第12話 雪山の演奏会! 雪崩に注意!

「何で雪山に来ているんですかぁ!?」

「騒がないで。雪崩が起きるでしょ」


 私は大声でメイを叱った。

 私達は今、雪山に来ている。無論ただ遊びに来たわけではない。

 宝珠石と呼ばれる、レオ連合が集めているものがここにあるのだ。

 

 争いに興味はないが、凄い力を秘めている。

 そんな物を、悪名高いらしいレオ連合に渡す訳にいかない。


「ポカポカしても、氷点下ではやはり寒いですね……」


 メイが音を上げるのも分かる。

 防寒具を着込み、体を温めても切り裂くような風が吹く。

 こんな場所に薄着出来たら、それこそ自殺行為だろう。


「寒い……。これは体力が奪われますね……」

「流石のケイさんも……」


 メイと私はケイの格好を見て、絶句した。

 気が付くと、ケイは白いブリーフ一枚になっていた。

 カメラを片手に、震えている自分を写す。


「何でそんな格好!? しかも自撮り!?」

「この冬は! 薄着で決めるんじゃ!」

「何も決まってないですよ! 薄着でもないし!」


 メイが懸命にツッコムが、ケイには無駄だろう。

 昔から彼は、雪山にパンイチと決めているのだ。

 そして必ずスクショを取る。主人公を虐めて楽しんでいた。


「早く服着てください! 死にますよ!」

「大丈夫。鎌倉作ったから!」

「早! しかもデカ!」


 ケイは人が4人は入れるであろう、鎌倉を作っていた。

 その中に入り、焚火を入れて、暖を取る。

 すると焚火に向かって、水がポタポタ落ちる。


「雪だから、焚火で溶けているぅ!」


 ケイは垂れてきた水滴に、手を伸ばした。


「うおおお! 燃えてきたぁ!」


 ケイは一瞬で、鎌倉を溶かした。

 そのまま地面の雪も溶かし始め、徐々に埋もれてきた。

 足がすっぽりと入り、身動きが取れなくなる。

 そのまま体育座りをして、膝に顔を付ける。


「燃え過ぎた……」

「世話の焼けるやつね……」


 私は物体精製で、ケイの背中に磁石を取り付けた。

 クレーン車を用意して、ケイを引っ張りだす。

 すると彼の足には、青色に光る球体がくっついていた。


「これは……。宝珠石だな」

「なんで分かるんですか!?」

「触れただけで、エネルギーが溢れるんだ」


 どうやらケイは、特別な力を感じているようだ。

 不思議な力を持つ、宝珠石。

 雇った兵士の話によると、それは7つあるらしい。

 こんなものが7つもレオ連合に渡ればと思うと、ゾッとする。


「イエーイ! 流石姉さん! 泳がせたら、本当に見つけたよ!」

「誰!?」


 雪山の上部から、ギターの様な音と声が聞こえた。

 振り上げると、ライトで照らし、センスを持った少女が経っている。

 奇麗な着物を着て、金色の長い髪を塗料で光らせている。

 謎の物体を腰に垂らしながら、手を振り回していた。


「コラァ! 雪山でそんな物鳴らさない! 雪崩るでしょ!」

「それは失礼! 実は引いた事ないんだよ。初めて見るから」


 ギターっぽいものの先を持つ、謎の少女。

 地面に向けて、思いっきり叩きつけた。


「私、最高にロックンロールでしょ?」

「まさかこの世界にも、ロックの文化があるとはな」


 パンイチのケイが前に出て、リコーダーを構えた。


「だが貴様所詮二流! 我がバンドの力を見せてやる!」

「リコーダーでバンド…?」


 どうやら音楽の文化は、私達と変わらないようだ。

 メイはリコーダーの名前を、言い当てた。


 二流と言う言葉に反応したのか、少女が眉をひそめる。

 懐からカスタネットを取り出し、ニヤリと笑った。


「今の戯れよ。我がロックの力は、こんなものじゃない!」

「なに!? どうやら貴様の実力を見誤ったようだな……」

「ふ。私取ってレオ連合7人衆を伊達にやっていないわ」


 カスタネットを構えた、少女はレオ連合の刺客のようだ。

 細身の体で、戦いとは無縁そうな華奢な見た目だが。

 堂々と出てくるからには、実力に自身があるのだろう。


「我が名はグリレオ! この世で最も目立つものである!」

「ならこちらも名乗ろう。僕の名はケイ! この世で最も地味な奴である!」

「何処がですか!? ある意味この場で、最も目立っています!」


 メイのツッコミも虚しく、ケイはパンイチのまま少し前に出る。

 グリレオと名乗る少女も、徐々にケイに近寄った。

 緊張感が高まる両者。あの少女の実力はいかなるものか……。


「いくぞ! 最初から全力だ!」


 ケイはリコーダーを拭き始めた。

 息が全く安定していない、下手な演奏だ。

 リコーダーをここまで、下手に吹ける人が他に居るだろうか?

 もはや一種の音源攻撃である。


「ならこちらも!」


 細い腕を動かして、カスタネットを鳴らすグリレオ。

 絶妙にリズム感のない、不安定な音だった。

 

「こ、これは! 絶妙に下手な2人が合わさって……」

「何も起きてないです! ただ不快な音が鳴っているだけです!」


 あまりの酷い演奏っぷりに、脳にダメージが入りそうだ。

 私達は慌てて耳を塞いだ。あまり効果はない。

 ケイはとグリレオは無駄に大きな音で、演奏している。


「うぅぅ……! 真面目にやれぇ!」


 私はバズーカを発射した。下手くそ2人を、爆撃する。

 

「何で私までぇ!?」


 知らない少女が、爆発に巻き込まれていた。

 グリレオと瓜二つ、髪の色以外で見分けがつかない少女だ。

 恐らく双子なのだろう。姉妹で私達を狙ってきたようだ。


「そのバズーカは、この場でムカつく奴らに、飛んでいくのよ!」

「私、喋ってすらいない! そもそも、姿隠していたのに!」

「不意打ちを狙っていた所が、ムカつく」


 私の意志と関係なく、バズーカがムカつく奴に狙いを定める。

 それがこの技の真理だった。


「貴方もレオ連合の1人ね?」

「そうよ、我が名はキレオ。7人衆最強の暗殺者なり」


 私の問いかけに、少女は雪を払いながら答えた。

 グリレオに比べて、クールな印象を受ける。


「私は今まで、暗殺を失敗した事がなかった。初めて失敗したわ」


 暗殺とは本人にも、気づかれず殺害する必要がある。

 真っ向勝負で殺すとは、訳が違うのだ。

 彼女は陰に隠れて、確実な方法でバレずに殺しを行っていたのだろう。

 所謂殺しのプロだ。現在吹雪が拭いている。


 少し離れただけで、ホワイトノイズで見失う。

 姿が見えなければ、圧倒的に不利だ。


「あのバカは、私の妹よ」


 キレオは親指で、背後を指した。

 そこには指揮棒を振り回すケイと、それに合わせるグリレオが居た。

 グリレオは全く音のならない、トランペットを動かしている。


「いつの間にか、オーケストラになっているぅ!」


 ゴホンっと咳払いをして、アピールをするキレオ。

 意外な状況に、会話の流れが逸れた。


「バカ妹が敵を引き付け、私が暗殺する。それが私達のやり方よ」

「どうやら今回は、その流れが外れようね」

「ええ。勿論、真っ向勝負でも負ける気はないけど」


 キレオは懐から包丁を取り出した。

 ナイフではない。肉を切る為の刃物。

 痛めつける気はない。殺すと言う意思がそこに見えた。

 

「即死するか、毒殺でじわじわ死ぬか。選ばせてあげるわ!」


 嫌味ったらしい笑みで、包丁を構えるキレオ。


「良いわ! 相手になって差し上げます!」

「流石お嬢様。頼もしい限りです!」

「フォルがね!」


 私はフォルの背中を、軽く押した。

 僅かに前に出たフォルが、慌てて私に振り返る。


「嫌です! どうせ私が行っても、やられますよ!」

「そんなもの、やってみなきゃ、分からないでしょ!」

「初撃を交わされて、『何!?」ってなり、噛ませになるのが、お決まりでしょ……」


 やる気のないフォルに、私は溜息を吐いた。


「分かったわ。貴方の気持ちはよく分かった」

「でしょ? だからお嬢様がやってください!」

「んな訳あるか! とっといきなさい!」


 私は鋼の拳で、フォルを殴り飛ばした。

 彼女は真っ直ぐに、キレオに向かって飛んでいく。


「包丁では鎧を着れない。だから首元を狙ってあげる」


 包丁を構えて、首に狙いを定めるキレオ。

 確かに騎士であり、鎧を着たフォルでも兜はない。

 頭だけは無防備な為、的確な判断に見える。


「変化球!」


 フォルはキレオの目の前で、地面に向かって落下した。

 急に角度を変えた彼女を狙えず、キレオは空振りをした。

 流石に暗殺者なだけあって、最低限の動きだった。

 それでも僅かに体勢を崩す。


「頭を狙うのは素人よ。プロなら、まず胴体を狙って弱らせてから確実に倒すわ」

「お嬢様! 何のプロなんですか!?」


 映画で見た知識だけど、銃では絶対頭を狙わない。

 それが私の中での、常識だった。


「そして第5の異能力! 時間操作!」

「時間操作? どう言う技何ですか?」

「物の時間を自由に動かせるのよ。巻き戻しも早送りもね!」


 私は実践して、メイに見せる事にした。

 フォルに向かって異能力を発動し、彼女の時間を戻す。

 彼女はキレオの顔面に直撃してから、私の下に戻ってきた。


「ええ!? フォルさん、物扱い!?」

「今まで地味だったし、背景みたいな存在だったからな」


 グリレオと演奏を続けるケイが、口をはさんできた。

 異能力的には、物と判断されたらしい。


「更にもう一回再生!」


 フォルは再びキレオに向かって、飛んでいく。

 鼻時を垂らしてうずくまるキレオ。

 そこへ再びフォルが直撃。

 今度はのしかかる形で、キレオに落下した。


「重い……。貴様、別けの分からん術式を、使って!」

「重いのは鎧ですからね! 体重はそこまでじゃないです!」

「良いから退きなさい!」


 フォルを腕で退けようとするキレオ。

 だが細い腕に、力が入らない。

 恐らく速さを意識して、余計な筋肉をつけていないのだろう。

 全くフォルが持ち上がる気配がなかった。


「今だ! 今ならキレオとグリレオが一直線に!」


 私は物体精製を使い、光の矢を作り出した。

 弦を引いて狙いを定め、青白く光る矢を放つ。


「あれ? お嬢様……。このままいくと……」


 矢はキレオとフォルを貫通して、そのままグリレオの下へ。

 グリレオは飛んで来た矢い気づき、キャッチした。


「ふ、無駄よ!」


 私は指を鳴らした。次の瞬間矢が大きな爆発を発生させる。

 その爆風に吹き飛ばされて、ケイとグリレオは吹き飛んだ。


「2人余計に倒しているぅ! しかも一直線関係ない!」

「これが私の戦い方よ!」


 そうやって私が胸を張ると。雪山が嫌な揺れを始めた。


「くっ! あの2人の演奏のせいで……」

「いいえ。お嬢様の爆発のせいです……」


 雪山上部の雪が、崩れ去った。

 崩れた雪は雪崩となって、私達を包み込んでいく。


「きゃあ! どうするんですか、この事態!」


 雪崩に巻き込まれながら、メイはツッコミをいれる。

 そこへケイが割り込んできた。


「決まっているだろ。次回に持ち越しだ」

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