27 私、どこか変なのでしょうか……?
「あの、アルヴェント様……。私、どこか変なのでしょうか……?」
朝食後、アルヴェントに先導してもらい、王城巡りに出かけたフェルリナは、人気のない廊下に入ったところで、思わずアルヴェントに問いかけた。
きょとん、と目をしばたたいたアルヴェントに、おずおずと言を継ぐ。
「その……。先ほどから、いろいろな方に見られている気がしまして……」
朝食後、アルヴェントは自身の執務室や近々国王との正式な
おそらく、第二王子であるアルヴェントの隣に見知らぬ娘がいるせいだろうが、王城のどこに行っても文官や武官、従者や侍女達がフェルリナに視線を向けてくるのだ。
さすがにまじまじと
いまのフェルリナは侍女達が着せてくれたゴビュレス王国風の厚手の生地のドレスを着ているので、少なくとも服装や髪型は変ではないと思うのだが。
となれば、可能性として残るのは、仕立てのよいドレスがフェルリナにあまりに似合っていなくてみっともないか、フェルリナが不審者にしか見えないか、だと思うのだが……。
フェルリナの言葉に、アルヴェントが得心がいったように頷く。
「そりゃあ、俺みたいな武骨な男の隣に、きみのように可憐な乙女がいれば目立つだろう。情けないことに、俺は前からご令嬢方には
何のてらいもなく放たれた言葉に、一瞬で顔が熱くなる。
「か、可憐だなんて……っ! 何より、アルヴェント様が忌避されていたなんて信じられませんっ! こんなにお優しくてご立派な方ですのに……っ!」
「いや、俺は図体ばかりで……。この顔の傷がよほど恐ろしいのか、子どもには泣かれるわ、ご令嬢達にも怯えられる始末でな……」
しょぼんと広い肩を落とすアルヴェントはきっと子ども好きなのだろう。
確かに、初めて出逢った時はフェルリナも『ゴビュレスの呪われた灰色熊』という二つ名にふさわしい
「きっと、アルヴェント様のお人柄を知れば、怖いと思う者などいなくなります! 現に、騎士団の皆様はとてもアルヴェント様を慕ってらっしゃるではありませんか」
「……いや、あれを慕っていると言っていいものか……?」
フェルリナの必死の訴えに、アルヴェントが困ったように顔をしかめる。
確かに、ともに遠征する団員と騎士団長という近しい間柄とはいえ、第二王子にあれほど気安く接するなんて、クライン王国では考えられないことだ。
だが、アルヴェントが団員達と打ち解けた様子で接しているのを見てきたフェルリナは、それが悪いことだとは決して思わない。
それは、フェルリナは望んでも決して得られなかったものなのだから。
「もちろんですっ! アルヴェント様が団員の皆様に慕われているのは間違いありませんっ! 本当に、私には
つい本音を口に出してしまい、あわてて口をつぐむが遅い。
「羨ましい……?」
「そ、その……。クライン王国では、加護なしの私と親しくしてくださる方なんていませんでしたから……」
語尾が情けなく消えてゆく。が、アルヴェントに心配をかけまいとフェルリナは笑顔で視線を上げた。
「ですから、ナレットさんとチェルシーさんには本当に感謝しているんですっ!」私なんかにもとても親切にしてくださって……っ!」
「そうか。それを聞けば二人も喜ぶだろう」
アルヴェントが不意にこぼした柔らかな笑みに跳ねた鼓動をごまかすように、フェルリナはこくこく頷く。
「は、はい……っ! 他の団員の皆様も、ほがらかに接してくださいますし……っ!」
途端、なぜかアルヴェントが渋面になる。
「そうだ、あいつら……っ!」
「あ、あの、アルヴェント様……?」
笑顔を浮かべていたというのに、急に険しい顔になったアルヴェントに戸惑う。
と、突然、フェルリナを振り向いたアルヴェントに、両肩を掴まれた。
「いいか、フェルリナ。ナレットやチェルシー、他の女性騎士はともかく、あまりに
「ひゃっ!? あの……っ!?」
がしっと両肩を包む大きな手と、急に近づいてきた精悍な面輪に思わず小さな悲鳴がこぼれる。
だが、フェルリナの悲鳴は、ちょうど廊下の角を曲がってきた人物の叫びにかき消された。
「殿下っ!? まさか、人目がないからとフェルリナ様を襲う気ですか……っ!?」
「そんなことをするワケがないだろうっ!」
両手に本を抱え、
が、ロベスから返ってきたのは疑わしげなまなざしだった。
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