第10話 結局暴力が1番良い

 ケイが飛び出してから、1時間が経過した。

 戻って来る様子がない。私は心配していた。


「ケイさん大丈夫でしょうか? 敵の本拠地に向かったんですよね?」

「ええ。私を差し置いて、暴れてないか心配だわ」

「どっちの心配しているんですか!?」


 私達が外で彼の帰還を待っていると、上からバサバサと音が聞こえてきた。

 見上げるとオウムが空を飛んでいる。

 その爪にケイを引っ掻けながら、必死で上昇しようと落下していた。


「なんか変なの乗ってきた!?」


 ケイは棘が体に刺さっており、黒焦げになっている。

 服もボロボロで、オウムにしがみついてた。


「いやぁ。風に煽られちゃって」

「どんなルート通ってきたんですか!?」


 アニマルランドでも、とってきたのだろう。

 ケイとオウムは樽の中へと、落下していく。

 中に入り込むと、タルは急激に膨張して大破した。

 すると中からとぐろを巻いた蛇が、跳ねながら飛び出す。


「えええぇ!?」

「お嬢様。ブルレオとやらから、伝言です」

「その姿で喋れるんですか!?」


 ケイは蛇に大変身しながら、伝言を伝える。


「『直ぐにそっちへ行ったる』ですって」


 ふむ。どうやら挑発に乗ってきたようだ。

 こちらも迎撃の準備を整えなければ。


「親ビン! 隣町から凄い数の軍勢が!」


 兵士の1人が、慌てて連絡をしてきた。

 望遠鏡で覗くと、そこには100を超える軍勢が歩いている。


「本当に直ぐ来た! 1秒足らず待たず来た!」

「いいでしょう。迎撃準備よ!」


 私は蛇禁止の看板を、建てた。

 ケイがそこを通ると、風船と共に元の姿に戻る。


「了解。迎撃要塞起動!」


──────────────────────────────


 ブルレオはあらゆる戦力を、投入していた。

 中には王族直属の、エリート兵まで存在する。

 本気で町を攻め落とし、ニーナを亡き者にするつもりだった。


「相手がガキやろうと、かまへん。全員やったれ!」


 ブルレオは最後尾で指揮を執っていた。

 町が見えたのを確認すると、双眼鏡で様子を見る。


「タワーを壊したのは、失敗やったな。おかげで手薄に……」


 ブルレオは町の防衛装置を見て、真顔で思った。


(タワーより物騒なもの建ってるやん)


 要塞の様な建物が、村の入り口に建てられている。

 砲台を向けながら、迎撃の準備をしている。


「そこの兵隊。止まりなさい。撃つぞ」


 ケイがマイクとスピーカーで、警告を促した。

 砲台に弾が込められて、狙いを定めている。


「おいおい。こっちは王族直属兵もおんねんで」


 ブルレオは大声で、要塞上のケイに話しかけた。


「撃ったらどうなる? 貴様らは他国にも喧嘩を撃ったことになるぞ」

「っく! 良いだろう。砲撃は中止してやる……」


 ケイは要塞の門を開けた。

 中から建物を壊す鉄球をつけた、重機が現れる。

 重機はニーナが操縦しており、鉄球を振り回す。

 この時、ブルレオは、真顔で思った。


(もっと物騒なもん、出てきたやん)


 ニーナは鉄球を動かして、兵士達に叩きつけた。


「お前人の話し聞いとったんか!?」

「大丈夫よ。磁石でくっついているだけだから」


 兵士達は鉄球に付着していた。

 グルグルと振り回されて、ゆっくり地面におろされる。


「いつの間に付けたんや!」


 後ずさりするブルレオ。足元に何か当たる。

 そこには緑の土管が倒れていた。

 中から生える様に、ケイが出現する。


「いやっほぉ!」


 ケイはブルレオを羽交い絞めにした。


「えぇい。離さんか!」

「人間球技! 始まるよ!」


 ケイは膝カックンで、ブルレオを丸めた。

 丸まったブルレオを持ち上げて、上に投げつける。


「トス!」


 落ちてきたブルレオを、ケイはトスした。

 ニーナが鉄球を背後に動かして、構える。


「ハイ! ホームラン!」


 ニーナは鉄球を振り回して、ケイごとブルレオを叩く。

 ケイは空中で浮遊して、その場で耐えた。


「良くもやってくれたなぁ!」


 ケイは丸まったままのブルレオに、足を乗せた。

 彼を蹴りながら、転がしていく。


「食らえ! シュート!」


 いつの間にか出現した、ゴールに向けてケイは蹴り飛ばす。

 ゴール前に重機を動かして、ニーナは構えた。


「フハハ! この重機の前では、無力よ!」


 鉄球を振り回して、ブルレオを弾き返そうとしたニーナ。

 だが直前でブルレオは消えた。

 次の瞬間ブルレオは重機の背後に出現。

 ゴールネットに叩きつけられた。


「ふっ……。消える魔球だ」


 ゴールと一緒に重機は、爆発した。

 ニーナは直前で脱出し、爆風から着地する。


「やってくれたわね……。今度はこっちの番よ!」

「いや、誰と誰が戦っているの!?」


 この時、ブルレオはボロボロになりながら思った。


(なにしてんねん、こいつ等……)


 もはや抵抗する気を失い、ブルレオは流れに身を任せた。

 ニーナがブルレオを掴む。


「ストライクを狙ってやるわ!」

「来いよ。どんな球も撃ち返す!」


 ケイはライフルを構えながら、立ち塞がった。


「そっちの撃つじゃなぁい!」


 ニーナは叫びながら、ブルレオを転がした。

 ケイは呆気に取られて、そのまま吹き飛ばされる。


「くそぉ! こっちのストライクだったのかぁ!」


 2人のあばれぶりを見て、周囲の兵士は思った。


(えらい奴らに、手を出してしまった……)


 全員合掌しながら、転がるブルレオへ祈るのだった。


──────────────────────────────


 ブルレオは息を切らしながら、膝をついた。

 周囲の兵士も、白旗を上げている。

 どうやらこの勝負、私達の勝利のようだ。


「やれやれ。これで勝ったつもりとは、大笑いですね」

「なっ! 関西弁じゃなくなった!?」


 ブルレオは立ち上がりながら、宙に浮いた。

 大の字に体を広げて、青い光を放つ。

 その瞳の色が、水色に変化していた。


「私はブルレオの、もう1つの人格です」

「二重人格だったのね……」

「主人格は財力と権力で、私は知恵と術で人々を操ってきました」


 突然空が、黒雲に包まれた。

 ブルレオの第2人格が、不気味な光を目から放つ。


「貴方達がふざけている間に、少し術をかけさせてもらいました」


 気が付くと私とケイの真下に、魔方陣が描かれていた。

 青い光を放ちながら、私達を包み込んでいく。


「それは心の傷を刺激する、妖術です」

「心の傷?」

「最も見たくない、トラウマを幻として見せる」


 1番思い出したくない記憶を、見せるって事ね……。

 視界が真っ暗になっていく。頭がボーっとし始める……。

 私のトラウマ? そんなの決まっている……。

 あの日の記憶に、違いないのだ。


 私の目の前に、見慣れた部屋が入る。

 そこは現実世界のリビングであり、食事中だった。

 両親と談笑しながら、ご飯を食べる。普通の日常だ。

 警察が家に上がって来るまでは……。


「詐欺罪、お呼び恐喝罪の罪で逮捕する!」


 その日から私の人生は、地獄そのものだった。

 あの子は悪い人の子供だから、いくら虐めても良い。

 世間がそう言っている。だから誰も助けてくれない。

 あの日々が鮮明に蘇って来る。私のトラウマが目の前に広がる……。


 凄く辛い。でも耐えるしかない。死ぬ気すらおきない。

 そんな日々を繰り返しながら、私はあの日死んだ。


「こんな思い……。他の誰かにさせちゃ駄目だ!」


 私は地獄の日々を思い出して、改めて決意を固めた。

 弱いもの虐めが許される世界なんて、どうかしている!

 私は自分の様な想いを誰にもして欲しくない!

 だから絶対に弱者の味方であり続ける!


「なんだと……?」

「残念だったわね……。私のトラウマは……。モチベーションでもあるのよ……!」


 私は敵の妖術を打ち破り、元の世界に戻った。

 自分の過去を見て、改めて思う。

 私の力は誰かを守るために使わなければならないと。


「ブルレオ! 貴方の様な圧政を、私は許さない!」

「こんなバカな……。そんな……。こ、こんな……」

「ん? どっち向いているの?」


 ブルレオはケイの方を見ながら、恐怖に歪んでいた。

 どうやら私が妖術を打ち破って、驚いている訳ではないようだ。

 体を震えさせながら、後ずさりをしている。


「なんて……。なんてどうでも良い、トラウマなんだ!?」


 私はケイの方を、振り向いた。

 ケイは魔方陣の中で、まだ苦しんでいる。

 そもそもケイにトラウマとかあるのだろうかと、私は思った。


「どんなトラウマなの?」


 私は興味本位で、ケイに触れてみた。

 すると再び視界が歪み始める。

 気が付くと、6畳ほどの畳の部屋に立っていた。

 目の前にはケイと、その家族が食卓を並んでいる。


「親父! 止めろ! 止めるんだ! バカな事は止めろ!」


 ケイは必死で叫びながら、父親を止めていた。

 目の前には色んな種類の、カップラーメンがある。


「カップ麺のスープを全て混ぜるなんて、バカなマネは止せ!」

「ええい! 黙れ! ワシは常識破りのチャレンジャーなんじゃ!」

「不味くなるだけだ! 止すんだ!」


 ケイの言葉に耳を傾けず、彼の父親はどんぶりを用意した。

 カップ麺のスープを全て混ぜて、何とも言えない色にする。


「うわああああ! 俺の500円が、闇鍋にぃ!」


 ケイのトラウマを見ながら、ブルレオは絶句していた。


「すこぶるしょうもない、トラウマだ……」

「そうは言うが、この臭いをかいでみろ」


 ケイは急に正気に戻った。どんぶりを掴み、スープをブルレオにたたきつける。


「臭ぁ! 不味ぅ! 一瞬で腹を壊したぁ!」


 ブルレオは腹を押さえながら、お尻をきゅっと締めた。

 蹲りながら、周囲を見渡す。


「トイレ……。トイレは何処だ?」

「トイレならあそこにあるわ」


 私は近くのトイレを、指さした。

 ブルレオは大慌てで、トイレに駆け込んでいく。


「今よケイ! 奴が籠っている隙に、攻撃しなさい!」

「ダメですお嬢様! 奴は戦闘回避システムを、稼働しました!」

「何ですって!? って何それ?」


 ケイはトイレ前にある、木製の看板を指した。

 そこには『次回に続く』と書かれていた。

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