プロローグ 転生……。ってこんなにたくさん能力貰って良いんですか!?

 私の名前は 半沢 二奈(はんざわ にな)。17歳。

 現在ゴミを漁りながら、今日の昼食を探している。

 私はホームレスだ。一銭も持ち合わせず、誰からも同情されない。

 道行く人は私を見ると避けていく。当然だ。


 私の両親は、ある極悪な犯罪者だった。

 幼い頃から貧乏生活を強いられていた。

 親の裁きを代行するかの如く、周りから酷い扱いを受けていた。

 親戚は引き取りを拒否し、施設でも虐められる。


「よう。昼食は見つかったか?」


 そんな私にも、優しくしてくれる人が居る。

 海東圭(かいとう けい)。幼馴染の男の子であり、唯一の味方だ。

 弁当を片手に、圭は微笑んで居る。


「廃棄処分された弁当なら」

「腹壊すぞ。ほら。賞味期限前だ」

「止めて!」


 私は圭の事が心配だ。こんなに優しくすると、圭まで同類と見られる。

 だからこそ彼の優しさを、素直に受け取れない。


「じゃあここに捨てるし、欲しければ拾え」

「……」


 本当に圭はいつも、お節介焼きだ。

 私が受け取れるように、わざと地面に置いてその場から立ち去ろうとする。

 私はお腹を鳴らしながら、ゴクリと弁当を見る。

 そっと圭の捨てた弁当に、手を伸ばそうとした。


「見つけたぞ。半沢ぁ!」


 そこへナイフを持った男が、乱入してきた。

 男は憎悪のこもった目で、私を見ている。

 私にとっては見知らぬ相手だ。

 でも何故恨まれているのか、見当はついている。


「テメェの両親のせいで、親父が自殺した!」


 私の両親は有名な、詐欺師と悪徳弁護士だ。

 2人で色んな人間からお金を巻き上げていた。

 その汚いお金で、生活してきた私。

 だから私も、恨まれて当然の人間なのだ。


「死ねぇ!」


 ナイフを持って、駆け出す男。

 私は恐怖で動く事が出来なかった。

 ここで死ぬことを覚悟する。目を瞑って、腹部を押さえた。

 アレ? いつまで経っても痛みが走らない……。


「あ……」


 目を空けると、圭が私を庇って代わりに刺されていた。


「テメェみたいな、八つ当たりカスが……。不幸になってメシウマだぜ……」

「あぁ……」


 圭は男からナイフを取り上げて、自分の胴体から引き抜いた。

 そのまま男を睨み、ナイフを突きつける。


「テメェも道連れにしてやろうか?」

「くっ……。覚えて居ろよ!」


 男は恐怖に感じたのか、捨て台詞を吐きながら去っていた。

 圭はナイフを落として、その場で倒れる。

 私は急いで駆け寄った。圭は吐血している。

 内臓にダメージが……。このままじゃ死んじゃう!


「神様、仏様……。誰でも良い。私の命をあげるから、圭を助けて……」


 そこで私の意識は1度途絶えた。

 最後に聞いた音。それは雷が落ちる時のゴロゴロ音だった。


──────────────────────────────


「ほっほほ!」


 誰かの高笑いと共に、私は目を覚ました。

 周囲は真っ暗なのか、何もない黒い空間だ。

 いや、あかりがないわけじゃない。目の前の老人がはっきり見える。

 隣には既に目を覚ましていた圭が、立っていた。


「少女を庇うお主の行動、感動させてもらったぞ!」

「貴方は……?」

「ワシか? ワシはお主らの言葉で、神と言う存在じゃ」

「神だと!?」


 その単語を聞いた途端、目の前の老人に殴りつける圭。

 老人はヒョイッと交わして、圭にデコピンをする。


「何でいきなり殴りつけているの?」

「いや、僕が死んだのは、この人のせいだと思って」

「人じゃなくて神だよ」

「ホホホ! 中々威勢が良くて結構じゃ!」


 神様は威厳ある声で、圭の不敬を許した。

 彼?の説明によれば、私達は雷に打たれて死んだらしい。

 神が落としたもの……。ではなく自然現象で死んだのだ。

 

「お主ら。第2の人生を歩む気はないか?」

「人生は1度切りで十分だ」

「ならば別人として、生きる気はないか?」

「話を聞こうか」


 何が違うのだろうか? 圭は昔からこんな性格で全く理解できない。

 そもそも神様にため口って、無礼にも程があるでしょう……。

 

「今の記憶をそのまま、異世界でちょいと生活してみぬか?」

「何故そんな事を提案する?」

「面白そうだから」


 神様は持っていた杖で、私達を殴り飛ばした。

 私達は突如落下を始める。


「えぇ!? 拒否権無し!?」

「能力として、お主らの潜在意識を読み取らせてもらった。説明書も付属するから、後で読め」

「説明書って、ゲームか何かですか!?」


 私達は拒否権を持たされず、眩い光に包まれていく。

 私は思う。ひょっとしら圭が、怒らせていたのではないかと。

 光に視界を奪われて、私は再び意識を失った。


──────────────────────────────


「バブー」


 次に目を覚ました時、私は見知らぬ天井を見ていた。

 誰かに抱きかかえられているようだ。


「無事生まれました! 可愛い女の子です!」


 喜ぶ声が聞こえて来る。私は手足を確認した。

 短い。冷や汗をかきながら、私は冷静に自分の姿を確認する。

 すると大人の女性に抱っこされる。貴婦人?

 奇麗な服を来ている。まるで異国の貴族の様に……。


「って! 赤ん坊からスタート!?」

「おお! 貴方! もうこの子は喋られるわ!」


 感動したような目線で見つめる、貴婦人。

 何で生まれたばかりの赤ん坊が話す事に、驚かない訳!?

 とういうか、ここ何処!?


「旦那様! 無事お生まれになられましたな!」


 執事なのか奇麗なスーツの老人が、ハンカチで涙を拭っている。

 側には小さな男の子が居た。子供なのだろうか。


「良かったな! これでお前も守るべき主が生まれたようだ」

「うん! お父さん!」


 そう答える子供の姿は……。どう見ても圭の姿だった。

 

「お前は5歳児から、スタートかぁ!?」

「違うますよ、お嬢様。4歳です」


 どっちでも良い。何で私だけ赤ん坊スタートなのだろうか。

 そして圭の姿をした彼の、本来の人格は何処へ行ったのだろうか?

 分からない事が続き、私は軽くパニックになった。


「どうしたの? 何処か悪いの?」


 私が頭を抱えていると、貴婦人は心配そうに見つめた。

 どうやら私はこの人の、子供として生まれてきたようだ。


「きっと頭が悪いんですよ。貸してください」


 流れる様に毒を言いながら、圭は私を抱っこした。

 軽くあやす振りをしながら、圭は小声で私に言った。


「どう言う状況!?」

「アンタも何も飲み込めてないの!?」


 凄く周囲に溶け込んでいたから、先に目覚めたのかと思ったら。

 圭も今さっき目覚めた所のようだった。

 凄い適応力、場の空気を読む力……。


「神様は説明書があるって言っていたけど……」

「僕の懐に逸れっぽいものが。どうやら僕は5つ、君は7つ能力があるらしい」


 神様サービスし過ぎ!? 普通こういうのって、1つか2つじゃないの?

 私も転生は初めてだから、詳しくはないんだけど……。

 

「どうやら君は、異世界の上級貴族。その娘らしい」

「お嬢様って事?」

「そう言う事になるな……。そして僕が代々仕える執事一族の息子だな」


 飲み込みが早すぎる圭は、直ぐに状況を理解したようだ。

 と言うか、お嬢様? 私が? 超貧乏人だったのに?


「ねえ圭。私、もう異世界での生活が不安なのだけど……」

「大丈夫だ。大体この後は、7年後っとか言って、慣れるまで飛ばされるから」

「何の話?」


──────────────────────────────


~10分後~


 私は圭に抱かれたまま、2人きりになっていた。

 どうやら私の混乱は、人の多さで起きたと説明されたそうだ。

 一番私をあやせると言う理由で、圭だけが部屋に残された。

 圭は私をゆっくりと地面に下す。赤ん坊になっても、脳は立ち方を覚えているようだ


「圭……。7年どころか、1日たりとも進んでなんだけど!」

「当たり前じゃん。精神と時の部屋じゃないんだから。現実は普通に進むよ」

「さっきと言っている事違う!」


 私は暫く、赤ん坊で暮らせと言うのか……。

 流石に不自由過ぎないだろうか?

 圭は説明書を読みながら、状況を理解し始める。


「見た目だけなら、僕の魔法でかえられるようだ」

「え? 魔法? そんなの使えるの?」

「ファンタジーだからね。とにかくやってみよう」


 圭は何かを唱えた後、私に手をかざした。 

 すると私は死ぬ直前、17歳の頃の姿を取り戻していた。


「わあ! 魔法凄い!」

「ただし、僕がやる気を失うと、魔法も切れるっと」


 私は再び赤ん坊の姿に戻った。


「やる気出せぇ!」


 私は圭をしばこうとした。だが手足が短い。

 体にも全然力が入らない。

 生まれたてな為、私にはまだ筋肉が付いていないようだ。


「まあ説明はおいおい、読むとして。僕らは夢のファンタジー世界に来たようだ」


 圭は私の頭に手を置いた。


「ここには過去がない。君はやっと自由になれたんだ」

「自由に……?」


 今まで考えた事もなかった。

 私は一生両親の罪を、背負って生きていくのだと思っていた。

 貧乏で足掻くしかないと思っていた。

 なのに、今はお嬢様で過ごそうな力を持っている。


「今まで出来なかった分。ここで存分に暴れてやろうぜ」

「存分に……」

「そう。存分に」


 私は少しだけワクワクした。

 親の罪から逃れる事が出来た。圭の言う通り。

 私は自由を手に入れたのだ。棚ぼたでも何でも良い。


「ねぇ。圭。私ずっとやってみたかった事があったの」


 何処へ行っても、厄介者だった私。

 子供の時からやってみたかった事があった。

 一生叶わないと思っていた。いや、一生では叶わなかったのだけど……。


「冒険。未知な事を知りたい」

「ああ。とことんまでお付き合いしますよ。お嬢様」


 抑えられた私の好奇心が爆発する。

 これからワクワクするような冒険が待っているような気がする!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る