第4話 大魔王、イカれたメンバーを紹介する






「……おかしい。そうは思わないかね、デュラハンくん」


「!?」



 ダンジョンの最下層にある自室。


 俺はそこで、警備を担当しているデュラハンくんに話しかけていた。

 なお、デュラハンくんは首が無いので身振り手振りで何が言いたいのか察するしかない。


 急に俺が話しかけてきたことに驚いたのか、デュラハンくんはガッチャガッチャと鎧から音を立てながら何かを伝えようとしてくる。


 まあ、気にせず俺の話を続けよう。



「いや、おかしいって言ったのには理由があるんだ。……最近、ちっとも勇者が来ない」


「?」


「え? それは良いことなんじゃないかって? それはそうなんだけどさー。こう、急に当たり前だったものが無くなると寂しいっていうのかなー?」



 別に俺だって戦いたいわけじゃない。


 しかし、勇者との戦いが長い長い魔族生で暇潰しになっていたのは事実だ。


 ふむ、久しぶりにこっそり人間の街まで遊びに行ってみるか? ここ数年は外出とかしてないし、どれくらい文明が発展したのか気になる。


 よし、そうと決まれば早速支度を――



「あ、勇者が来たな」



 お出かけしようと決めた矢先に勇者がダンジョンに侵入してきた。


 勇者が持つ女神の印は神聖な魔力を放っているため、ダンジョンに入ってきたら一発で分かるのだ。


 一つ疑問があるとすれば……。



「なんか、今日は多いな……」



 ダンジョンに入ってきた気配を探ってみると、勇者の他に十人くらいの人間の気配がある。


 俺が作成したゴーレムが迎撃しているが、どうやら全員が戦いに身を置く連中ではなさそうだな。一部がゴーレムとの遭遇にビビってるっぽい。



「でもま、来たからには出迎えてやらないとだよな!! デュラハンくん、俺の部屋の警備は任せたぞ」


「ッ!!」



 デュラハンくんが見事な敬礼で俺を送り出す。


 そして、俺は転移魔法でダンジョン内を移動し、最奥(と見せかけているだけの第一層のボス部屋)で侵入者を待ち構える。


 さてさて、前回から二週間は経っているが、勇者アリアはどうやって俺を攻略しようとしてくるのか。


 考えただけでも少しワクワクする。


 やがて、ボス部屋の扉がゆっくりと開かれた。どうやら勇者と謎の集団が来たらしい。



「また性懲りもなく来たか、勇者アリアよ」


「あ、う、うむ。いや、はい。えっと、その、まずはこちらをどうぞ」



 何やらおどおどしている勇者が差し出してきたのは、菓子折りであった。


 あれー? 勇者ちゃん? 何これ?



「……なんだこれは」


「菓子折りです」



 ちょ、本当に何これ!? 新手の罠か!?



「……ふざけているのか?」


「あ、いえ、至って真面目です。それと、今回は戦いに来たのではなく、交渉がしたくてやって参りました。今の私は勇者ではなく、フレイベル帝国の姫として扱ってくださいませ」



 フレイベル帝国。たしか、勇者アリアの実家だったな。


 しかし、急に勇者じゃなくて姫扱いしろとは。


 うむ、まるで分からん!!


 だが、いくら向こうが姫扱いしろと言っても勇者は勇者。

 ならばこちらの魔王としての姿勢を崩すわけにはいかない。



「……話が見えん。何が目的だ?」


「姫様、ここから先は私が」


「あ、ああ。頼む、ラピス」



 勇者アリアと交代して前に出てきたのは、ラピスと呼ばれたメイド服の女性だった。


 如何にも仕事ができそうな雰囲気を纏っている。


 クラウディアといい、ラピスといい、なんでメイド服を着てる奴は優秀そうな奴が多いんだろうか。不思議だ。



「魔王シュトラール様、我々は和平を申し出に来たのです」


「……和平、だと?」


「はい。先日、放送事――とある事情によって、魔王様に敵意が無いことを我々は理解しました。それ故に、我が国のヴェイン皇帝陛下が貴方様と不可侵条約を結びたい、と」



 ほうそう? 今なんて言おうとしたんだ? それにとある事情って?


 いや、しかし。



「……ふむ」



 それは願ったり叶ったりな申し出なんだが!?


 え!? ちょ、待って。何これ? 本当に罠じゃないんだよな!?


 た、確かめないと!!



「何のつもりだ? 貴様ら人類に何の得がある? 貴様らにとって、我らは殺したいほど憎いはずの怨敵。ここで不可侵条約を結ぶ理由が分からん」



 実は、過去にも不可侵条約を持ちかけてきた国はいくつかあった。


 しかし、それは当代の勇者があまりにも弱く、俺に勝てないのでは? と思われていたからだと聞いている。


 当時の俺はその申し出を受け入れたが、その国は強い勇者が生まれるや否や、総戦力で俺のダンジョンを襲ってきた。

 そのせいで配下が傷付けられたし、ぶっちゃけ同じ過ちを繰り返したくはない。


 できることなら不可侵条約は結びたいが、目的が分からない以上、安易にその提案を飲むわけにはいかないな。



「……その、魔王陛下はこちらの魔導具をご存知ですね?」



 そう言ってメイドのラピスが取り出したのは、一台のカメラであった。



「……カメラか。冒険者が映像を記録し、娯楽やダンジョン攻略の資料として取り扱っているらしいが」


「左様でございます。では、その、前回のダンジョン攻略でアリア様が動画撮影ではなく、配信設定にしていたことはご存知でしょうか?」


「は?」



 え? ちょ、ちょっと待って。え? あれって撮影してたわけじゃないの?



「それで、その、魔王陛下がご自身のお考えを述べている様が世界中に流されてしまい……」


「……マジ?」


「はい、マジです」



 よし、ちょっと一旦落ち着こう。ひっひっふー、ひっひっふー。


 え? それは妊婦さんだろって?


 馬鹿め。ラマーズ呼吸法は心を落ち着かせるのにも効果があるんだぞ!! 知らんけど!!



「え、ちなみにどこからどこまで?」


「えーと、全部です」


「全部。あ、全部ですか……」



 つまりなんだ? 俺が回復魔法で魔法使いちゃんを治療したり、長々と一人語っていた場面が全国放送されちゃったってこと?


 やばい。恥ずかしくて死にそう。



「ちょっと勇者!! 生配信するなら一言断ってからにしろよ!! 盗撮だぞ!! ネットリテラシーどうなってんだ!?」


「あ、は、はい、すみません!! ね、ねっとりてらしぃ?」



 はっ!! い、いかん、魔王のキャラが崩れちゃってる!!



「……コホン。ま、まあ、事情は分かった。ちょっと待っていろ。配下と相談する」


「しょ、承知しました」



 俺は転移魔法で一旦最下層に戻り、配下たちを招集する。


 ものの数分で会議室に俺直々の配下が集まった。



「イカれた四天王メンバーたちを紹介するぜ!!」



 誰に向けて言うでもなく、俺は配下たちの名前を呼ぶ。



「まずは不死身のドラゴン、不壊竜ふかいりゅうベネルペンデさんだ!! 愛称はベネさん!! 今は人型だけど、本当の姿は2000mの超巨大モンスター!! 人型はイケメン!! イケメンは死ね!!」


「……主殿、毎度これをやる必要があるのですかな?」


「お次はサキュバスの女王、魔界妃まかいひモルナト!! 愛称はモーちゃん!! 超絶美人で巨乳だけど、気位が高くておすすめしない!! ちなみにサキュバスなのに処女だよ!!」


「王よ、はっ倒しますよ?」


「続いてはダークエルフのボス、黒妖精くろようせいアルエヒナ!! 愛称はアルちゃん!! 無口で何を考えてるか分からない不思議ちゃんだけど、やる時はやるタイプの子!! 見た目はロリだけど十人の子供がいるお母さんだ!!」


「……魔王様……その紹介は嫌……」


「最後は天界から追放された天使、堕天姫だてんきルシェルヴァーナ!! 愛称はルシェちゃん!! 基本お馬鹿!! 本能で生きてるタイプのお馬鹿!! でも実力は四天王最強!! 見た目は美少女なのが余計に残念!! 最後に『これ褒め言葉ね』って言っておくと大体照れる!! これ褒め言葉ね!!」


「えへへ、照れるの〜」



 とまあ、紹介は以上だ。



「じゃ、早速本題な。フレイベル帝国が不可侵条約結ぼうぜって言ってきた。どうすればいい?」


「「「!?」」」


「?」



 四人に対して早速本題を切り出した。


 俺の言葉にルシェちゃんは首を傾げ、その他の三人は難しい顔を見せるのであった。






――――――――――――――――――――――

あとがき

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