第13話 姉妹合体術! 地味と派手で、ド派手になりました!

 私達は現在、雪崩に巻き込まれている。

 このままでは雪に埋もれて、凍死するだろう。

 なんとか抜け出す方法を、私は考えていた。


「イエーイ!」


 そこでグリレオの声が、鼓膜を動かす。

 彼女はギターの破片で、サーフィンの様に、雪崩に乗っていた。

 華麗な身のこなしで流れに乗り、姉であるキレオを救出する。


「うぅ……。アンタみたいなボケに救われるとは……」

「えへへ! 私だって偶には役にたつでしょ?」

「全然!」


 グリレオはキレオを持ち上げられず、その場で引きずっている。

 引きずられたキレオは、顔を雪に擦りつけられている。


「このまま一方的に、攻撃しちゃおうかなぁ~?」


 グリレオは明るい口調で、私に近づく。

 まずい……。現時点では、雪崩に巻き込まれている……。

 身動きできないこの状況で、攻撃されると……。

 なんとかして脱出をしなければ!


「流石ロックな奴だな。だが調子に乗るなよ!」


 ケイはひょいっと、雪崩から抜け出した。

 その両手にはトランペットとリコーダーが持たれている。

 物体合成で、両者をくっつけるケイ。

 

「僕は超能力使いだ。雪崩なんてヘッチャラさ!」


 グリレオの耳元に近づくケイ。息を大きくすって、リコーダーを口にはさむ。

 一気に息を吹くと、トランペットから大きな音が鳴り響く。

 どうやら物体合成は、楽器にも影響するようだ。


 耳元で大きな音を鳴らされたグリレオは、のけ反った。

 ギターの上で体勢を崩し、なんとか乗り続けようと体に力を入れる。


「くっ! なんてロックな攻撃なの!」

「まだまだ! カスタネット!」


 ケイはカスタネットを取り出して、物体合成を行う。

 彼が連続でカスタネットを叩くと、トランペットから音が鳴る。

 超高速でカスタネットを叩き、次々と大きな音がなる。


「耳が……。でも私のロックも終わらない!」


 グリレオはマイクを取り出した。

 マイクに口を突きつけて、大きく息を吸い込む。


「ザ・デェ~ストロォ~イ!」


 いつも間にか、スピーカがグリレオの左右に置かれていた。

 スピーカから大きな、グリレオの声が鳴り響く。

 ケイは音にやられて、思わず耳を塞いだ。


 そして雪崩が強くなった。

 勢いが上がった雪崩に巻き込まる私達。

 雪山の最下層部にまで、流される羽目になった。

 雪の中に閉じ込めれれて、身動きが取れなくなる。


「みんな無事か!?」


 不意に体が宙に浮き、大根の様に引っこ抜かれる。

 どうやらケイが、超能力で私達を出したようだ。


「私は大丈夫よ。メイとフォルは?」


 私は周囲に目線を動かした。

 メイの姿は確認出来た。だがフォルは何処にも居ない。

 まさか雪崩で逸れてしまったのだろうか?

 早く探さないと、彼女の身が危ない!


「人参パワー!」


 不意にフォルが地面から、飛び出してきた。

 その口にはニンジンが加えられている。

 その後再び地面から、何かが飛び出してきた。

 またしてもフォルが飛び出してきた。


「好物の人参を食べた事で、復活しました」

「増えてる!? なんでぇ!?」

「生物の死骸を玉ねぎに運んだからです!」


 もう1人のフォルは、本体に吸収される。

 本体は緑色の光を纏いながら、両肘を引いた。

 どうやらパワーアップしたみたいだ。


「フォルさんまでボケないで下さい! 仕事が増えます!」

「仕方ないでしょ、メイ。キャラが薄かったんだから……」


 私はフォルの事を、弁護した。

 彼女は生真面目で、裏方に接したせいで、影が薄くなった。

 なんとか存在感を得ようと、必死なのだろう。


「グリレオ達はどうなってのかしら?」


 彼女達も大きな雪崩に巻き込まれたはずだ。

 流石に強くなった雪崩に、グリレオも巻き込まれただろう。

 そう思っていたが、どうやら私は甘かったようだ。


「イッエーイ!」


 もはや聞き馴染みになった、その声が聞こえてくる。

 グリレオはスノーボード様に、ギターの上に立っていた。

 華麗にトリックを決めながら、キレオごと着地する。


「この程度で私達が、倒せると思った?」

「くっ……。細身にしては、やるじゃない……」


 どうやら私は、グリレオの力を大きく見誤ったらしい。

 細身の体で、グリレオは奇麗な運動神経を見せる。

 彼女は囮役らしいので、動く方でトレーニングされていたのだろう。


「貴方達……。よくも私をここまで……」


 一方のキレオは額から血を流している。

 相当怒っているのか、眉間にシワを寄せて、目を充血させている。

 

「グリレオ! こうなったら、最終手段を使いましょう!」

「よっしゃー! 奥義いっくよぉ!」


 奥義ですって? 奴らまだ隠し玉を持っていたと言うの?

 2人は同じ呪文を唱え始めて、目を瞑る。

 

「これぞ奥義。人間合体!」


 2人の体引き合うように、近づいていく。

 接触と同時に、眩い光を放った。

 光の中で、2つの影が1つになっていくのが見える。

 光が消えると、そこにはグリレオともキレオとも一致しない新たな少女が出現。


 金色の髪の毛の先が、少し黒髪を帯びている。

 発光塗料で塗られた服を着込み、ギターを持っていた。

 手にはオタ芸に使われる、ペンライトが握られている。


「我が名はデハド。キレオとグリレオの合体である」

「双子だから、ほぼグリレオになってるぅ!」


 メイのツッコミの通り、見た目は殆どグリレオだ。

 キレオの成分を探す方が、難しい。

 殆ど間違い探しのレベルじゃない……。


「きっと中身が、キレオなのよ……。バランスとっているのよ……」


 私はそう思い込む事にした。


「この姿になった私は、今までよりハードロックだぜ!」

「中身もほぼグリレオだぁ! 合体と言いうより吸収されてるぅ!」


 何と言う言事だろうか。グリレオが更にパワーアップしたと言う事か。

 そうなると厄介だ。グリレオはボケている様に見えて、かなりの実力者。

 このままでは勝ち目がないだろう……。


 私は思わず膝をついた。雪崩で大分体力を失ったようだ。

 体が冷えて来る。何処かで暖を取らないとやられる……。

 

「お嬢様。ひとまずあの洞窟へ逃げ込みましょう」


 ケイが近くにあった、洞窟を指した。

 あそこなら吹雪の影響も受けないだろう。

 何より温かそうだった。


「そうね。ここは一時撤退をしましょう!」


 私達は一目散に、洞窟へ向かって走った。

 洞窟の中は暗いが、外よりかなり温かい。

 当然グリレオが背後から、追ってきているはずだ。

 迷っている暇はない。私達は必死に洞窟の奥へ走った。


「お嬢様。道が別れています」


 ケイは別れ道を見つけて、呟いた。

 洞窟は迷路の様な構造をしている。

 いくつもの別れ道があり、複雑な構造をしていた。


「適当に進みましょう!」


 私は皆にそう提案した。

 行き止まりにぶつかればアウトだが、考えても仕方がない。


「でもお嬢様、万が一デハドと遭遇したら……」

「その心配はないわ。後ろを見なさい」


 今まで振り返る余裕がなかったから、気づかなかったが。

 デハドは暗い洞窟で、派手な光を帯びている。

 そのせいで居場所がもろバレ出会った。


「お嬢様。ならば僕が奴を引き付けます」

「ケイ……。大丈夫なの?」

「はい。皆さんは安全な所に隠れてください」


 そう言って格好つけるケイは、まだパンイチだった。

 どのみち服は雪崩で雪の中だろう。

 寒くないのだろうか? 今回に関しては目立つから良いけど。


 私達は横道に隠れて、デハドが来るのを待った。

 デハドは足音も豪快で、近づくのが直ぐに分かる。


「おい、ロック! ここらで決着と行こうぜ!」

「ヘイ! ロック! 時間稼ぎは目に見えているYO!」


 どうやら作戦はバレているようだ。

 それでも乗ってくれる所が、グリレオと言う所か。


「見せてやる。僕の最後の異能を!」


 遂にケイが、5番目の異能力を使う。

 説明書を読んでいないので、私にはどんな能力か分からない。


「必殺! オーケストラ演奏!」


 ケイが指揮棒を持つと、背後から大量の人形が出現。

 彼が指揮棒を振ると、それに合わせて人形が演奏開始。

 急にクラシックな音楽が流れ、洞窟に鳴り響く。

 次の瞬間次々と、デハドに向けてミサイルが飛んでいく。


「演奏をしている間、ライノが飛んでくる」


 一発は小さない威力だが、1000発は撃たれている。

 デハドは防御するが、ミサイルは爆発する。

 演奏が続く借り着、ミサイルは1000発ずつ撃たれていく。


「そっちがクラシックなら……。こっちはモダンよ!」


 ミサイルに耐えながら、デハドはマイクを取り出した。

 再びスピーカーが左右に出現し、マイクに接続される。


「デェ~スボイス!」


 大きな音で、ミサイルが次々と撃ち落とされていく。

 私達はその隙を突いて、デハドの横をすり抜けた。

 来た道を戻り、洞窟の外に向かって走り出す。


「私に考えがある。ケイが作ったこのチャンスを、逃さない!」


 私は洞窟の外に出て、物体精製を発動した、

 消防車を作り出して、ホースを構える。


「ガソリン放射!」


 内部に詰まった大量のガソリンを、洞窟へ入れる。

 放水の威力は高く、奥の方まで届いているはずだ。

 即座に物体精製を行う。私はダイナマイトを作り出した。

 導火線を添加して、洞窟に向けて投げつける。


「ええ!?」

「伏せなさい!」


 私は2人に爆発に備える様に、指示を飛ばした。

 その場で身を低くして、爆発に備える。

 ダイナマイトの爆発と共に、洞窟の出入口から大きな炎が上がった。

 

「まだまだ! ガスタンク!」


 私はガスタンクを作り出した。

 ひょいっと隣から出てきたケイ。

 彼はガスタンクを洞窟に向けて投げつけた。


「総員僕に捕まれ! 退避だ!」


 私達は躊躇しながら、ケイの体に触れた。

 彼はテレポートを使って、雪山から離れる。

 十分離れたふもとの町で、雪山を確認。

 雪山は大きな爆音と共に、完全崩壊した。


「や~ら~れ~た~」


 最後に壮大に吹き飛ぶ、デハドの姿が見えた。

 あれだけやっても、死ななかったようだ。


「トドメじゃ!」


 私は吹き飛ぶデハドの上に、鉄球を出現させた。

 鉄球はデハドに乗りかかり、そのまま地面に叩きつける。

 デハドは2人に分裂しながら、鉄球の下敷きへ。


「命まで取る気はないわ。無事ならそれで良しよ」

「今、『トドメ』とか言いませんでした?」


 メイを無視して、私は空を眺めた。

 まだ黒い雲で吹雪が止まない。

 まるでこれから先の冒険を、暗示しているかのような、不吉な天気だった。


「そんなわけがない」


 最後にケイが、看板をもってそう言った。

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