第14話 強襲の飛竜と竜騎士、初めての強敵かもしれない! でも違うかも

「暑すぎません? この洞窟……」


 メイが昨日とは違う、文句を口にしていた。

 私達は今、雪山の近くにあった洞窟を通っている。

 私のレーダーが反応している。この先に宝珠石があると。

 村でたまたま拾った物と合わせて、7つ揃うようになっている。


 ……恐らくレオ連合が集めたものだろう。

 つまりこの反応を辿ると、敵に本拠地に近づく。

 いよいよレオ連合との戦いも、終わりが近づいているようだ。


「我慢しなさい。寒さに比べれば、まだマシでしょ?」

「そうですか? この暑さ、異常な様な。ねえ、ケイさん」


 どうせまたパンイチか、厚着ネタかと思ったら。

 ケイは普通のスーツを着ていた。


「気温40°らしいです。極端ですね」

「暑いじゃない!」

「だから最初から、暑すぎるって言っているじゃないですか!」


 何と言う両極端な、温度なのかしら。

 ここは雪山のふもとにあった、洞窟だ。

 なのにこの異常な暑さの原因。何かあるだろう。

 警戒しながら私達が進んでいくと、その理由がはっきりと分かった。


 洞窟の奥では、溶岩が流れてる。

 まるで火山の中に居る様に思えたが、そうではない

 この溶岩は人工的に作られたものだ。

 目の前には巨大な城の様な建物が、赤い液体を流していた。


「なにかしら、あれ? あそこから、宝珠石の気配を感じるのだけど」

「そうか! レオ連合の盟主。奴は非常時以外表に出ないと言われていた」


 フォルが解説を始めた。レオ連合は、そのトップの家が何処にも見当たらない。

 7貴族を束ねる家が必ずあるはずだが、どの国も偵察で見つけられなかった。

 その不気味さから、レオ連合は今まで攻められずに済んだらいしいのだ。


「見つからなくて当然だ。こんな地下に隠れていたのでは……」

「つまりこの広い空間は、人工的に作られたって事かしら?」

「はい。魔法を使えば不可能ではありませんが……。ここまでの創世術は上位魔法ですね」


 それ程高位の魔法を使える職人を雇ったのか。

 或いはレオ連合の盟主そのものが、高位の魔法使いなのか……。

 どっちにしろあそこが、本拠地で間違いなさそうだ。

 

「行きましょう。レオ連合を、解散させるのよ!」


 彼らに恨みはないが、連合の実情は貴族重視の社会だ。

 平民を奴隷の様に扱う領主が、放置されている。

 そんな者が力を持つなど、許せない。

 私は皆が平等に、可能性を掴める世界に暮らしたい。


 その力が、私にはある。だから私はこの世界を……。

 私は拳を握りながら、城を指した。


「行きましょう。この戦いを終わらせるために……」

「そう言えば、何で私達、戦っているんでしたっけ?」


 そう呟くメイに、ケイが、熱湯をかけた。

 熱かったのか、煙を出しながらメイは地面に転がった。


「熱ぅ! 何でですか!」

「大事なシーンで水を差すな」

「だからって! せめて冷たい水にして下さいよ!」


 私の決め台詞に、熱湯を刺されてしまった。

 気を取り直して、私達は城へ向かおうとした。

 だが私は飛来する謎の物体を見て、足を止める。


 あれは何だろうか? 翼があって人の形には見えない。

 まるでプテラノドンの様に、大きな翼を持っている。


「あれは飛竜です! 竜騎士のみが扱える、高位のペットです」


 ペットと呼ばれると、何だか可愛い。

 でもこの世界でペットとは、意味が少し違う。

 人間の生活に役に立つ、動物と言う意味なのだ。


「竜騎士の中でも、相当高位のものしか、飛竜に跨る事は出来ません!」


 流石フォル。騎士の掟については、詳しいようだ。

 

「早速強敵って訳ね。よし!」


 私は正方形の穴を作り、ケイを中に入れた。

 中から大砲が飛び出して、飛竜に狙いを定める。


「先手必勝じゃぁ!」

「またそれですか!?」


 人間魚雷を発射して、飛竜に先制攻撃を仕掛ける。

 ケイは魚雷となって、徐々に飛竜に近づいていく。

 あとちょっとで直撃する。と言う所で、ケイの動きが止まった。

 飛竜の端から僅かに銀色の鎧が見えた。

 

 槍を構えた騎士が、片手を突き出しながらケイに近づく。

 まさか魔力で人間魚雷を止めたと言うのだろうか。

 騎士は槍を振り回し、ケイの事を吹き飛ばした。

 ケイは真っすぐ大砲へ直撃する。


「はい2回目は失敗のパターンです!」


 今のでこちらの気配は悟られた。

 もう不意打ちは効かないだろう。

 遠距離からの迎撃を諦めて、私達は飛竜が近づくのを待った。

 飛竜が大きくなるにつれ、乗っている騎士の姿も鮮明になる。


 銀色の鎧に身を包みながら、兜で顔を隠している。

 肩パットには鋭い棘があり、長身でガタイが良い。

 細身だった姉妹とは対極的に、パワータイプを思わせる大きさだ。


「4人を倒したのは、貴様らか?」

「そうだと言ったら、どうなるのかしら?」

「7人衆が、よもやこの様な子供たちに負けるとはな……」


 その場で槍を素振りにする騎士。

 すると凄い風圧が発生し、私達は後ずさりをする。


「我が名はクロレオ。連合唯一の聖竜騎士にて、最高教会の騎士である」


 生真面目そうな声を、兜下から出すクロレオ。

 最高教会や、聖竜騎士など聞き馴染みはないが、強そうな事だけは確かだ。

 この騎士は素振りだけで、私達を威圧した。

 凄みがあり、今までの敵とは全く違うタイプだろう。


 典型的な型にハマったタイプとでも言うのだろうか?

 動作1つをとっても、無駄がなく、上品に感じさせる。


「子供と言えど、この地を汚す者は許さん」

「子供じゃないよ。赤ちゃん」

「そんなデカい0歳児が居るか」


 冷静に突っ込まれたが、事実なのだ。

 私は精神年齢は17歳だが、この世界では0歳。

 見た目も精神相応になっているため、みんな忘れがちである。


「我が槍で貫かれる覚悟は、あるだろうな?」


 ただ槍の先端を突きつけられただけでも、ヒヤッとする。

 物凄く冷たい。冷徹な印象を騎士から受けた。

 一方でこの様な真面目な人が、何故レオ連合に与するのか。

 私はその点も気になっていた。


「貴様らの目的はなんだ? 何故連合に逆らう?」

「連合が弱者の犠牲の上で成り立っているからよ」


 逆に問われてしまい、私は答えた。

 連合の現状は、先程述べたとおりだ。

 雪山に行くまでも見たが、それは酷いありさまだった。


「愚かな。それは弱者と強者の違いだ」

「強者は弱者を守るものでしょ! 虐げるものじゃない!」

「強者は弱者を支配する権利がある。その権利を執行するのが、我ら貴族だ」


 どうやらこの騎士と、私の価値観は合わないようだ。

 衝突は避けられないだろう。


「武器を取れ。それくらいの慈悲はやろう」

「ではお言葉に甘えて……」


 私は戦車を精製して、乗り込んだ。

 忘れている人もいるかもしれないが、私は触れたものを即時理解出来る。

 戦車の動かし方も、自由自在だ。


「武器を『取れ』っと言ったんだ! 誰が乗れと言った!」

「そっちだって、飛竜に乗っているじゃない! お互い様よ!」


 私はコントローラを操作して、戦車を動かした。

 外部の様子も、モニターで見る事が出来る。


「食らえ! 命の砲弾!」


 私は戦車を操縦して、砲撃を開始した。

 砲弾が1発、クロレオに向かって飛んでいく。


「危ない! 我が相棒よ、避けろ!」


 慌てて飛竜に指示を出し、上空に逃げるクロレオ。

 砲弾はクロレオの真下に辺り、爆発する。

 同時に粉を周囲にまき散らした。

 粉を吸った飛竜とクロレオは、同時にくしゃみをする。


「ハクション! 何じゃこれ!?」

「火薬の代わりに、コショウを入れたのよ」

「じゃあ、何で爆発したの!?」


 私は物体精製で、再び砲弾を込めた。

 狙いを上空に定めて、2発、3発目を放つ。


「我が相棒よ! その翼で、コショウを吹き飛ばせ!」


 飛竜が火を吐いて、砲弾を迎撃する。

 同時に翼を大きく動かして、コショウを飛ばした。


「我が相棒が居る限り、貴様らの攻撃は届かん!」

「チェンジアーム! 凄い強い磁石!」


 ケイは異能力の一つ、腕を自由に切り替える力を発動した。

 腕がU字磁石に変化させ、磁石をクロレオに向ける。


「な、何だあれは!? 体が引っ張られ……」


 ケイの磁石に引かれて、飛竜ごと吸われるクロレオ。

 鎧が磁石と接着し、身動きを封じた。


「マグネットミサイル!」


 ケイは変形した腕を、ロケットパンチの様に発射した。

 磁石はクロレオ達を付けて、私の乗る戦車に近づく。

 私は砲口を動かして、構えた。


「バッター構えて……。撃ちます!」


 私は砲口を振って、飛んで来たクロレオを吹き飛ばした。

 その際私の乗っている戦車も、磁石に引っ張られる。

 クロレオ達を間に挟んでね。


「オゴォ! なんだこの重量は……」

「脱出!」


 私は戦車から脱出した。磁石は壁に向かって激突する。

 案の定は爆発が発生して、その場に岩を降らせる。

 戦車は下敷きになり、潰された。

 もう少し乗っていたら、危なかっただろう。


 岩が降ってきた所に、煙が発生する。

 クロレオの様子を見ようと、私達は生きを飲み込んだ。


「ほう。少しはやる様だな」

「何ですって……」


 煙から出てきた、クロレオは鎧が半壊していた。

 兜の上面が壊れ、額と目だけが見える。


「無傷ですって……」

「どこがぁ!? 超大ダメージ受けてますよ!」


 何と言う事だ……。あれだけの攻撃を喰らって、平気とは。

 やはりクロレオは、今までの敵とは全然違う……。


「良いだろう。見せてやろう。我が本気を!」


 クロレオが手の平を開くと、周囲の岩が浮き始めた。

 これは間違いなく、先程ケイに使ったのと同じ技だろう……。


「食らうが良い! 我が奥義を!」

「磁石は続くよ」


 生き残っていた磁石が、動き出した。

 そのままクロレオの、股間に直撃する。


「あがぁ!」


 クロレオは顎と額を上下に広げて、目を開いた。

 広げられた手が、磁石の方へ向かう。

 すると浮いていた岩が、全部クロレオの上に落っこちた。


「色々台無しね……」

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