ど顔パスでヴェインの下へ向かうことができた。


 ヴェインは会議室で話し合っていたらしく、重鎮たちと円卓を囲んで何やら険しい顔をしていた。



「お父様!! シュトラール殿を連れてきました!!」


「おお、アリアよ。助かった。シュトラール殿、是非貴殿からも意見を聞きたい」


「何があったんだ?」



 俺が問いかけると、重鎮たち、特に騎士団長と思わしきフルプレートアーマーの男が俺を睨みながら怒鳴った。



「白々しい!! 貴様の差し金であろう!!」


「は?」



 なんだこいつ。後でボコろうかな。



「……帝都の近くにある村が、魔物に襲われたのだ」


「……なんだって?」



 ヴェインが言いにくそうな表情で言う。


 俺は詳しい話を聞くことにした。



「昨日の夜、魔物に襲われて逃げ延びた村人が兵士に助けを求めてきた。緊急事態を把握した兵士は手練れを数名連れて村へと向かったのだが……」


「そこに魔王の配下を名乗る魔族がいた!! すでに魔王は貴様だけだ!!」


「……魔王の配下、って名乗ったわけだな? 誰の配下かは言ったか?」



 フルプレートアーマーの男……面倒なので、鎧男と呼ぼう。

 鎧男を無視して、俺はヴェインに問いかける。



「い、いや。魔王の名前までは報告が来ていない」


「……ちっ。ますます分からん」



 俺は先日の出来事、街中でゴブリンに遭遇したことをヴェインに告げた。



「シュトラール殿、そのようなことが起こったならすぐに報告して欲しいのだが」


「今したじゃん」


「……そうですな」



 ヴェインの何か言いたそうな表情は無視する。



「つまり、シュトラール殿は今回の件とは無関係、ということですな?」


「ああ、全くな。冤罪だ、冤罪」


「ふん!! どうだかな!!」


「よせ、クチダーケ将軍!! 先程から言動が目に余るぞ!!」



 え? あの鎧男の名前、クチダーケって言うの?


 ぷっ。面白いから口だけ鎧男って呼ぼう。



「おい、口だけ鎧男」


「そ、それは儂のことか? な、なんだ?」


「俺は今回の件とは無関係だ。あんたらが崇めている女神に誓ったっていい」


「「「「!?!?」」」」



 その場にいた誰もが硬直した。


 そりゃ、人類の天敵である魔王が女神に誓ったらビックリするわな。


 この世界は古くから女神教という宗教がある。


 それこそ、俺がこの世界に転生したばかりの頃からあるので結構な規模だ。

 女神が実在するかどうかは知らんがな。



「ほっほっほっ。魔王から女神様という言葉が出てくるとは思いませなんだな」



 騒然とする会議室に老人が入ってきた。


 どうやらこの場の全員が顔を知っているらしく、老人の顔を見た途端に目を輝かせた。



「おお、レルゲン司祭!!」


「お久しぶりです、皇帝陛下。アリア王女も、壮健そうで何より」


「……このおじいちゃん、誰?」


「なっ、おい、魔王!!」



 俺が老人が何者かを訊ねると、慌てた様子でアリアが耳打ちしてきた。



「この御方はレルゲン司祭だ。お父様の皇太子だった頃、その教育を任されていた御仁で、帝都にある女神教の大聖堂を最高責任者でもある」


「おお、すっごい大物」


「ああ。だからあまり馴れ馴れしく――」


「よろしく、レルゲンじいちゃん」


「なあ!?」



 俺はレルゲンじいちゃんに手を伸ばした。


 すると。



「ええ、こちらこそ。よろしくお願い致します、魔王陛下」



 レルゲンじいちゃんは躊躇することなく俺の手を握り返してきた。


 ふむ、女神教は魔族が大嫌いなはずなんだが。


 ここまで躊躇が無いのは何か裏がありそうで怖いな。

 警戒レベルを高めに設定しておこう。



「さて、魔王陛下もいらっしゃることですし、有意義な会議をしましょうではありませんか」


「そ、そうですな!! シュトラール殿の席も用意させよう」



 レルゲン司祭の登場で場の空気が変わり、会議は続くのであった。







――――――――――――――――――――――

あとがき

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