ご対面

 朝の食卓を共にした親父も、やはり昨日目にした時よりも、十数年分若々しく見えて……

 つけっぱなしのテレビからは、俺にとっては過去の出来事が、最新のニュースとして報じられていた。

 本当に過去に戻ったのか、と、どこか現実感を欠いたまま、

 トーストを齧り、牛乳で流し込んだ朝食は、どこか味気ないというか、食った気がしなかった。


「んじゃ、行ってきます」


 気を付けてねー、とお袋の声を背中に受けて、朝飯を済ませ、身支度を整えた俺は玄関を出る。


「――っと、瀬奈?」


「おはようっ、陽太!」


 そうして家を出てからすぐ、スポーツバッグとスクールバックを抱えた瀬奈の姿を見つけた。

 よく通る声で挨拶してきた彼女の姿は……

 リボンで纏めた、腰まで伸びた黒髪のポニーテール。

 日焼け止めが今一効かない、と、いつも愚痴っていたうっすらと小麦色に焼けた肌の色。

 黒のセーラー服を纏った、あどけない、若さと活力に満ちた、整った顔立ちの彼女は、まぎれもなく俺が知る中学時代の瀬奈だ。


 彼女は、俺を見るなり嬉しそうに笑って、俺に身を擦り寄せて、腕を組んで……って、ええ?

 このころのこいつは、こんなに距離感が近かったっけか?

 困惑する俺を、咎める様に、唇を尖らせて、瀬奈は告げて来る。


「そりゃ、昨日の今日だし、あたしだって、正直まだ恥ずかしいけど。

これくらい、別にいいじゃん……恋人、なんだしさ」


 ……はい?


 言われた内容を咀嚼するのに、少しの時間を要した。

 俺と、こいつが?というか、先輩とやらはどうしたんだよ。

 記憶が確かなら、この時期には、そろそろ――



「……あのさ、昨日、陽太からコクってきた時、言ったよね。

先輩の方は、ちゃんと断ったって。ひょっとして、まだ寝ぼけてる?

っていうか、今更、嘘コクとか言われたら、本気で泣くからね」


 既にもう……告白、した翌日、だと?

 それに、何故か先輩とやらのは断られて、俺のそれは受け入れられている?

 俺の記憶にある『一度目』とは違った結果になっているのは、何故だ。


 いや、これやっぱり夢か何かなんじゃないか。

 改めて、頬をぎゅう、とおもいきりつねくってみると……普通に痛い。かなり、痛い。

 ジンジンとした生々しい痛みは、紛れもない本物だ。


 瀬奈から組みつかれた腕を引っ張られ……何やってんの、行こうよ、と進む様に促される。

 え、まさか……このまま登校する気、なのか。


 周りの連中に冷やかされたり何なりとか、この年頃なら、気になるものじゃないのか?

 何というか、妙に押しが強いというか……積極的だ。


「……陽太、あの、やっぱり、嫌だった?」


 ただ、心配そうに俺の顔を覗き込んでくる瀬奈をみて、まあいいかと思考を切り替える。

 ……まだ、こいつは『一度目』の瀬奈ではない。

 それを理由に拒絶するのは、道理が通らない気がする。


 更に言うなら……俺から告白して、彼女がそれを受け入れたという形になっている以上、迂闊な真似はしないほうがいい。


「いや、俺もまだ慣れてないって言うか……実感が薄くってな。

ただ、嫌ってわけじゃあ、ない。とにかく、学校行こうぜ。

あんまりぐずぐずしてると、遅刻しちまう」


 それに、ん、と再び笑顔になって、俺の腕を引いて歩き出す瀬奈の横顔を見て……

 何というか、悪くない気分になっている自分に気が付いて、そっちの気とかあったのかな俺、と少し微妙な気分になった。

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