第16話 バラエティは台本通りにって、監督が言ってました

 黒曜石と言うのだろうか? 黒い壁に囲まれた通路が続く。

 明かりは電灯がしっかりあり、地下の暗い雰囲気を見せない。

 流石貴族の城取った所か、レッドカーペットが奇麗に敷かれている。

 本来なら豪華な屋敷に、感銘を受けるが今は違う。


 不気味な雰囲気を醸し出している。

 何故ならこの通路、誰も居ないからだ。

 見張りすらいない。私達の足音だけが鳴り響く。

 例え明るくても、この不気味さは打ち消せない。


「怖いくらい、静かね……」

「そうですね。私達の事は、既に知られていrうでしょうし……」


 フォルの言う通りだ。あれほどの爆発があったのだ。

 気づかなければ、マヌケと言うものだろう。

 それでも兵士達が寄ってくる気はない。

 私達を舐めているのだろうか? それとも……、


「それに通路も一本道……」


 言いかけて私は止まった。曲がり角の向こうに誰かいる。

 人影が壁に映り込んだから、、察した。

 近づいて来る訳でもなく、ただ呆然と立っている。


「罠かしら? それとも余裕?」


 私は生きを飲み込んで、影の気配を探った。

 クロレオに比べれば、幾分か細い身だ。

 剣の様なものを床に付けながら、ただ呆然と立ち尽くしている。


「さっさと来なさい。そこに居るのは分かっているわ!」


 女性の声色が、通路に鳴り響く。

 どうやら私達の侵入に、気が付いているようだ。

 当然と言えば当然だろう。

 奇襲は不可能。私はそう判断して、ゆっくりと前に出た。


「あら? 怖気ついているのかしら?」

「だ、誰が怖がって……」

「仕方ないわね。我が強者の波動を、感じ取り……」


 私は曲がり角を曲がって、絶句した。

 そこには台本を持った、女性が立っている。

 私の声に反応したのか、目が合っちゃった。


「……」

「……」


 女性は白いドレスに、片翼を付けて付けている。

 かかとの高いヒールを穿いており、スパッツを身に着けている。

 頭には赤いカチューシャを付けて、奇麗な黒髪を腰で靡かせる。

 身の丈程ある剣を床に刺しながら、片足を上げてポーズをとっていた。


 見てはいけないものを、見てしまった気がする……。

 女性は気まずそうに、固まっていた。

 片足立ちが辛いのか、足をブルブル言わせている。


「あ、お気に召さずに……。私達は先を通りますから……」


 私は女性から離れる様に、先に進もうとした。

 

「これは……。違うのよ! 決して台詞の練習をしていた、訳ではなく……」

「ハイ、カット!」


 いつの間にかサングラスをかけたケイが、メガホンを持っていた。

 台本を片手に、撮影でよく見るパチンっとする奴を持っていた。


「す、すみません監督……。私、NG出しちゃいました……」

「バラエティなら、これくらいが取れ高だよ。ほら、深呼吸して、続きを」

「ハイ監督!」


 再び台本を読み始めた、謎の女性。

 そのままビシッと、額に指をあててポーズを取った。


「この気迫……。貴様は7人衆の1人だな!」

「うん。台詞、一行飛ばしたね。それ僕らの台詞」

「すみません、監督……。私ったら、まだ緊張していて……」


 再び台本に目を通す女性。


「我が名はハイレオ! 我らが盟主の影にして、天より召喚されし、聖騎士である!」


 今度こそビシッと決め名がら、自己紹介をする女性。

 天から召喚されたと言う名目だから、天使の羽を付けているのだろうか?

 それにしても何故片翼? あのお方のマネだろうか?


「我が聖なる光で、貴様らの邪な心を、一刀両断……」


 ハイレオは台本を叩きつけた。


「って、こんなセリフ読めるかぁ!」

「キャラがブレブレ! 結局どんなキャラなの!?」


 メイの言う通り、ハイレオは全くキャラが定まらない。

 ゴホンっと咳払いをして、状況を把握する。

 どうやら彼女がボスへの番人となるようだ。

 

「私を他の者と一緒にされては、困りますわ」

「いや、既に色んな意味で、一緒ではないのだけど……」


 この場で強烈な異彩を放つハイレオ。

 地面から剣を引き抜き、両手で構えた。


「出来れば片手でお相手したいのだけど……。重くて持てない!」


 両手をプルプルさせながら、剣を構えるハイレオ。

 剣はかなり細身だが、見た目より重量があるようだ。

 或いは長さゆえに、バランスを保つのが難しいのかもしれない。


「行くぞ……。チキシ流奥義、心を失った天使!」


 腕のプルプルとは裏腹に、その速度の視認できなかった。

 ハイレオは一瞬で私との距離を詰め、剣を掲げている。

 しまった! ここまで距離を詰められると、物体精製が間に合わない。

 異能力を発動する間もない。私は追い詰められた。


 私は咄嗟に回避出来ず、目を瞑った。

 そんな時、グギッという鈍い音が、腰辺りから聞こえる。

 勇気を出して目を空けると、剣と腰を下ろしたハイレオが膝立ちしていた。


「重い……。腰壊した……」

「大丈夫か!? 今シップを張ってやるぞ!」


 ケイがハイレオに近づき、湿布を取り出した。

 上着を捲って、腰に温かい湿布を貼り付ける。


「体調管理はしっかりしておけと、言っただろ」

「すみません……。監督! って……」


 ハイレオは剣を、水平方向に振った。

 ケイを引き飛ばして、白目をむいている。


「誰が監督じゃぁ!」

「今更ぁ!? 散々乗ってた癖にぃ!」


 ハイレオは剣を引きずり、飛ばされたケイに近づく。

 

「湿布じゃなくて、お灸を張ってくれやぁ!」


 剣を振り上げて、ケイとの距離を0にする。

 このまま振り下げられたら、ケイは真っ二つになるだろう。

 私は彼を助けるために、武器を精製しようした。


 だが一歩遅く、ハイレオの斜め切りが、ケイの体を切りつけた。

 ケイは体から血を流しながら、倒れた。


「ハズレ」


 ケイは爆発した。どうやら偽物だったようだ。

 爆風の影響で、ハイレオは片手から剣を離した。

 すると、剣は物凄いスピードで、地面に突き刺さる。


「やってくれるじゃないの。肩壊したわ」


 緑の土管が生えてきて、そこからケイが現れる。


「今のは僕も危なかったよ。大したスピードだな」

「私は速度重視なの。攻撃力を補うために、剣を使っていたのだけど……


 両手で剣を持ち、掲げるハイレオ。

 その場で地面に向けて、剣を叩きつけた。


「剣なんてやめてやる!」


 剣を真っ二つに折ったハイレオ。

 飛び散った破片を、思いっきり蹴りつける。


「チェンジアーム! ナイフ!」


 ケイは腕をナイフに変化させた。

 吹き飛ばされた剣の破片を、弾き返す。

 

「うおおおん!」


 奇妙な掛け声と共に、ケイに向かって走るハイレオ。

 速度重視と自負するだけあって、一瞬で距離を詰める。

 

「剣のない騎士など、怖くない! 行くぞぉ!」


 ケイは近づかれたのも構わず、肘を引いた。

 同じ様にハイレオも、腕を下げる。

 

「チキシ流奥義!」


 ハイレオの奴、素手で奥義を放つつもりだ。

 一体どんな奥義が出てくるのかしら?


「じゃんけんホイ!」


 ハイレオは拳を握り、ケイはナイフの手を差し出す。


「しまったぁ! 今チョキしかだせなかったんだ!」

「さぁらに! あっち行ってこい!」



 人差し指を天上に向ける、ハイレオ。

 すると天上から、奇麗な光がケイに向かって伸びる。

 ケイは昇天するように、天上に向かって突き刺さった。


「畜生……。中々やるじゃないか!」


 ケイはスポッと、頭を引き抜いた。

 その頭は爆弾に変形していた。


「ええ!?」

「ボンバーヘッド! イエ~イ!」


 ケイは導火線に点火して、ハイレオに抱き着いた。


「あと3秒で爆発します。残り0秒」


 説明中もカウントされていたようだ。

 ケイはその場で、大きな爆発を上げた。

 爆炎に包まれる2人。その影は完全に煙に消える。


「まさか……。自爆!?」


 メイが心配そうに、煙を凝視した。

 そこに1つの影が、姿を現わす。

 影は徐々に濃くなっていき、近づいてくる。

 煙から出て来たのは、ハイレオだった。


「今のは流石に効いたわ……」

「そんな……。ケイさんが、命まで張ったのに……」


 そこに天上からヒューストンと、落ちてくる影ある。

 振り返らなくても、誰だけが直ぐに分かった。


「ただいま~」

「命軽ぅ!」


 ケイは五体満足で、戻ってきた。

 それには驚かないが、ハイレオの丈夫さには驚く。

 ケイの攻撃が、まるで堪えてない。

 思ったより強敵なのかもしれない……。


「この程度が、私の実力だと思っていないでしょうね?」

「なんですって? まだ本気じゃないと言うの……?」

「我がチキシ流はこの程度じゃない。見せてやろう。これぞ超奥義……」


 両手を合わせて、目を瞑るハイレオ。

 次の瞬間、彼女の体が2つに分身した。


「電光石火! どっちが本物か分かるまい!」


 まさか……。圧倒的スピードで、残像を作っていると言うの!?

 何て速さなの……。どっちが本物がまるで分らないわ。


「あぁ……。疲れた……」


 私が迷っていると、ハイレオは動きを止めた。

 息を切らしながら、私達にどや顔を見せる。


「ゼェゼェ……。どうだ! 凄いでしょ!」

「……」


 私は小さな鐘と木槌を作り出した。

 ケイに渡して、彼に全てを託す。

 1度だけ鐘を鳴らし、その場でシーンっとする。


「そんな……! 1点!?」


 しょんぼりと、ハイレオは膝をついた。

 四つん這いになりながら、がっくりと肩を落とす。


「そりゃ私はしがない演者だけどさ……。こうして頑張って場を盛り上げているじゃない……」

「いや、1点だ。今のお前の芸は……」


 ケイはハイレオに近づき、手を差し伸べた。

 ハイレオは顔を上げて、ケイの手を見つめる。


「だがお前の頑張りは、みんな認めてる。だから、お前はこれから伸びる……」

「監督……。監督ぅ!」


 涙を流しながら、ケイの手を握るハイレオ。

 

「監督……。私前から言いたい事があったの……」

「ああ。僕も君に言いたい事があったさ」


 ハイレオはケイに引っ張られて、立ち上がった。

 自分の懐に片手を伸ばし、ごそごそと何かを取り出す。


「実は……。実は私……。ツッコミだったよ!」

「ああ! 知っているよ! お前は敵だ!」


 ハイレオは懐から、ナイフを取り出した。

 同時にナイフになったままの片手を、ケイが突き出す。

 金属音と共に、衝撃が発生する。


「そう。私達は永遠に分かり合えない、ツッコミとボケだったの!」


 つばぜり合いはハイレオが、勝った。

 ケイを吹き飛ばし、ナイフを構える。

 直ぐに別のポケットからもう1本のナイフを取り出す。


「チキシ流秘奥義! 阿修羅!」


 超高速で両腕を縦に振る、ハイレオ。

 残像で腕が何本にも、増殖しているように見えた。

 ナイフをあんな高速で、食らったらひとたまりりもない。

 ここは防御に徹して、迎え撃つしかない。


 その時、グギッという鈍い音が聞こえた。

 同時にハイレオの動きが止まる。


「腰……。壊した……」

「……。私達もう、先に進むわよ?」

「あ、どうぞお通り下さい……」


 私は物体精製で、ミサイルを作り上げた。

 最後に壮大な花火を上げて、ハイレオとの戦いを終わらせる。


「敵キャラなんて、辞めてやるぅ!」


 そんな捨て台詞を吐きながら、ハイレオは散った。

 私達は構わず進んで、奥へと進むのだった。


「って、ツッコミなのに、殆どツッコんでないぃ!」

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