プロローグ2 キングコボルト、ちょっとうるさい!

 超巨大モンスター、キングコボルトが森で暴れていた。

 衛兵達は精鋭を組んで討伐に向かう。

 だが大勢で挑んでも、全くダメージが通る気配はない。


「隊長! キングコボルトの進軍が止まりません!」

「マズいぞ……。この先にはオリジン家の、屋敷がある……」


 貴族を守るのが、衛兵達の仕事だ。

 湖の近くに町があり、そこにオリジン家の屋敷がある。


「今日は赤ん坊が生まれた日らしい。そんな祝福な日を、壊されてたまるか!」

「了解しました! 何としてもここで食い止めます!」


 二等貴族を守る衛兵。それは王族を守る近衛兵の次に強い。

 そんな精鋭達が力を結集させても、キングコボルトを止められずに居た。


──────────────────────────────


 私、この世界では『ニーナ』が転生して、3時間が経過した。

 私とケイは説明書を読み進めながら、自分達の事を把握していく。


「って。こんなもので、理解出来るかいボケェ!」


 私は説明書と言う名の辞書を、床に叩きつけた。

 あのクソ神め! こんな辞書みたいな部厚説明書を渡しやがって!

 こんなの読んでも分かる訳ないじゃない!

 私は見た目0歳で、辞書の様なものを読んでいる。傍から見れば天才でしょうね!


「落ち着けよ、お嬢様。辞書って言っても、殆ど字のないページでしょ?」

「だから余計に、難解じゃない!」


 ケイの言う通り、辞書は殆どが図面で出来ていた。

 解説文はなく取り合えずポーズだけ乗っているページもある。

 そもそもこれは何の儀式かしら? 魔王でも召喚する気!?


「取り合えずお嬢様は、物精製だけでも覚えて下さい」

「何でアンタには読めるのよ!?」


 ケイの解析によれば、私は想像したものを創造出来るらしい。

 それを物体精製と名付けた。鉄でも麦でも何でも、精製できるらしい。

 取り合えずミルクを精製して、自分で飲むことにした。


「それにしても、随分と騒がしくなったわね……」


 お屋敷の作りを分かっていない私達。

 少しでも道を間違えれば、迷子になりそうだ。

 お手伝いさんが慌てて、あちこちに走っている。


「ああ。さっきトイレ来た時、巨大モンスターが近くに居るから避難しているらしいと聞きました」

「へぇ~。私達は避難しなくて良いのかしら?」

「知らん。避難しろと言われてないから」


 知らんなら仕方がない。私はお嬢様らしくミルクを、優雅に飲んだ。

 そこで地響きが発生。私はミルクを零した。

 おむつの上に掛かり、深いな感覚が走る。


「誰よ! 人がミルクを飲んでいる時に、地震を発生させたの!」

「多分アレだね」


 ケイは窓の外を指さした。その先にはコボルトみたいなモンスターが、こん棒を持っている。

 歩く度に地響きを起こし、私の食事を邪魔する。

 ムカつく。人が生まれた瞬間くらい、静かに出来ない訳!?


「ケイ! アイツぶっ飛ばしに行くわよ!」

「それは良いですけど、見た目より遠くに居ますよ」


 ケイの言う通り、巨体だから近くに見えるだけだ。

 まだまだモンスターまで距離がありそう。

 私の足では2日はかかってしまうだろう。


「バイク出してもらえますか? 免許持ってるんで」

「物体精製ね。やってみるわ」


 私は説明書を読みながら、物体精製を試してみた。

 どうやらガッと力を入れて、想像して。

 バシッと創造すれば、出てくるみたいだ。


「バイクよ! 出よ!」


 窓を貫通して、軍用のヘリコプターが出現した。

 ヘリは屋敷に突き刺さるように、止まっている。


「バイクつったよね?」

「似てるから良いじゃない!」

「そうですね。取り合えず乗り込みましょう」


 私達はヘリのドアを開けて乗り込んだ。

 操縦はケイがやる。軍様なので、下に機関銃が付いている。

 私は物体精製で、ショットガンを作り出した。

 ついでにサングラス用意して、準備万端だ。


「ケイ! ヘリの運転経歴は?」

「ゲームで13年」

「なら大丈夫ね! やっちゃって!」


 ヘリは某キューブの、コントローラーで動かすみたいだ。

 LRの強弱を操れるし、当然と言えば当然ね。

 ケイはコントローラを握りしめて、ヘリを発進させた。


「発進します。しっかり掴まって下さい」

「私、0しゃいだから、上手く立てない」

「ならその辺で転がっていてください」


 ケイはヘリを発進させた。

 私は掴まる所がなく、揺れに身を任せている。

 一応つり革はあるのだけど、掴まりたくない!

 ケイはヘリを使って、巨大モンスターに接近する。


「アハハ! 揺れに身を任せているぅ!」


 私は立っては転びを繰り返し、酔った。

 ヘリのドアを開けて、新鮮な空気を吸う。


「ケイ! 遠慮なしでやりなさい!」

「了解しました。機関銃発射!」


 ケイはボタンを押して、機関銃を発射した。

 巨大モンスターは連続で放たれる銃弾に、目をつぶる。

 後ずさりをしながら、街から離れていく。


「くっ! 対して聞いてない! こうなったら……」


 ケイは何処からか取り出したマイクに、口を近づけた。


「本艦はこれより特攻に入る。皆の者、至急脱出準備を!」

「ケイ艦長……。艦長はどうするおつもりですか!?」

「僕は最後まで船に残る……。操縦しないと駄目だからな……」

「艦長……」


 私はオートパイロットのヘリを、隣に精製した。

 並走するヘリに飛び移りながら、ケイにサムズアップを返す。


「グッドラック……」


 ケイは敬礼をしながら、巨大モンスターに突進した。

 ヘリは巨大モンスターの額に、突き刺さった。

 モンスターは苦しみながら、ヘリを引き抜こうとする。


「マズい……! ケイ! 早く脱出しなさい!」


 私はロケットランチャーを放ちながら、無線で伝えた。


『ダメです! 操縦しなければ、引っこ抜かれます!』

「くっ……。ケイ……」


 ミサイルはケイの乗るヘリに、直撃した。

 ヘリは大きな爆発をあげながら、空中で四散した。

 モンスターは爆発の衝撃で、体勢を崩す。


「ケイ……。勇敢なる戦友に敬礼!」


 私は爆発に消えた戦友を、称えた。


「ふぅ……。驚いた」

「あ、お帰り」


 ケイは瞬間移動で、ヘリまで転移した。

 事情を知らない兵士が、地上でポカーンっとしているが無視する。


「敵め……。これ以上街には近づけんぞ!」


 私はショットガンを片手に、モンスターに向かって発砲した。

 ケイが物欲しそうな顔で、私を見つめている。


「しょうがないわね……。はい、チェーンソー!」


 私は小型チェーンソーを、ケイに渡した。

 ケイはチェーンソーを起動。その刃を回転させた。


「最強装備じゃないか! やったぜ!」

「オートパイロット! 出来るだけモンスターに近づいて!」


 私は声でオートパイロットに指示を出すが、聞いてもらえなかった。

 何故なら音声認識など、搭載されていないからだ。


「こんな物騒なもの、捨ててやる!」


 ケイはモンスターに向けて、チェーンソーを投げつけた。

 チェンソーは巨大モンスターの体に突き刺さり、抉っていく。

 5秒後に爆発して、再びモンスターを後ずさりさせた。

 モンスターは起こったのか、首輪を外した。


「何をするつもりかしら?」

「刃がついていたんですよ。突撃した時に、全部手榴弾に変えちゃいましたが」

「じゃあ安心ね」


 私はショットガンのスコープを、覗き込んだ。

 モンスターは首輪を振り回そうと、高く掲げる。

 私はショットガンを発砲して、手榴弾に振動を加えた。

 そのままマイクに口を近づけて、地上の兵士に指示を飛ばす。


「総員退避だ。退避!」


 私の低い声色で、地上の兵士達が一斉に引き上げる。


「私達も伏せましょう!」

「了解です」


 ケイは私を抱きかかえて、地上へ飛び出した。

 私はついでにヘリの、尻尾部分のプロペラを破壊した。

 ヘリは回転しながら、モンスターの頭上に落下。

 その場で足止めに成功する。モンスターは倒れながら、腹部に首輪を落とした。


 遂に手榴弾へ引火して、爆発を発生させた。

 連鎖爆発が起こり、巨大モンスターはオレンジの炎に包まれていく。

 モンスターはそのまま、手榴弾と共に、爆散した。

 付近の森に焼き移らない様に、ケイが直ぐ様雨を降らせる。


「これで安心して、ミルクが飲めるわ」


 私はミルクを精製して、飲もうとした。

 だが突如体に異変が生じて、その場でうずくまる。

 痛みが引いた後、私の体は5歳くらいまで伸びていた。


「これは……。レベルアップしたのかしら?」

「あ、そんな制度ないみたいですよ」

「なるほど。謎の変異ね」


 とにかくこれで、動くのに不自由しなさそうだ。

 私はミルクの代わりに、紅茶を精製した。

 やっと静かに、優雅にティータイムを楽しめるわ。

 そう思っていたら、背後で歓声が沸き上がっていた。


「アレ? 私達何かやらかしたかしら?」

「いいえ。ヘリを2機ほどぶっ壊しちゃっただけですよ。始末書で済みます」

「あっそ。ティータイムを続けましょう」


 私は紅茶飲みを、再会しようとした。

 そこで兵士を掻き分けて、先程まで私を抱いていた大人がやってきた。


「おお! ニーナよ……。まだ幼かった君が、あんな巨大モンスターを倒すとは……!」

「あなた……。もうニーナは立派な大人よ……。彼女にならあの土地を任せて良いんじゃない?」

「そうだな。そろそろニーナにも、領主を任せる時だろう」


 混乱する私の肩に、ケイが軽く触れた。


「お察しの通り、断章に続くって訳さ」

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