第2話 【悲報】コメント欄にユニコーンが湧く
ダンジョン攻略のライブ配信は大人気コンテンツだ。今の時代誰しもが推しのギルドやパーティーやソロ冒険者を持っているんじゃないだろうか?撮影用ドローンが星月と取り巻きたちを中心に飛んでいる。
「ハイ!今日は奥多摩湖ダンジョンに来ています!なんと今日はトンデモ情報をゲットしております!乞うご期待!」
:ムサシくん相変わらずいけめん(*´Д`)
:武蔵君たちの青春感すこ
:トンデモ情報気になる('Д')
俺は自分のスマホで星月が流している配信を覗いていた。コメント欄は賑やかだ。人気のチャンネルなんだってことがよくわかる。
「おっと!さっそくゴブリンが出てきましたねぇ!樒ちゃんどう?案外キモ可愛くない?」
剣を持った小柄なゴブリンたちが俺たちのパーティーの前に現れた。見るからに雑魚なので誰も動揺していない。
「うーん。ありよりなしかな。わたしはバツでーす」
樒さんが両手の人差し指をクロスさせて笑顔を浮かべている。かわいい。
:すげー可愛い!?¥1000
:ゴブリンに駄目だしするの可愛い¥3000
:ムサシ君の彼女?!うらやま!¥4000
:チャンネルの新ヒロインキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!¥2000
一瞬で1万も投げ銭入った?!みんなもその可愛さはわかっちゃうんだよね。まあ今投げられた投げ銭の一部は俺とのデート代に消えるのであざっす!と言っているうちにゴブリンたちとの戦闘になった。つーてもてこずる要素なんてなんもない。前衛の男子たちが各々の武器でゴブリンとガチンコして女子たちはバフ系の魔法スキルを後ろからかける。
「くらえ!鳳凰電雷光覇刃!!」
星月がかっこつけながらAランク相当の剣術スキルを発動させる。高校生レベルだとこれを出せるのは珍しい。ゴブリンは放たれた光の刃によって吹っ飛ばされて次々と死んで消滅していく。
:これを見に来ました。
:やっぱこれだよね!
:エモいわ¥500
:俺もこんな大技決めてみてぇ¥400
投げ銭がしょぼい気がするけど、コメント欄はすごい勢いで流れていく。視聴者たちはどうやら星月の活躍に興を覚えているらしい。自分が果たせなかった青春の羨望とでもいう何かを感じた。願望を投影しているのかもしれない。
「あれぇ?!武蔵君!一匹外してる!!」
「え、まじ?」
一体のゴブリンが鳳凰なんちゃらを避けてみせたらしい。仲間のゴブリンたちが倒されたことで、暴走状態になったらしく動きがいつもよりも早くなっている。
「ち!ちょこまかと!」
:あるあるww大技で一匹だけ残るやつwww
:これも青春の苦さっしょww
:樒ちゃんは今まで何人の男とお付き合いした?¥100000
:本物のユニコーンがおる。あんた男や(´Д⊂ヽ
:ゴブリンよりユニコーンが気になるwww
樒さんはコメント欄を見ながら首を傾げていた。
「誰とも付き合ったことないけど、どうしてそんなこと気になるのかな?ダンジョンと関係なくない?うーん?てかユニコーンって何?モンスター?」
:ゆにこおおおおおおおおおおおおん!!¥10000
:ゆにこーーーーーーーーん!¥10000
:いい夢見れたぜ(*´Д`)¥10000
:おれそういうあざとい女嫌いじゃないぜ(´_ゝ`)¥10000
この後もえんえんと投げ銭を投げていくユニコーンキッズたち。もういいやユニコーンじゃなくてゴブリンの方を見よう。いまのところ星月たちはゴブリンをみんなで追い回しているが、誰にも捉まえることが出来ない。そしてゴブリンは俺の方までやってきた。ついでに撮影ドローンも俺の方へと飛んできた。配信用撮影のアルゴリズムは今は俺を写すことを最適と判断してしまったようだ。
:ガチ装備www
:一人だけサバゲーセットだwww
:軍用ヘルメットまでつけてる奴は初めて見たかもwww
:でもよく見るとイケメン?(*‘ω‘ *)眼福¥1000
:イケメンのガチ勢wwwさあどうゴブリンを捌いてくれる?!www
ゴブリンは大上段で剣を構えてジャンプして、俺に向かって剣を振り下ろしてきた。どうしようかな?普段なら避けてライフルで脳天ぶち抜いて射殺するけど、それって視聴者に望まれてるのかな?星月はどうでもいいけど、樒さんにはダサい恰好は見せたくない。なので俺はちょっとトリッキーな戦い方をすることにした。
「ksyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaAAAAAAAAAAAAAA!!」
ゴブリンの剣が俺の脳天に迫る。だから俺は腰のホルスターからとあるものを取り出して、それでゴブリンの剣を受け止めた。
:むっ?!あれは?!('ω')
:知っているのか?!
:知らん('ω')なにあれ?ショートソードだよな?でもなんで櫛みたいになってんの?
:誰か知ってる奴はいませんかー。
:イケメン君解説してよー
「え?俺に言ってるのか?」
今俺はスマホの画面をコンタクトレンズのモニターに同期表示させていたので、両手がふさがっていてもコメントが見える。解説を求めらてもちょっと困る。
「まあ見ててくれ。ふん!」
俺は絡めとったゴブリンの剣をてこの原理でまげて粉々に粉砕した。
「gyabi?!」
ゴブリンは折れた剣を見てひどく驚ているようだった。
:剣を折った!?¥100
:折れちゃった?!¥150
:すげぇ?!ゴブリンのぶっといアレが折れた¥300
なんかリスナーも盛り上がっている。そろそろ解説しますか。
「これはソードブレイカーっていうやつだ。見ての通り相手の剣なんかを絡めとってぶっ壊すことが出来る」
俺は左手にソードブレイカーを持ち換えて、右手で太もものホルスターから拳銃を抜いてゴブリンの四肢を撃ち抜いていく。両手両足を撃ち抜かれたゴブリンはその場に倒れてしまった。
:え?やばこいつ。銃撃のエイムでスキル使ってないっぽいぞ¥500
:つまり素の技能ってこと?¥400
:うわガチだ。ガチすぎる( ゚Д゚)¥600
:えぐぅ…やばこいつぜったいにDV上手そうお姉さんにはわかる(*´з`)ヌレチャッタ¥5000
どうしよう¥5000もくれた人の意見が怖すぎるんですけど。DVなんて出来るほど親しい人いないんだけど。というかやる気もないけど。とりあえずこれ以上コメント欄を追いかけたくないのでゴブリンの脳天を撃ち抜いて殺した。すると撮影用ドローンは星月たちの方へと飛んでいった。
「えーっと。あはは!ナイスフォロー!」
星月は営業用スマイルでグッジョブしてくる。他のみんなもそれぞれ俺の戦闘を労う。なんかいかにも最初から友達だったみたいな空気感を出してくる。
「すご!トキヤ君、そんなことできるんだね!すごいすごい!」
樒さんが俺の方にきゃっきゃと俺の方に寄ってきた。ついでにドローン君も俺たちの方に寄ってきた。
:イケメン美女。てぇてぇ¥1000
:制服女子とサバゲ男子ってことは、樒ちゃんはオタクに優しいギャルってこと?!¥3000
:許せないぃ?!泥棒猫( `ー´)ノその人のDVはわたしのものよ!¥10000
:ゆにこおおおおおおおおおおおん!早く着てくれぇ!このままだと間に合わねぇええええええ!¥20000
ドローンは様々な角度から俺と樒さんを写していく。樒さんはピースしてたけど、俺は逆に恥ずかしかったので顔を俯かせがちだった。その時だった。ふっとぬめっとした嫌な気配を感じた。星月が俺のことを冷たい目で睨んでいる。それは怒りか悔しさなのか。だけど嫌な予感だけはした。何ができるかは知らないけど、陰キャはこれ以上目立ったない方がいいだろう。俺は樒さんから距離を取る。するとドローンは自然と星月の方へと戻っていた。そしてチャンネルの主導権は星月たちに戻った。これでいい。変に目立ったないでやり過ごす。注目を受ければそれだけ敵も増える。俺は穏やかに生きていきたい。ただそれだけだ。
その後パーティーは配信しつつ10層までたどり着いた。そしてくすんだ水晶を見つけ出した。
「樒さん。隠しエリアにここから入れる」
俺は配信に声が紛れ込まないように静かな声で樒さんに話しかけた。
「え?そうなの?どうやって入るの?」
「そこの水晶をタオルでこすってくすみを落としてライトで照らすんだ。するとワープゾーンが発生する。それでいける」
「じゃあトキヤ君はそれをやってよ。今からドローンと武蔵君たちを呼ぶから…むぎゅ?!」
俺は樒さんの唇を人差し指で塞ぐ。
「君がやるんだ。彼らのチャンネルで俺がこれ以上目立っちゃ悪いよ」
「でも活躍できるのに?トキヤ君かっこよかったし視聴者にも人気みたいだよ?」
「それでもだよ。他人の庭は荒らさない。目立たなくてもいいよ。もともとここの隠しエリアに君を連れてきたかっただけなんだから。それが叶うならそれで十分だよ」
俺は樒さんに微笑んだ。樒さんはどこか納得していないような感じだったけど。最後には頷いてくれた。そして俺は樒さんから少し離れる。樒さんは星月たちとドローンを読んで俺の言った手順を実行した。するとキラキラと輝くワープゾーンが現れた。パーティーはそこへと足を踏みいれる。
「うわぁ…綺麗…」
樒さんは瞳を輝かせてその光景を見ていた。他のパーティーメンバーもその光景の美しさに圧倒されている。視聴者たちもまたその光景に魅了されている。そこは大きな水晶が乱立する広場だった。そして少し遠くにはとても綺麗な湖が見える。湖水は水晶の反射する光を受けて輝いてみた。
:なんて美しいものを見させてくれたんや(´;ω;`)¥10000
:すげぇだから配信見るのって止められねぇんだよなぁ¥10000
:こういう冒険マジでエモい!ありがとう!¥10000
:ゆにこおおおおおおおん!¥50000
:DV(´Д`)DV¥100000
俺はDVしないぃ!!配信は最後にとてもいい空気で盛り上がった。
「はい!いかがでしたでしょうか!今回の配信はここまでです!いったん休憩を挟んでから隠しエリアの方の探検をライブしますので、よろしくお願いしますね!」
星月がそう言ってライブ配信は一旦そこで途切れた。まあなんとか配信が上手くいってくれて俺は少し充実感のようなものを覚えたのであった。
***作者のひとり言***
絶望まであと何歩かな?
バズる喜びを知ったトキヤ君でした。
そして彼は知る。
バズに魅了されたものたちがいかに醜悪で残酷になれるのかを…。
次回
「ライブ・バズ&ダイブ・ヘル」
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