第11話 精神はバランスが大事! ワッショイ!

「仕切り直しと行こうか」


 ブルレオはハンカチで、手をふきながらトイレから出てきた。

 まだ腹部を押さえながら、額に汗を浮かべている。

 

「貴方の妖術は破ったわ。もう勝ち目はない」


 ニーナはブルレオに、降伏するように伝える。

 

「この程度、我が術の序ノ口に過ぎない」


 ブルレオは降伏を拒否して、再び宙に浮かんだ。

 仮面からはみ出る瞳を、青く光らせた。

 ニーナの真下に、青い魔法陣が描かれる。


「我が第2の妖術! それは相手の心に直接入り込む事だ!」


 ブルレオは青い煙となって、姿を消した。

 煙はニーナに吸われて、体内に入っていく。

 するとニーナは酷い頭痛に襲われた。


「くっ! 精神への直接攻撃……。心が壊される……」


 ニーナは胸にも痛みを感じていた。

 まるで心が引き裂けれるように、冷たい感触が走る。

 咄嗟に物体精製を行い、イヤホンをスマホを作り出した。


「こんな時は……。あの人の言葉を聞きましょう!」


 ニーナはイヤホンを付けて、とある動画を再生。

 自分を鼓舞するために、必死でブルレオに抗い続けた。


 ブルレオはニーナの心に入り込み、内部を攻撃している。

 ハート型の物体に、傷口が開いている。

 彼女の心の傷を表現しているのだ。


「これは良い。この傷口を開いてやろう。ん?」


 ブルレオの眼前に、脳みその様なものが現れる。

 脳にはデバイスの様なものがついている。

 その中に青い光が入り込む。デバイスを通ると、光は黒くなる。


「僕はネガティブコンバーター……。全てを闇にする……」


 どんな物事もネガティブに変換する、デバイスだった。

 脳に入る全ての情報を、マイナス思考へ。

 目に入るもの全てを、耳で聞こえる音が。

 全て負の感情へと蓄積されていく。

 

「ああ……。もうダメだ……。死にたい……」

「ええ!? アイツあれで、ネガティブ思考者だったの!?」


 ブルレオはあまりのマイナス思考に驚愕。

 全ての情報が、黒い光に代わり心に蓄積していく。

 

「ま、まあ良い。傷口を広げて、心を砕いてやろう」


 ブルレオはニーナの心にある傷へ、向かった。

 誰にでもある傷口を広げて、精神を破壊する。

 それがブルレオの得意とする、妖術だった。


「時に苦しみ、悩み、絶望し、挫折する。お前の絶望はなんだ?」


 ブルレオは傷口に入り込み、蓄積された負の感情へ向かう。

 心の闇を増幅する事で、精神の崩壊を企む。


「何の音?」


 心の底から、噴き出すような音が聞こえた。

 次の瞬間、傷口から噴火の様な炎が飛び出してきた。

 ブルレオは炎に吹き飛ばされて、心の外へ追い出される。


「な、何だこの炎は!?」


 炎は鉢巻を巻いた、人の形に変化した。


『諦めんなよ! どうしてそこで諦めるんだよ!』

「なんじゃこりゃあ!?」


 炎はデバイスを脳に向かって投げつけた。


「押忍! 俺、ポジティブコンバーター!」


 ポジティブコンバーターは、全てをポジティブに変換するものだ。

 ネガティブコンバーターに、ドッキングする。

 ネガティブから出力される光を、更に変換させていく。


「俺のプラスで、ネガティブを変えてやる!」


 青い光はネガティブ変換されて、黒い光へ。

 黒い光はポジティブ変換されて、青い光へ。

 ただもとの光に戻っただけだった。


「こ、これは……。プラスとマイナスが打ち消し合って、ただの0になっている!」


 ブルレオは現象の分析をした。

 脳に入って来た情報が、新鮮なまま心へ向かう。

 光は炎に阻まれて、心に入る事が出来ない。

 炎は更に勢いを増して、心の傷を溶接していく。


「何!? 良く分からん炎で、傷口が塞がった! でもこれで炎は収まった……」


 心は依然として、溢れるエネルギーを持っている。

 内部に抑え込めなくなったエネルギーが、心を振動させる。

 心に穴が空き、そこから手足が生えてきた。

 心は脳に向かって走り出す。


「感情こそ全てじゃ! ネガもポジも要らん!」

「心が動き出したぁ!」


 双方のコンバーターを破壊しようと、心は腕を振り上げた。

 

「ネガティブ君! 今こそ力を合わせる時だ!」

「うぅ……。どうすれば……?」

「今こそ! 1と‐1をかけ合わせる時!」


 コンバーターは黒と白の稲妻を纏い始めた。

 稲妻は纏まり合い、互いに勢いを高めていく。


「食らえ! 必殺! 虚無感!」

「グオオオ!」


 ブルレオはコンバーターから放射された、交戦に巻き込まれた。

 強力な光が、ブルレオと共に心へ向かって飛んでいく。


「それ、殆どマイナスじゃない!」


 心はブルレオと共に、虚無感を腕で弾き飛ばした。

 コンバーターに掴みかかり、脳との接触を切り離していく。

 2人を地面に叩きつけて、ネガティブを踏みつぶした。

 そのまま心は脳と接続を開始。


「思った事、感じた事をそのまま口にする。それが正義よ!」

「くっ……。ネガティブ君……。大丈夫か……?」


 ボロボロになりながら立ち上がる、ポジティブ。

 ネガティブは漏電しながら、倒れ込む。


「ポジティブさん……。僕はもうダメだ……」

「諦めるなよ! まだ奴を倒す手段はあるはずだ!」

「僕の残った力を君に託す……。頼む……。心を倒してくれ……」


 ネガティブはポジティブの手を握りしめた。

 ネガティブから黒い光が溢れだし、ポジティブに入っていく。

 彼は完全に壊れて、その場で粉々に砕け散った。


「ネガティブ君……。後は任せろ!」


 ポジティブは手を組んで、銃の形にした。

 黒と白のエネルギーを集めて、一気に放射する。


「これが最終奥義! 何も考えないだ!」

「ぎゃあ! なんで私を巻き込む!」


 放たれた交戦に、再び巻き込まれるブルレオ。


「何の! こっちは、熱血バカじゃあ!」


 心は全身から炎を発射した。

 ブルレオを間に挟んで、2つは相殺し合う。

 

「負けられねぇんだ! ネガティブ君の為にも!」

「お前らさっきまで争ってたやん……」

「心の名に懸けて! 感情が思考に負けるなどあり得ないわ!」

「どっちでも良いから、私の為に負けてくれ……」


 光線と炎のぶつかり合いは、上に向かってエネルギーが放出される。

 エネルギーは空間に穴を作りだした。

 そこからマントを着た、全身銀塗の存在が現れる。

 ブルレオを踏みつけながら、両手で双方の攻撃を止める。


「お、お前は……。直感!」

「止めるんだ。2人共。同じ脳に繋がり合う同士、仲良くするんだ」


 直感は双方の攻撃を、打ち消した。

 

「感情も、ポジティブ、ネガティブ思考も。直感もバランスを保つ事が大事なんだ」

「そうか。俺達は自分が目立つ事ばかり考えていた……」

「時に落ち込み、時に熱くなり、時に明るく、時に思い付きで行動する。それが人間だ」


 2人は直感を間に挟んで、手を組み合った。

 すると光が溢れて、ネガティブが蘇生される。

 ネガティブも手を取り合い、4人は輪っかになった。


「そうか……。僕たちは打ち消し合うのでなく、協力し合うんだね……」

「ケースバイケースで、前に出れば良いのね……。私も失念していたわ」

「そうだ。我々は手を取り合うのだ」


 4人はブルレオを踏みながら、回り始めた。

 全員袴を着て、踊りだす。


「ワッショイ! ワッショイ! バランスワッショイ!」

「時にはマイナス、でもプラス! 互いに打ち消し、0になる」

「感情爆発! でも熱意! 直感信じて、明日を見る」

「不純物を削除じゃ!」


 4人は同時に光線を放って、ブルレオにぶつけた。

 ブルレオは光線に吹き飛ばされて、心の外に向かっていく。


「強烈な精神に、KO負け!」

「意味わかんねぇ……」


 ブルレオは心の外まで、弾き返された。

 ニーナの体から飛び出して、地面に倒れ込む。


「強い力を持つ物は、強い心が必要なのよ」


 この時、ブルレオの双方の人格は思った。


(強い弱いの問題じゃない!)


 ブルレオは精神が倒されて、意識を失った。

 2つの人格を倒した事で、ブルレオとの戦いは勝利に終わる。


「さあ、あらためて。雪山を目指しましょう!」


──────────────────────────────


 レオ連合の本拠地。怪しい地下室で、幹部が集まっていた。

 青い球体が、4つ程集まっている。


「あと3つで、全て揃う。だが、ベニレオとブルレオとの連絡が取れん」

「どうにもオリジン家の、若娘が派手に暴れているようです」

「ククク。目立ち過ぎて、やられたのでは?」


 謎の女性が、2人の事をあざ笑う。

 黒いローブに身を包み、フードを被っている。

 杖とナイフを隠しながら、闇に紛れていた。


「私達はそんなマネはしない。静かに、しなやかに、敵を暗殺する」


 素早くナイフを取り出して、その場で回す。


「そうでしょ?  グリレオ……」


 背後にからクラッカーの音が聞こえた。

 謎の女性の背後には、同じ格好の女性が金髪を見せている。

 

「イエーイ! 私は目立ちたい!」

「貴方ね……。暗殺者だって良いっているでしょ! 目立つマネは辞めなさい!」

「堅いな、キレオ姉さんは。私は目立って殺したいの!」


 巨大な看板を背負いながら、光らせるグリレオ。

 キレオは溜息を吐きながら、盟主に謝罪した。


「構わん。いつもの事だ。それより、オリジン家の娘だ」


 盟主はニーナがベニレオの村に、居座っていると聞いた。

 その報告からベニレオの敗北を、薄々感じている。


「少しずつ攻めるのも面倒だ。あちらか出向いてもらおう」

「確かに。1人ずつ戦う道理はありませんね」

「邪魔者は直ぐに排除する。それがレオ連合のやり方だ」


 拳を握りしめる盟主の背後で、炎が噴射された。


「誰だ? 余計な演出を入れたのは?」

「イエーイ! 私ですぅ!」


 ギターを弾きながら、アピールするグリレオ。

 盟主はこの4人に任せて、本当に大丈夫なのか心配になるのだった。

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