トレーニング2「アナタには好きになってもらいたいんです」

「それでは、始めていきましょう。辛くなったら途中で休憩しても大丈夫ですヨ。無理せず楽しく続けていきましょう」


「では最初は、“レッグレイズ”からスタートです。ワタシがお手本を見せますから一緒にやってみましょう」


 俺はアリョーナさんと横並びになって一緒にマットに寝転がる。


「まずはマットの上に仰向けに寝転んでください。腹筋を意識しながら天井に向けて両足を上げて。ヒザはあまり曲げないように意識してくださいネ」


「うん、そうです。ピンっとまっすぐ伸びてますネ! ハラショー! 美しい! 腹筋に力を入れたまま、今度はゆっくり足を降ろしてみましょう」


「えっ? お腹のあたりがビリビリ来てる? 腹直筋が効いてる証拠です! 筋肉が目覚めてきましたネ! おはよう筋肉!」


「そのまま~そのまま~床に足はつけないでキュッとお腹に力を込めましょう!」


「ターク! はい、オッケーです! 足を上げて元の位置に戻してください」


「ふふっ、たった一回でも効果がありそうでしょう? このトレーニングでは大腰筋といって腰周りの筋肉も鍛えられるのでぽっこりお腹のカイショウにもつながりますよ」


「それじゃあ、同じ動作でもう5回繰り返してみましょうか」


「うんうん、上手! もう身体が覚えていますネ! 飲み込みが早い! この調子ならぽっこりお腹飛び越えてバッキバキに割れた腹筋もすぐそこです!」


「うん! 床に足を下ろして大丈夫ですよ! はい、お水をどーぞ!」


「1セット5回。慣れてきたら10回を目標にやっていきましょう。休憩したら次のメニューをやってみましょうか」


「お次は“デッドバグ”です。名前の通り、死んだ虫のように仰向けになって、バンザイのポーズで行う運動です。インナーマッスルが鍛えられて、細く引き締めまったお腹になります!」


「さあ、死んだ虫の気分になってやってみましょう!」


「まず、仰向けになって両手を前にあげて。次にひざを曲げた状態で足をあげてください。90度を意識してみてくださいネ」


「この状態で鼻から息を吸って、口からゆっくり吐きながら右手だけを頭の上に移動してください。バンザイのポーズをイメージして」


「右手バンザイと同時に左足をまっすぐ伸ばします。もう一方の手と足は動かさないで元の位置にキープしたままですヨ」


「また鼻から息を吸って右手と左足を最初の体勢に戻します」


「アリャリャ! 手と足がどっちも左になってますネ。右手と左足、左手と右足の組み合わせです!」


「う~ん、ちょっと難しいですかネ……ヨシ、最終兵器を出しましょう!」


「じゃじゃーん! 旗揚げゲーム! はい、日本の旗を右手、ロシアの旗を左手で持ってくださいネ」


「じゃ、ゆっくりいきますヨ~まずは日本をあげながら左足を下げる~そうです! はい、日本戻ってきて~!」


「じゃあ次はロシアいってらっしゃ~い! いいですネ~! 右脚もちゃんと下がってますネ~」


「はい、ロシア戻ってきて~! 再び日本だ! がんばれ~!!」


「日本が戻ってきた! よし、ロシアも負けるな~いけ~!」


 アリョーナさんは片腕をあげて一生懸命応援していた。



*********************



「はい、オシマイです! オミゴトです! 素晴らしい適応能力の高さですネ!」 


「今日はここまでにしましょう!」


 え? もう?

 あっという間に時間が経ったな。


「お疲れ様でした。最後まで出来たご自分を褒めてあげてくださいネ!」


「この旗、お貸ししますので慣れるまではぜひおうちでも使ってみてください」


 お試しコースだし、今日は初回ではあるが、正直言ってもっとキツイメニューでも全然イケる気がした。


「え? トレーニングが簡単過ぎる? もっと厳しめでやって欲しい?」


「……」


「……トレーニングで大切なことをお伝えしておきます。それは、まず最初に大きい目標を掲げ過ぎないことです」


「無理にたくさん回数をこなそう、長時間頑張ろうとするとフォームが崩れて筋トレ効果も半減してしまいます。それじゃあ勿体ないです」


「まずは正しいポーズで一回、一回を丁寧に行う。出来てないから言ってるんじゃありませんよ? ご自分の体重や環境に合わせて努力していくことはトレーニングを続けるヒケツなんです」


 アリョーナさんの言葉に深く俺は頷いた。

 素人がすみません。本当その通りだ。素直に、黙って、目の前のことをコツコツやります。


「でもネ、やる気があってとても素晴らしいです。なんだか、ワタシ、うれしくなっちゃいました……えへへ」

 

 アリョーナさんは嬉しそうに笑った。その目は少し潤んでいるようにみえた。


「ワタシ、アナタにはトレーニングを好きになってもらいたいんです。自分の身体に向き合おうとされたアナタを応援したいです!」


「また次回、お待ちしています!」

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