20 特別な加護の聖女
「ほら、レベルに変化など――、っ!?」
言いながら、ステータスボードに視線を落としたアルヴェントが絶句する。
そこには。
「レベル、四十一、だと……っ!?」
アルヴェントの声が驚愕にかすれる。
フェルリナも身を乗り出して覗き込んんだステータスボードには、まごうことなくレベルの欄に四十一という数字が表示されていた。
「馬鹿な……っ!? 俺のレベルはとうに打ち止めになっていたハズなのに……っ!?」
黒い目が信じられないと言わんばかりに
対面からステータスボードを見つめるフェルリナもまた、驚愕に目を瞠っていた。
アルヴェントはまだ二十二歳だ。この若さでレベル四十に達しているなんて、天賦の才の持ち主以外の何者でもない。
「いったい、どういうことだ……?」
アルヴェントの低い呟きに、フェルリナは、はっと我に返る。
「ふむ……。これは……」
と思案するような声を洩らしたのはロベスだった。
「フェルリナ様。確か先日、ここ数年、ステータスボードで鑑定をしたことがないとおっしゃっていましたね? よい機会です。久々に鑑定なさってはいかがでしょうか?」
「は、はい……っ!」
静かながら、有無を言わさぬロベスの声音に、こくこくと頷く。手を離したアルヴェントに代わり、フェルリナはそっとステータスボードに手をのせた。
小さな音とともに、ステータスボードにあらわれたのは。
「レベル四十六……っ!? おいっ! 本当にステータスボードが壊れているんじゃないだろうなっ!?」
ステータスボードを注視していたアルヴェントが大声を上げる。あまりに大きすぎて、思わずこぼれかけた悲鳴を、フェルリナは唇を噛んでこらえた。
「四十台後半のレベルに達したものなんて、ゴビュレス王国の長い歴史の中でも、片手の数ほどしかいないぞ!? しかもフェルリナはまだ十八歳だろう!? だというのに、これほどのレベルに達しているわけが……っ!?」
「殿下、落ち着いてください。偏見は視野を狭めます」
アルヴェントの大声などどこ吹く風と言いたげに落ち着きはらった声を出したロベスが、フェルリナに視線を向ける。
突き刺すような鋭いまなざしに、フェルリナは反射的に肩を震わせた。
「フェルリナ様は、クライン王国で数多くの遠征に参加されたと聞き及んでおります。であれば、このお若さでレベルが上がっていても不思議ではありません。ファングウルフと戦った際、全員に防御力アップに攻撃力アップと、二重の支援魔法をかけられていたので驚いたものですが……。このレベルなら納得です」
フェルリナを見て笑みを覗かせたロベスが、すぐに表情を引きしめる。
「ですが、殿下がおっしゃるとおり、レベルが高すぎるのは確か。そして、この加護の空欄……」
す、っとロベスの指先がステータスボードの一か所を示す。
そこは、固有のスキルを持っている場合に表示される欄だ。聖女であるフェルリナの場合は、これまで何度も見たことがあるように「聖女の加護」と表示されている。
だが、いままでと同じように、本来ならば「レベルアップ支援」と表示されるはずのスキル欄の詳細は、真っ黒なままだ。これはクライン王国で鑑定した時と変わらない。
聖女に支援魔法をかけられた者が魔物を倒すと、通常以上の経験値を得ることができる。これが聖女の加護だ。
だが、フェルリナがどれだけ支援魔法を重ねがけしても、経験値アップの効果はなく、それゆえ、フェルリナは加護なしの聖女だと、ずっと蔑まれてきたのだが……。
「フェルリナ樣。もしや、あなた様がお持ちの加護は、『レベルアップ支援』ではないのではありませんか?」
「え……っ?」
予想だにしないロベスの言葉に、フェルリナはきょとんと呆けた声を洩らす。
そんなフェルリナから目を逸らさぬまま、ロベスが淡々と言を継いだ。
「ゴビュレス王国は魔物達が
「ロベス……。お前、そんなこともしていたのか……」
どうやら、ロベスが文献を調べていたことはアルヴェントも知らなかったらしい。
驚きの声を上げたアルヴェントをちらりと見やったロベスが、すぐさまフェルリナに視線を戻す。
「その中で、一冊、興味深い古文書を見つけたのです。古い上に詳細が記載されておらず、単なる伝説かと当時は思ったのですが……」
「おいっ! 思わせぶりなことを言っていないで、さっさと言え!」
アルヴェントが焦れたように促す。
「まったく。殿下はこらえ性がないですね。そんなことではフェルリナ様にそのうち呆れられますよ?」
「おいっ! そこはフェルリナは関係ないだろう!」
「アルヴェント様に呆れるなんて、あるはずがありません!」
同時に声を上げたアルヴェントとフェルリナに、小さく吹き出したロベスが、話を続ける。
「その古文書には、特別な加護を持った聖女のことが書かれていたのです」
「特別な、加護……?」
ロベスの言葉に引き込まれるように、フェルリナはおうむ返しに呟く。
なぜだろう。胸が騒ぐ。
まるで、運命が未来へと続く扉をノックしているかのような……。
「そうです」
頷いたロベスの濃い茶色の目が、射貫くようにフェルリナを見据える。
「その特別な聖女は、『レベルアップ支援』ではなく、『レベル上限解放』の加護を持っていたそうです。本来なら、素質によって一定の値で止まってしまうレベルの上限を解放し、さらに強く成長することができる加護を……。フェルリナ樣、あなたに支援魔法をかけられた上でファングウルフと戦った騎士達は、頭打ちになっていたレベルを上げることができました。これこそ、フェルリナ樣の加護が、『レベル上限解放』である証に他なりませんっ!」
「っ!?」
ロベスの断言に息を呑んだのは、広い食堂にいた全員だ。
驚きすぎて、フェルリナは声すら出ない。目を見開いて固まっていると。
「フェルリナ樣、すごいですっ!」
「今度の討伐では俺にも支援魔法をかけてください!」
「まだレベルを上げることができるなんて……っ! 嬉しすぎますっ!」
わっと寄ってきた騎士達に周りを囲まれ、次々に声をかけられる。
「えっ!? あの……っ!?」
「おいっ! 散れ! フェルリナが困っているだろうが!」
立ち上がったアルヴェントが、しっし! と犬でも追い払うように騎士達に手を振る。
「団長のけちーっ!」
「フェルリナ様の独占反対っ!」
「独占も何もフェルリナは俺の花嫁だっ! 文句は聞かんっ!」
憤然と告げたアルヴェントが、たくましい胸を張る。
「そもそも、まだロベスの推論というだけで、確証が得られたわけじゃない! 筋は通っているし、可能性が高いとは思うが……。確かめる討伐の機会はまだ先だ。身をもって確かめたいんだと願うんなら、油を売ってないで訓練でもしろ! たるんでる奴は次の討伐の面子から外すぞ!」
「え――っ! 団長、横暴~っ!」
「断固抗議するっ!」
「うるさいっ! 抗議は認めんっ!」
がうっ、と吼えたアルヴェントに、「ちぇーっ」と唇を尖らせながらも、団員達がおとなしく散っていく。
「すまん、フェルリナ。あいつら、ほんと礼儀知らずで……」
「い、いえ……っ!」
ふるふるとかぶりを振りながらも、フェルリナはそれどころではなかった。
ずっと加護なしと蔑まれていた自分に、まさか別の加護が――しかも、特別な加護があるかもしれない、だなんて。
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