第9話 最狂貴族、権力と財力? 魚雷でも食らいなさい!

 巨大な豪邸。ベッドの上でワインを飲む人物がいた。

 白い仮面をつけており、金髪を刈り上げたガタイの良い男性だ。

 グラスに口を付けて、風呂上りの一杯を楽しむ。


「ブルレオ様! 大変です!」


 兵士の1人が慌てて、扉を開けた。

 優雅なひと時を邪魔された男性は、不快そうに眉をひそめる。


「そない慌てて、何事や?」

「ベニレオ様がやられました!」

「なんやて?」


 ブルレオは兵士の方へ振り向く。


「やったのは誰や?」

「ほ、報告によりますと、オリジン家のニーナであるようです」

「ほう、アイツらの娘がな……。0歳やないか!」


 ワインを兵士の顔面に、叩きつけるブルレオ。

 彼の家はオリジン家とっも、因縁がある。

 スパイを送って、家庭事情を調べるほどの因縁だ。


「なに赤ん坊にやられとんねん!」

「それが、不思議な力を使い、既に大きくなっているようです!」

「ほう。そうか。それやったら納得や……。ってなんで大きくなっとんねん!」


 背後にグラスを投げつけるブルレオ。


「私が知りませんよ!」

「まあ理屈はええわ。ベニレオがやられったちゅう事実さえあればな」


 ブルレオは立ち上がりながら、タオルで頭を拭った。

 ニヤリと笑いながら、窓から外を眺める。

 そこには都会と呼べるほどの、街が広がっていた。


「ワイはベニレオみたいに、力で押さえつけるマネはせぇへん」


 目を赤く光らせながら、仮面に手を添えるブルレオ。

 その体から青色の煙が発生し、街を包み込んでいく。


「権力と金があれば、欲しいもんは何でも手に入る」


 ブルレオ。それはレオ連合貴族の、嫡子だった。

 他国の国王ですら、彼の一言で動かされる。

 圧倒的権力と財力で、彼はレオ連合の金庫番となっていた。


「見せたるわ。ワイの権力と財力を……。私の知力を……」


 まるで別人が乗り移ったかのように、口調を変えたブルレオ。

 仮面は水色と青色のオッドアイとなっていた。

 

──────────────────────────────


 私達はタワーを倒した後、私達は町に滞在していた。

 土地の権利書を貰い、宝珠石を回収した。

 私のダウジングマシーンがあれば、この程度直ぐに探せる。

 また悪徳貴族に支配されたらたまらない。


 私は町の開発をしながら、防衛力を高めていた。

 買収した元レオ連合も、衛兵として正式に採用。

 これで私も立派な兵隊を手に入れた事になる。


「徐々にであるが、確実に近づいているわね。世界征服に」

「いつからそんな望み、抱いたんですか!?」

「夢は大きい方が良いじゃない」


 私はこの力を持って、異世界を完全制圧するつもりだ。

 永久の平和を維持するために、悪人を全て倒す。


「人はそれを、独裁と呼ぶ」


 ケイが本を読みながら、余計な一言。

 言い返す言葉がないが、私の夢は変わらない。

 レオ連合が今の形で良いはずがない。

 これでは弱者が虐げられるだけだ。この国だけでも変えなければ。


「簡単言いますが、敵は国ですよ。国」


 メイはレオ連合と争う事に、乗り気でないようだ。

 確かにレオ連合は、国家そのものだ。

 王政ではないとはいえ、国と戦うには覚悟がいるだろう。


「取り合えず、まずは雪山に行きましょう」

「前後の文脈が全く繋がってません!」


 メイはいちいち大声を上げる。流石に煩い。

 私は溜息を吐きながら、事情を説明する。


「海に山岳地帯と来たら、次は雪国か砂漠でしょう」

「家の近くは草原でしたからね」


 ケイが私の情報に、付け加えてくれる。

 既に3つを網羅したのだ。後5つ。

 ジャングルと火山、雲の上だ。


「雲の上はいつでも行けるし、砂漠と火山は暑そうだし」

「だからって雪山は、極端過ぎません!?」

「寒いか暑いかで言ったら、寒い方が耐えられるでしょ!」


 熱さは命にかかわるが、雪山は万全を整えれば良い。


「雪山舐めんな」


 ケイが何か言った気がするが、私は早速防寒具を用意した。

 遭難しても良いように、食料を整えなければ。

 私の物体精製で、食料を出せても料理までは出せない。


「ぽかぽかの実を用意するわ! ケイ! 料理しなさい!」


 私は赤い実を用意して、ケイに投げ渡した。 

 ケイは実を受け取ると、素早い動きで料理をする。

 流石料理番だけあって、見事な包丁さばきだ。


「ハイ、山賊焼き」

「木の実だけでどうやって作ったんですか!?」


 流石ケイだ。なんだかんだできちんと、料理になっている。

 これを食べれは体がポカポカする。

 これで雪山でも、耐える事が出来るわ。

 私は山賊焼きを一口食べた。


「……。うっ……。こ、これは……」


 私は額から汗を大量に流した。

 メイが心配そうに、ハンカチを取り出す。

 私は思わず上を向いて、口から炎を吐き出した。


「メラメラの実だった!」


 これは体がメラメラするほど、辛い食品よ!

 体が燃える様に熱い……! 飲み込めないほど辛い!


「何やってるんですか!? 水を早く飲んでください!」


 メイが用意した水で、私の舌は事なきを得た。

 まだ体がメラメラする。もしかしたら炎を纏っているかもしれない……。

 熱い……。熱過ぎる……。体から火柱が発生する!

 そこでケイがくす玉を割って、紙吹雪を降らす。


「おめでとうございます。お嬢様は新しい力が、覚醒しました」

「まだ7つの能力、全部披露してないのに!?」


 どうやら私は、炎を操る力を手に入れたようだ。

 体を纏う炎が、収まっていく。

 同時にメラメラした感触も消えていく。


「さてと。パワーアップした事だし、腹ごしらえね」

「さっき食ったばっかりでしょ!」


 私達は昼食を食べに、レストランへ向かった。

 町の中には色んな店がある。

 今度は新しいスーツでも、階に行こうかしら?

 そんな事を考えていると、何やら人だかりが出来ている。


 兵士達が紙を持って、壁に何かを貼り付けていた。

 この兵士達は違う町へ、買い出しに行った私の部下だ。


「何ですの? この騒ぎは?」


 私は紙を貼る兵士の1人に聞いた。

 彼はまだまだ若手だが、生真面目な子である。


「あ、親ビン。手配書を張っているのです」

「手配書? 凶暴な犯罪者でも出回っているの?」

「はい。何でも貴族を殺しまわる、極悪人がいるそうです」


 怖いなぁ~っと思いながら、私は手配書を見た。

 ……。そこにはサングラスをかけた、スーツの少女が映っている。

 髪の毛も長さも、身に覚えのあり過ぎる。


「これ、どう見てもお嬢様ですね」

「いつかされると、思っていました」


 私は手配書を剥がして、メラメラと燃やした。

 ついでに怒りの炎で、兵士を吹き飛ばす。


「貴方、どう言うつもりかしら?」

「ヒィ! じ、自分は手配書を貰っただけで、中身は見てないんですよ!」

「誰が配ったの? こんなものを」


 私を指名手配するなんて、よほどの貴族だろう。

 こんな言いがかりをつけるなんて、良い度胸しているじゃないの。


「あながち、言いがかりでもないですね……」


 メイが失礼な事を口にする。

 私はただ悪徳貴族を、爆破したり、新幹線で追い回しただけじゃない。


「配ったのは、ゴルド家の人です」

「ゴルド家だと!?」


 最近地味だったフォルが、久しぶりに発言した。

 

「ゴルド家は、他国の王族とも繋がりがあります」

「第一級貴族ですよ! 私ですら知っています!」

「奴は支配と言うムチと、財力と言うアメで全てを操ります」


 従うものには相応の報酬を払う。理にかなった事ね。

 でも権力で支配されたものなんて、長続きしない。

 金でも力でも動かない存在は、何処かに居るのだから。


「ゴルド家の嫡子、ブルレオ。我が兄弟子は、奴の卑劣な罠にかかり……」


 まさか……。師匠に続いて、兄弟子まで……?


「パンイチで旅芸人になってしまいました」

「どんな状況!?」

「奴は従わぬ者から、全てを奪い取ります。パンツ以外」


 従えばお金を与え、従わなければ奪う。

 何て奴なの……。絶対に許せないわ。


「許せないわ……。そんな悪徳貴族……」


 私は正方形の穴を作った。 

 ケイが穴の中に入り、大砲と一緒に飛び出して来る。

 私はコントローラーを操作して、隣街に砲口を向ける。


「宣戦布告じゃあ!」

「撃ったぁ! 撃ちやがった!」


 ケイは大砲に乗って、隣街まで飛んでいく。

 どんな悪徳貴族も許さない。私は虐げられる側だったから……。

 権力で弱者を虐める存在は、絶対に許さない!


──────────────────────────────


「流石ブルレオ様です。これが広まれば、オリジン家は終わりです」


 ブルレオの部下が、彼の部屋で報告をしていた。

 オリジン家を潰す為、ニーナを指名手配したブルレオ。

 様々な街に手配書を出す事で、彼女をで歩けなくする作戦だ。

 ブルレオの言葉が嘘だと思っても、誰も何も言う事が出来ない。


 それだけ財力と圧倒的な権力を兼ね備えているのだ。

 ブルレオは刀を構えながら、ニヤリと笑った。


「お前さん。なにしとるんや?」

「え? ですから手配書の報告を!」

「んなことは分かっとる! 今から風呂入ろとしているのが分からんのか!?」


 ブルレオはパンツを脱ぎかけだった。

 ギリギリ履いているラインで、キープしていた。


「も、申し訳ございません! そう言う趣味かと思って……」


 兵士は頭を下げて謝罪した。

 ベニレオが刀に手を添えて、兵士を威圧する。

 次の瞬間壁が崩壊して、何かが脱衣所に入り込んできた。


「何事や!?」

「どうも。人間魚雷です」


 寝転びながらクネクネ動く、謎の人物ケイ。

 彼は手紙をブルレオに渡した。


「お嬢様からの宣戦布告です」

「お嬢様……。ニーナ・オリジンか!」


 ブルレオは奪い取るように、手紙を受け取った。

 手紙にはこう書かれてあった。


『お前、いつか、ぶっ殺す』


 ブルレオは手紙を握り潰した。


「斧クソガキが! 舐め腐りおって!」

「あの、ブルレオ様……。さっきから下の方からカチカチと……」


 ケイが口で、カチカチ言っていた。


「あと5秒で爆発します」

「ええ!? ブルレオ様! 急いで避難を!」

「0」


 ケイはカウントの終了と共に、爆発した。

 脱衣所から風呂場が壊される。

 兵士が庇った事で、ブルレオはアフロになるだけで済んだ。


「ええやないか。ニーナ嬢よ。この戦受けて立ったるわ!」

「では私は帰投します」


 焦げたケイが、両手を広げて回転した。

 そのまま空を飛びながら、飛んで来た方向へ戻っていく。


「人間ヘリコプター」

「ワシからも伝言や。今直ぐに行ったる!」

「了解致しました。お嬢様にお伝えします」


 空の彼方に消えるケイ。

 ブルレオは刀を構えて、空に刃先を向ける。


「ワイは権力だけの男やないって所見せたる!」


 その頃ケイは……。


「回り過ぎて三半規管がやられた……」


 気持ち悪くなりながら、馬に乗って戻るのだった。

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