第17話 決戦! レオ連合盟主!

 長い旅を続け、遂にここまでやってきた。

 あからさまな大扉が、前に広がっている。


「オラオラ! 出て来いやぁ!」


 何の感傷にも浸らず、私は扉を蹴り飛ばした。

 向こう側には、30メートルほどの正方形の部屋が広がっている。

 奇麗な黒いタイルが敷かれ、真っすぐカーペットが開かれている。

 黒曜石で囲まれた、ゴツゴツの壁。


 一番向こう側には、金で出来た玉座が存在した。

 狩りをする獅子の如く、狂暴な装飾がされている。

 廊下と違って、地下らしい暗い空間だ。

 青く光るロウソクが、中央の不気味な魔方陣を照らし出す。


 玉座には大剣を携えて、誰かが座っている。

 黒いローブを包みながら、金髪をオールバックにしている。

 頬に十字の傷があり、これまた金色の瞳をしていた。

 クロレオ程ではないが大柄であり、玉座の半分を胴体だけで隠してる。


「ほう。ここまで来たか……」


 ローブの男性は、片手で大剣を持ち上げる。

 ゆっくりと腰を上げて、刃先を私達に向けた。

 ハイレオとは違う。軽々と重そうな剣を持ち上げていた。


「私の予想では、あの姉妹で終わりの予定だったのだがな」

「貴方がレオ連合の盟主ね?」

「キンレオ。真名は忘れてしまったがな……」


 キンレオは軽々と大剣を、素振りした。

 まるで片手剣を握るかのように、軽妙な動きだった。

 両手持ちの剣すら容易く持ち上げる剛腕。厄介ね……。


「貴様ら、何故レオ連合に仇名す?」

「レオ連合には、腐敗貴族が蔓延っているわ。貴方が、それを抑えるべきでしょ」

「その通りだ。我が父の愚かな行為により、この国は腐敗していまった」


 意外な言葉に、私は目を開いて反応した。

 レオ連合の盟主は、腐敗貴族の代表だと思っていた。

 なのに、彼はこの国の現状を憂いている……。


「生まれが良いだけで。力なき者が人の上に立つようになった」


 強い憎悪が籠っているように思えた。

 あの目の意味を知っている。あれは理不尽な運命を受けた者の目だ。

 私が何度も宿してきた瞳。


「貴様は何故この国が、7貴族による、連合制度か知っているか?」

「知るはずないでしょ。私は生まれたばかりなのだから……」

「その方が、権力を保てるからだ。1つの権力だけでは、必ず腐敗と革命が起こる」


 私のその発言に、何も言い返す事が出来なかった。

 確かに1つの権力で支配されれば、いつか腐敗は起こる。

 その際に革命も起こり、権力バランスが崩れる事もある。

 7貴族が平等な権力を持てば、それを防げると言う事なのだろうか?


「そもそも何故権力が必要なのだ? 適正な人物が適切に導けば、国は良くなる」

「私は今まで……」


 権力どころか、人権があったかどうかも怪しい。

 だから権力が何故必要だったのか、私には分からない。

 でも必要だったからこそ、出来あがった社会だと私は思う。


「我は貴族制を廃止し、真の時世者が人々を導く世界を作る」

「その為に、どうして宝珠石が必要なのかしら?」

「盟主と言えど神輿だ。この国、いや世界の全ては最高教会の支配にある」


 最高教会。クロレオの時も聞いた名前ね。


「奴らこそ、腐敗の象徴。教会を倒さぬ限り、支配者が変わっても同じことよ」

「お嬢様……。これはもしかして。宝珠石を渡した方が良いのでは?」


 メイは訴える様に、私に伝えてきた。

 彼女は平民だったのだろう。確かに貴族制の廃止は、良い事かもしれない。

 それでも私は、どこかこの男に危険性を感じていた。


「騙されてはいけません、お嬢様! アイツは最高教会4大高位司祭の1人です!」

「何それ?」


 フォルが違う訴えをするが、私には理解できない。


「最高教会のNo3って事です。つまり奴こそ腐敗の象徴の3番手です!」

「何ですって? じゃあ今までの話しは全て、嘘なの?」


 私の言葉に、キンレオは愉快そうに笑った。


「真実ではある。 確かに私は4大高位司祭の1人だ。だがそれは我が野望の一歩だ」

「教会に属するものが、教会に弓を引くとは思えない!」

「弓を引く気はない。じわじわと乗っ取る気だ」


 キンレオはここにきて、強い威圧を私達に放つ。

 凄いプレッシャーを感じる。


「教会を手に入れ、権力制を廃止して……。私だけが権力を持てばいい!」

「何てことを……。結局権力を必要としてるじゃない!」

「先程の言葉を訂正しよう。何故権力が必要なのだ? 私以外にな!」


 少しでもまともだと思った、私がバカだった!

 キンレオは自分こそが、時世者だと思っている。

 単にそれ以外の権力が、邪魔になっているだけなのだ。


「我が覇道! 貴様らに止められるか?」


 大剣をその場で素振りするキンレオ。

 風圧が発生し、私達は吹き飛ばされそうになる。


 凄い風……。クロレオの時とは訳が違う。

 吹き飛ばされると言うより、筋肉が引きちぎられる様な風だった。

 全身に激しい痛みが走る。もしあんな一撃を喰らったら……。

 私達は骨を折るでは済まされないだろう。


 キンレオは剣を構えたまま、宙に浮かび始めた。

 呪文を唱えて、背後に青い星型の魔方陣を出現させる。

 魔方陣はキンレオの背中に、ピッタリと張り付く。

 

「ぬぅん!」


 キンレオは掛け声と共に、右手を広げた。

 すると周囲の壁から、黒曜石が取り出されていく。

 これがキンレオの魔力。地下に城を作り出すのほどの高位術だ。


「これが最後だ。レオ連合、ひいては世界最強の騎士がお相手しよう!」

「くっ……。チェンジアーム……」

「相手のペースに合わせてはダメよ。私達の戦い方で戦いましょ!」


 異能力を使って戦おうとするケイを、私は止めた。

 そう。今まで異能力に頼って戦ってきたけど、それは本来の戦い方じゃない。 

 私とケイには私達なりの戦い方がある。それを思い出すのだ。

 この世界のルールに則っては、アイツは勝てない。


 私は物体精製で、車を出現させた。

 これが私達の戦い方。現代兵器で、敵を倒すやり方だ。

 

「ケイ! アイツは敵よ! 撃ちましょう!」

「これは……! スーパーマシーンY! 了解しました!」


 私は助手席、ケイは運転席に乗り込んだ。

 他の2人は後部座席に乗り込んでもらう。


 ケイはアクセルを踏んで、車を発進させた。

 この車は特別製。時速300キロまでなら出す事が出来る。

 当然その速度での運転は、慣れていない。

 ケイはギリギリ運転できるラインで、車を動かした。


「その程度で、私を倒せるとでも? ぬぅん!」


 広げた手を前に突き出し、黒曜石を操るキンレオ。

 先の尖った石が、私達に向かって飛んでくる。


「気合よ! 前進!」

「OK! 全員した噛むなよ!」


 ケイはハンドルを切りながら、黒曜石を回避していく。

 私はショットガンを構えて、スコープを取り付けた。

 サイドガラス開けて上半身を出し、キンレオに狙いを定める。


「未知の武器とやらか。だが私には無駄だ!」


 私はキンレオの剣を狙い。発砲した。

 散弾した弾の1つが、キンレオの剣に向かっていく。

 

 キンレオは剣で弾を弾こうする。

 水平方向に剣を振り、弾丸を切り裂こうとした。

 弾と剣が衝突する瞬間、激しい音が鳴り響く。

 音速を超える速度で放たれた弾に、キンレオは反応してみせた。


 だが流石剣の方は耐えられなかったようだ。

 弾丸に削られて、僅かに欠けていた。

 恐らく非常に堅い剣だろうが、銃の前では無力だ。


「我が剣に傷を負わせるとは……。その武器はなんだ?」

「教える義理はないわ!」


 私はバズーカを構えて、キンレオに放った。

 直ぐに弾の存在に気付いたキンレオは、黒曜石で壁を作る。

 爆発音と共に、黒曜石が崩れ去った。

 苦い顔をしながら、キンレオは拳を握った。


「私をここまで愚弄するとは……。許せ……」


 言い切るよりケイの方が、動きが早かった。

 ほんの数秒だけ、車を最高速度まで上げる。

 直進しか出来なくなるが、黒曜石はもうない。

 

 ケイは最高時速でキンレオの事を轢いた。

 キンレオは空中に投げ出される。

 それでも流石の身体能力。空中でバランスを整えた。

 倒れながれも受け身を取り、落下しても対してダメージは入っていない。


「もう一発!」


 ケイはワームホールを、車の前に出現させた。

 車をキンレオの背後に出現させえて、再び轢き飛ばす。

 今度は前方向に飛ばされて、キンレオは黒曜石の壁に突き刺さる。


「まだまだ! 自動操縦に切り替えます!」


 ケイは運転席から窓を開け、ボンネットに向かった。

 フロントガラスの上に立ちながら、ライフルを構えた。

 体勢を立て直したキンレオに構えて、引き金を引く。

 先程よりも素早い弾丸が、キンレオに向かった。


「その技はもう効かぬわ!」


 キンレオが剣を強く振って、ライフルの為に対抗した。

 流石の反応速度であり、特に丈夫な部分を接触させるつもりだ。


「物体精製! ダイヤモンド!」

「物体合成! 弾丸とダイヤモンド!」

「ええ!?」


 飛びかつ弾丸にダイアモンドを取り付けた私達。

 非常に硬い弾丸が、キンレオの大剣と接触する。

 今度は削るどころではない。完全に貫通した。

 キンレオの体も貫通し、内臓にダメージを与えた。


 剣は真っ二つに折れて、キンレオも弾丸に吹き飛ばされる。

 腹部から血を流しながら、その場で倒れるキンレオ。


「総員車から脱出!」

「え……。ってまさかぁ!」


 察したメイとフォルは、急いで車から飛び出した。

 私はギリギリまで乗り続け、車の調整をする。


「トドメじゃ!」


 膝をついて立ち上がるキンレオに、私は車をぶつけた。

 車はキンレオを押しながら、壁に向かって激突する。

 私は激突する前に、車から飛び出て、地面を転がる。

 そのままショットガンを構えて、ガソリン部に狙いを定めた。


 引き金を引いて弾を発砲し、ガソリンを撃ち抜く。

 銃撃音が鳴り響くと同時に、車は爆発した。


「キンレオ。貴方は支配者に、相応しくない」


 確かに志はあったかもしれない。でもやっぱり何処か間違っている。

 自分が上に立つために、多くの人を利用するなんてダメだ。

 上に立つ人は、多くの人に認められ、選ばれた者でなければ。


「これで勝ったつもりか?」


 炎の中から、吐血したキンレオが現れる。

 言葉とは裏腹に、足はふらついて腹部を押さえていた。


「まだ5つしか揃っていないが、見せてやろう……」


 キンレオは懐から、5色の石を取り出した。

 間違いない。あれが宝珠石だ。

 私の手元に2つある。たった2つだけで凄い力を感じる。

 それが5つも、キンレオの手元にあった。

 

 私は嫌な予感がして、冷や汗が背中を流れる。

 キンレオは宝珠石の力を解放するつもりなのだ。


「見せてやろう! 私が追い求めた力を!」

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