第10話 大魔王、撃退する





 それから俺は、アリアの案内に従って学園の部活を次々と見学した。

 ぶっちゃけて言うと、興味をそそられるものはいくつかあったが、イマイチというのが本音だ。


 うーん、これなら最初の魔導具研究部に入部だけして、幽霊部員になろうかな。



「ここが最後だ」


「やっと終わりか。長かったな」


「……言っておくが、ここが本命だ。出来ることなら貴殿はここに所属して欲しい」



 そう言って開いた扉には、『ダンジョン攻略部』の名前が刻まれていた。


 ダンジョン攻略部ぅ? 魔王の俺が?


 ……それはそれで面白そうと思ってしまったのは内緒にしておいた方が良いだろうか。



「おお、結構綺麗だな。てか部員は?」



 ダンジョン攻略部の部室には人がおらず、綺麗なものだった。

 というより、物が少ない。強いて言うなら壁にかけてある武具がスペースを取っていることか。



「ここは私が部長を勤める部活でな。主な活動内容はダンジョンの攻略……なのだが、最近は未攻略のダンジョンがめっきり減ってしまって、部員がいない」


「まあ、未攻略ダンジョンなんて俺のダンジョンくらいだからな」


「……そういう意図もあるが、一番の理由は……その……」


「うん?」



 もごもごとハッキリしないアリア。俺の視線に気付いたのか、軽く咳払いをする。



「実は、部活動には最低でも五人が所属していなければならないというルールがあってな」


「この部活は何人なんだ?」


「……私を含めて、四人。その、これは、誠に遺憾ではあるが、是非とも、うちに入ってもらえれば嬉しい……」



 アリアとしても、ダンジョン攻略、すなわち魔王討伐を目的としている部活に魔王を誘うのはおかしいと思っているのだろう。


 しかし、背に腹は代えられない。


 部員をあと一人確保しなければならない以上、相手が魔王であっても利用したい、と。


 その心意気、嫌いじゃない。



「おっけー。じゃあ俺、ここにするわ」


「な!? い、いいのか!? いや、その、非常に助かるが!!」


「気にしなくていいさ。魔王は寛容だからな」



 ……でも、せっかくダンジョン攻略部に入部したのに何もすることが無いってのは寂しいな。

 いや、元々どの部活に所属しても幽霊部員になるつもりだったから、寂しいもクソも無いんだが。



「……無いなら、作れば良いんじゃね?」


「え? シュウ殿? シュトラール殿?」



 攻略できるダンジョンがなくなってしまい、活動できなくなったなら、ダンジョンを作れば良い。


 うん、実にシンプルで分かりやすい。



「勇者アリア。ちょっぴり耳を貸せ」


「な、なんだ?」


「……ごにょごにょ……」


「――!? そ、そんなことが、できるのか?」


「俺は大魔王様だぞ? 不可能は無い」


「……父上に相談してみよう。私から頼めば、必要なものは用意できると思う」



 勇者が悪い顔を見せる。


 少し意外だったのは、アリアが魔王である俺と結託することに困惑を見せなかったことか。


 中々肝が据わっているというか、図太いというか……。

 まあ、どちらにしても嫌いじゃない。



「では、私は早速帝城に行ってお父様に相談してくる!! 貴殿のことだから心配はしていないが、帰り道には気を付けてくれ!!」


「おう、また明日なー」



 嬉々として部室を出たアリアを見送って、俺は帰路に着いた。


 別に転移魔法で自宅ダンジョンに帰っても良いのだが、一応は留学生。

 ヴェインが用意した特別寮に帰る素振りをしておいた方が良いだろう。


 しかし、今日はちょっと面倒事があるみたいだ。



「止まれ」



 寮に向かう途中、日が沈み切った頃。

 近道をしようと路地裏に入ったら謎の黒装束たちに囲まれた。


 それも敵意と殺意がマシマシだ。


 うーん、なんか尾行されてるなあとは思ったけど、ここまで直接的に仕掛けてくるのは想定外だったな。


 下位のデーモン、シュウを演じて話しかける。



「何かご用ですか?」


「これから死ぬ者に話すことは無い。――やれ」



 リーダーと思わしき黒装束の言葉で、一斉に黒装束たちが動き出す。


 ふむ、優秀だな。


 動きから躊躇というものが一切感じられない。おそらく相手は暗殺のプロ集団だろう。


 国の暗部か、あるいは誰かに雇われたのか。そこは想像するしかないが、今は襲撃者を迎え討つことを考えよう。



「――時操魔法・ワールドストップ」



 刹那、世界から色が失われる。


 空に浮かぶ月も星も、全てがモノクロの世界へと変化した。


 世界の時間が、停止したのである。



「うーん、時操魔法は便利だし強力だけど、魔力をゴリゴリ食いやがる……。さっさと終わらせるか」



 俺はピクリとも動かなくなった黒装束たちの腹に拳を一撃入れる。

 命に別状はないだろうが、身動きが取れなくなる程の威力だ。


 時間停止を解除する。



「「「「がふっ!?」」」」



 それと同時に、黒装束たちが口から血を吐いて吹き飛んだ。


 俺は黒装束のリーダーに近づいて、話しかける。



「悪いようにはしないので、目的を話してください」


「……」


「ん? あれ? 死んでる?」



 おかしいな。威力はセーブしたはずだが……。


 そう思って黒装束の顔を確認したところ、全員の顔が青白くなっていた。


 なるほど、奥歯か何かに仕込ませておいた毒を服用したのか。

 情報を絶対に漏洩させない、見上げた根性だ。


 相手が俺でなければ、何も分からずじまいだっただろう。



「――蘇生魔法・リザレクション」


「っ、な、なん、だ?」


「おはようございます。あの世から戻ってきた気分はどうですか?」


「き、貴様、何をした!?」


「生き返らせました」



 満面の笑みで答える。感謝しろよ、黒装束くん。



「くっ、ならば――」


「あ、こら。命を粗末にするなって」



 手に持っていたナイフで自刃しようとする黒装束を止める。


 膂力が違うからな、余裕で止められる。



「先に言っておきますが、何回死のうが生き返らせますよ?」


「……」


「……なるほど。だんまりですか」



 これはいくら拷問しても口を割らないな。



「では、貴方たちの雇い主に伝えてください」


「……何を?」


「『喧嘩を売る相手は選べ』」



 黒装束が気絶しないギリギリの殺気を乗せて、威圧する。


 ビクッと身体を震わせる黒装束だったが、俺の言葉にコクリと頷いた。



「じゃ、お仲間も生き返らせてあげますね」


「な、なに?」


「――蘇生魔法・リザレクション。お仲間の目が覚めたら、人が集まってくる前に退散してください」



 服毒して死んだ黒装束たちが息を吹き返す。


 その光景を目の当たりにしたリーダーと思わしき黒装束は絶句していた。


 俺は黒装束たちを置いてその場を後にし、寮へと戻るのであった。







――――――――――――――――――――――

あとがき

「面白い!!」「執筆頑張れ!!」「続きが気になる!!」と思った方は、作者のやる気に繋がるので感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る