厳しめでお願いしますよアリョーナさん! ~メタボなオレを甘やかすロシアントレーナーさんとの激甘減量ライフ~
ワタリ
トレーニング1「トレーナーのアリョーナです! ドゾよろしく!」
「おためし5日間コースへのご入会ありがとうございます! ジムトレーナーのアリョーナです! ドゾよろしく!」
「カルテのご記入ありがとうございます。ふむふむ……ご入会のきっかけは会社の健康診断でメタボ気味と診断されたからと」
「ボディで特に気になるのは、お腹なんですネ。下腹ぽっこりを解消したいと。ナルホド、ナルホド」
「身長は173cm、体重は85kg。体脂肪率24%ですか。ウーン」
「生活習慣は……食事は朝ゴハンはコーヒーのみ。お昼ゴハンと夜ゴハンは基本コンビニと外食。お酒は毎日。おやつも毎日。運動習慣はゼロ。睡眠時間は一日平均、ご、5時間未満……!?」
カルテをじっと見つめたまま、アリョーナさんは黙り込んでしまった。
ああ、こんなただれた生活してるやつがジムに入ろうだなんて、きっと呆れられてんだろうなぁ。
「……えらい!!!!」
突然、顔をがばっと上げてアリョーナさんは俺に笑顔を見せる。
ん? しかもこの人、ちょっと泣いてない……?
「こんなどうしようもない生活なのにジムに入ろうだなんて……えらい! えら過ぎです!! もうその時点で痩せ確定ですよこれは!!!!」
「ワタシが責任を持ってゼンリョクでお手伝いさせていただきます! 一緒にがんばりましょうネ!」
「それでは、初日は軽いトレーニングから始めましょう。まずはストレッチからです!」
「ストレッチを行うと、筋肉がほぐれて血流がよくなり、身体に酸素と栄養が届きやすくなりますからダイエットに効果的なんです。トレーニングの後にも行うと疲労回復と筋肉痛予防も期待出来ますヨ!」
おお……さっきまでちょっとたどたどしい日本語だったのにトレーニングの話になるとめちゃくちゃ流暢だ。
「ではまず、鼻から息を吸いながら腕を前に上げて~」
アリョーナさんは俺の前でお手本を見せるようにゆっくりと身体を動かす。向い合わせになって俺も同じ動作をした。なんか、照れくさい。
「そうそう、お上手デス! 今度は息を吐きながら腕を横におろしマス!」
「うん、完璧です。同じ動作を2セットいきましょうか!」
「これ、簡単にみえて肩回りの筋肉をほぐすのにとっても効くんですよ。肩こり改善とリフレッシュ効果も期待出来るんです!」
確かに肩回りが少しほぐれてきた来た気がする。意識して息を吸うことも普段はやってないから、新鮮だ。
「睡眠時間が短いの、もしかしてお仕事がお忙しいのかなぁと思いまして……きっとお疲れ気味だと思うので家でもやってみてくださいネ」
「身体は鍛えるだけじゃなく癒すことも大切です!」
「ターク! はい、いいですよ! どう? 少し肩回りが軽くなった来ませんか?」
アリョーナさんは俺の肩を軽く揉む。
「おお~効果バツグン! よっぽどこってたんですねぇ……こんなになるまで……キミのご主人は働き者なんだねぇ……」
労うようにアリョーナさんは俺の肩を優しく何度もなでる。
てか、誰に話しかけてるんだこの人? 肩? 俺の肩こり?
「それでは次は腕を振って足を伸ばす運動です。日本では夏休みのラジオ体操でよくやるやつだって、近所のショウガクセイが言ってました! ご存じですか?」
「まっすぐ立って腕を交差した状態から、横に振って足を曲げます。そしてまた腕を元の交差した位置に戻して、足もまっすぐ。そうです! 説明するまでもないですネ! 細胞レベルで覚えてるって感じがします!」
俺の脳内ではバッチリあのBGMまで流れていた。子どもの頃は暑いし眠いし何で朝っぱらからこんなことしなきゃいけないんだって不満に思っていたが、大人になってやると案外いい運動になるんだな。
「この運動は全身の血行促進、あと転倒防止にもなるんですヨ」
転倒防止……。俺は軽いショックを受ける。
「あっ! そこまでおじさんじゃないゾって顔してる……!」
俺の顔を見て、アリョーナさんが慌てる。まだ一応30代なんだけどなって顔に出ていたようだ。
「イズビニーチェ! ごめんなさい! も、もちろんそんな風に思ってる訳じゃありませんヨ!」
「これまで運動習慣がなかった方がダイエットや急な運動を始めると、どうしても怪我をしやすいんです。体重が減り始めると、身体に力が入らないようなフラフラ~っと感じることがあって、怪我の原因になったりするんです」
「トレーニング前に怪我予防のストレッチは必要不可欠なんです、ホント。ホントに。それ以上の意味はありませんってば、もう」
「さ、さあ、引き続きワタシと一緒に始めましょう!」
*********************
「ターク! はい! いいですネー! 身体温まってきました?」
「身体が温まるとこの後のトレーニングの効率も上がりますからネ」
「最後に股関節をほぐすストレッチを行いましょう」
「床に腰を下ろして座ってください。足を横に軽く広げて、広げた間に身体を伸ばすように上半身を前かがみに――」
「……え。それでマックスですか? ゼンゼン曲がってない……!」
アリョーナさんに言われた通りにしているつもりだったが、俺の上半身は不動のようだった。
「ウーン、これはかなり股関節が固まってますネ。ハムストリングも硬そうだなぁ」
「ハムストリングというのは太ももの裏の筋肉のことです。ここが硬く縮こまっていると、骨盤が下に引っ張られて姿勢が崩れて猫背になりやすくなります。下腹ぽっこりの原因の一つでもあるんですヨ」
アリョーナさんは自分の太ももの裏を指さして俺に見せる。下っ腹が出てるのは腹の筋肉がないせいかと思っていたがそういうことだけでもないのか。筋肉を意識して生活なんてしてないから、説明されることす全てが新鮮だった。
「ハムストリングをほぐしてあげることはスッキリお腹への道の第一歩です!」
「ちょっと失礼しますネ」
アリョーナさんが俺に近づき、背中に両手を置く。
「ワタシが軽く背中を押しますから、息をふぅ~とゆっくり吐きながら身体を前に倒してみてください」
「無理に倒そうとしなくて大丈夫。身体が自然に動くのに任せて……そうです、ゆっくり、ゆっくり。とってもいい感じ」
言われるままに息をゆっくりと吐いて前かがみになる。
「このままの姿勢で5秒キープしてみましょう。いーち……にーい……さーん……しーい……ご!」
「よくがんばりましたネ! すごく伸びてました! 飲み込みが早い!」
ストレッチしかしてないけど、褒められるとやっぱちょっと嬉しい。
「水分補給しましょう! これだけでも結構汗かきますよネ」
「休憩の後はお腹の筋肉を鍛えるトレーニングをワタシと一緒にやってみましょうネ!」
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