海水浴とお返しの約束

 名古屋の保健所の審査は美傘のそれよりもいくぶん厳しかった。

 給排水のタンクの容量、換気扇および網戸の有無、シンクや作業場の大きさなど車内全体を目視でチェックされる。そして口頭による営業場所と時間、各材料の仕入れ先、現地滞在中の生活サイクルまでみっちりと確認された。私は審査が一時間を過ぎた頃にはもう辟易していたが、滝野はつらつらと担当者に説明を続けていた。大人だと思う。

 しかしこちらも準備万端の身。最後は担当者のおじさんもキッチンカーの設備を褒めてくれた。名古屋は急に車線変更する車が多いから気をつけて、とも。

 保健所を後にし、車のアクセルを踏むなり滝野が悲鳴をあげる。


「だあーっ疲れたぁー! 堅っ苦しかったわーアタシああいう大人の会話って肌に合わんねん」

「いや滝野はいい大人でしょ……」

「ちゃうもーんアタシ女の子やもーん」

「うわあ」


 先ほど覚えた所感はどうやら撤回しなければならないらしい。角質系ガールとでも呼ぼうか。おばヤンよりかは愛嬌もあろう。

 何はともあれ、これにて愛知県での営業許可は取得完了。

 予定より時間は押したけど、今日中にやるべきタスクは果たした。フロントガラス越しに見上げた夕空はすみれ色に染まっている。弓のように細い月が夜闇の到来をぼんやりと待っていた。


「では、名古屋への無事の到着を祝して、カンパーイ!」

「ノンアルやけどなー。乾杯!」


 私たちは名古屋名物の手羽先屋で最初の祝杯をあげた(「全国チェーンやからこそ本場に価値があるんや」by滝野)。テーブル席に案内されて間もなく店内は満席になった。

 いかにも居酒屋といったムードに未成年の私は慣れていない。無意味にドキドキしているうちに注文した料理が運ばれてくる。

 食べ方の説明書きに則り、手羽先の両の端を掴んだ。関節を折って骨から身を剥がし、ぱくりとひとくちで肉を頬張る。


「う――うまっ! なんだこれ! 肉!?」

「そら肉やろ……ってうまっ! なんやこれ肉か!?」


 パリッとスパイシーな衣に包まれたジューシーで柔らかいお肉。噛みしめると濃厚な旨味と肉汁が溢れて口腔を満たす。強烈な多幸感が広がり、ふたり揃ってテーブルでのけぞった。

 車だからお酒を入れられないことに気付いた瞬間の滝野の「あ、ありえへん……」と愕然とする表情は今宵のハイライトだろう。吞兵衛の悲鳴を肴に食べるどて飯もまた味わい深かった。


「はーお腹いっぱい! そしたら次はお風呂でカロリー消費しないとね。帳尻合わせるのも大変だー」

「桃は湯上りになんか飲まへんの?」

「フルーツ牛乳飲むよ」

「帳尻は?」

「おいしいよ」


 夕食を済ませた私たちは、次は銭湯に車を走らせる。

 グーグルマップを頼りに来たのは、住宅地にぽつねんと佇む昭和レトロな外観の銭湯だった。

 入口の戸にかけられたのれんをくぐるとすぐに番台があった。座っているお婆さんに料金を払って脱衣場に移動する。

 古い木造校舎のような板張りの部屋は閑散としていた。備えつけのナショナル製扇風機だけが律儀に首を振っている。


(こういうのは意識せずにちゃっちゃと脱いだほうが恥ずかしくないんだよね)


 右隣の滝野を見ないようにしながらいそいそ服を脱いでいく。脱衣かごにシャツとパンツを放り、ぐいっとショーツを下ろしたところで、


「うわっ!」

「おっと。大丈夫かいな桃」


 こけそうになった私は右腕ごと滝野に引っ張り上げられた。


「あ、ありがと滝野。ごめ――」


 どうにか自分の力で立ち直して、ついでにショーツも履き直す。

 礼を言おうと首を横に向けて、うっかり視界に入れてしまった彼女の下着姿に硬直する。


「――」


 滝野の正体が実はメデューサの末裔だった、とかではない。

 洗練されたバランスの造形美に視線を釘付けにされたのだ。


「どしたん、さっきからじろじろ見て」

「え? な、なんでも?」


 とっさに目を逸らすと滝野が訝しむみたいに両目を細める。

 私は突き刺さる目線から上半身を守るように背を向けた。


(え、滝野の身体すごいんだけど。何あれダビデ? もとい彫像?)


 滝野の裸体は鋼じみていた。服の上からは判らなかった。

 余剰という余剰を削ぎ落とした砂時計のシルエットの肉体。シミひとつないなめらかな肌には、彫刻刀で彫ったかのように筋肉の影が浮きあがっている。しなやかで厚みのある太腿と女性的なヒップが描く曲線は美しくも屈強で、さながら鍛えられたサラブレッドのよう。広い胸部にふんわりと盛られた、手のひらに収まるほどのお椀型の脂肪だけが柔らかそうで、悪戯にこの手で触れてみたくなる。

 初めて目にした滝野の裸身に私は動揺を隠せなかった。

 想像していた以上に筋肉質で意外だったのもあるけれど、何より網膜にくっきりと焼きついた彼女の裸は――


「なんや怪しいな、アタシの身体が何か……あっ」


 滝野はふと思いついたようににんまりと口を弧の形にする。


「……なんだよ。言いたいことがあるならはっきり言いなよ」

「えっち」

「なっ!……がっ……ぎっ……びっ……」

「そんなガチーンて固まらんでも……ぶっ壊れたラジカセみたいになっとるで。大丈夫、桃のカラダもキュートや」


 いったい何が大丈夫なのか。藻永さんみたいな笑みを浮かべて彼女はぐっと親指を立てる。きらんと白く光る歯が覗き見えて理不尽な怒りがこみあげた。意味不明の羞恥心も混じって顔面が焼けついたように熱い。

 言い返そうとしても声が出ない。酸素を求める金魚のごとく無様に口をぱくぱくさせてしまう。

 オーバーヒート気味になっている私に滝野が追い打ちをかけた。


「浴場だけに欲情」


 それを聞いた瞬間、理性という理性が木っ端微塵に吹っ飛んだ。


「うるっっさい!! さっさと風呂入れ! 恥じらいを持て! このクソバカ!」


 ――私は筋肉フェチではない。筋肉フェチではないはずなのだ。



         **



 名古屋市東部の丘陵地帯に位置する平和公園は広大で、敷地内のあちこちに複数の駐車場が点在している。一・五キロ平方メートルの園内をひと通り巡った末、ある程度街灯がありトイレも近い西側に車を停めた。

 今夜はこの場所で一夜を明かす。人生初の車中泊である。


「仕込みが済んだらさっさと寝るでー。明日からはまた十時開店や」


 自分の寝床を作り終えたのか、運転席にいたはずの滝野が後部の作業場にやってきた。ロング丈のモッズコートを羽織り、左右の手にはそれぞれ薄手の毛布と紙袋を携えている。

 出入口である車体背面の観音開きの扉が閉まる。

 換気扇を除き、ほぼ密室の空間が静けさを取り戻した。


「小豆の吸水も材料の確認もさっき済ませたよ」

「お疲れさん。どや、それで眠れそうか?」

「いけるっしょ。家で試したときはぐっすり眠れたし」


 その場に敷いた灰色の寝袋に視線を落とし微笑んでみる。滝野から借りたこの寝袋はひと目で見て取れる作りの良さだ。

 けど、私が車中泊に適応できるかはやってみなきゃわからない。


「そこに毛布置いとくから、寒かったら寝袋の上からかけてな」

「ありがと。……しっかし、まさかイブの夜をこんなふうに過ごすなんてね」


 この数奇な状況には流されてきたのか自分で漕ぎついたのか。

 名古屋で、キッチンカーで、寝袋。苦笑すると滝野が眉を上げる。


「なんや色気のある台詞やなあ。一緒に過ごしたい人でもおったん?」

「は? いないけど。そういう滝野はどうなのさ」


 反射的に食ってかかった直後、自分の言葉の意味に気がついた。


(あ、大前ってまさか――)

「おらへんおらへん。あ、目の間におるって言ったらどないする? 嬉しい?」


 ひらひら手を振ってから、例によってニヤニヤとからかってくる滝野。

 湧き起こる謎の安堵を飲み下して私はつっけんどんに返す。


「バーカ」

「せや、これあげる」


 そう言うと、滝野は唐突に持っていた紙袋を突き出してきた。


「へ?」


 目をぱちくりさせる私に、後ろ手を組みながら彼女は続ける。


「アタシからのクリスマスプレゼント。きのはちゃんに負けるわけにはいかんやろ」


 何の勝負? とかいうツッコミはすぐに思考の隅に追いやられた。

 手渡された紙袋を抱えて私は困惑する他なかった。


「え、悪いよ。それに私のほうは何にも用意してないし」

「ええからええから。だいたいこーゆーのは年長者の務めやん」

「でも」

「めんどくさいこと考えとらんで子どもは素直に受け取っときー」


 なおも食い下がろうとする私に対して滝野はにべもなかった。

 どうしようか考えていると、眼前の顔がふっと眉根を寄せる。


「……重かったかな」


 彼女の唇からこぼれ落ちた不安そうな声音にどきりとする。

 指しているものが袋の質量じゃないことくらい、私にもわかる。


「や、それは全然」


 大きく首を横に振ってみせる。

 ほっとしたような滝野の面持ちには彼女のズルさが詰まっていた。


(なんでもできそうな顔してるのに、こういうところは不器用なんだよな)


 初対面の日や文化祭の一週間前のことを思い出す。

 内心では気を揉んでいるくせに強がった態度を取ろうとする。カッコいい自分を演出しようとするのは彼女の悪い癖だ。今回はすぐに弱気を覗かせたし、ある意味進展したのだろう。関係が。


「……ふふっ」


 妙な親近感を覚えるとすっと肩の力が抜けた。

 ふつふつと湧く嬉しさが水位を増し、胸の内側を満たしていく。浮かんでいた驚きと戸惑いは水面の葉のように押し流された。

 怪訝な顔つきになった滝野に、弾みそうな声で確認する。


「ここで開けていい?」

「ええけど、たいしたもんやないで?」

「たいしたものじゃないなんてことない。……そ、それじゃ開けるね」


 またぞろ反射で熱っぽいことを口走った気がするが気にしない。滝野は一瞬目を点にしてから、その口元をほころばせた。

 紙袋からラッピングされた小箱を出して、赤いリボンをほどく。

 破れないよう慎重に包装紙を剥いでから蓋を開くと、中にあったのは大人びたデザインの美しいペンダントだった。


「わあ……」


 我知らず感嘆の声が漏れる。

 それは宝石のような海ならぬ、海のように深く澄んだ宝石。

 透明度の高い真夏の海をこの一センチに閉じこめたような、どこまでも青い結晶が黒の起毛ケースの上で光っている。


「文化祭の打ち上げのときやっけ? 海が見えるから海岸のファミレスがいいーとか言うてたやろ。車で走っててもよう見とるし、マリンブルー好きなんかなー思て」

「そんな細かいこと覚えてたんだ……」

「トラックの塗装も白と青やし、まあ青系なら外れんかなと。……やっぱちょっと派手やったかな? ちゅーかアクセとか桃の趣味やない?」

「ううん、綺麗」


 ケースを上げ下げしたり回したりしていろんな角度から眺め見る。直接手に取ってみたくもなったけど素手で触るのは気が引けた。

 母岩の形を残したやや歪な表面から様々な青――蒼、碧、藍といったグラデーションが顔を覗かせる。星屑のように瞬く色斑が心の奥に飛びこんでくる。


「……これ、なんていう石? 高かったでしょ」


 宝石なんて興味なかったけど、このペンダントは話が別だ。吸いこまれるように見つめてしまう。ずっと見ていても飽きる気がしない。


「ボルダーオパールっちゅう石やな。でもそんな高ランク品やないで」

「大切にする。仕事中ずっと着けてる……と傷つくか。どうしよう」

「とりあえず棚にでもしまっといて、気が向いたら着けてみたらええよ」


 プレゼントに夢中な私を見て滝野はゆるやかに微笑していた。傍から見たならば今の私は、おそらく初めてカブトムシを捕まえた小学生みたいだろう。


「ありがとう、滝野」


 ひとしきり見終え、蓋を閉めたケースをそっと胸元に抱き寄せる。

 この輝きを本当に胸に宿して生きていけたならいいのに。ペンダントという形があることにもどかしささえ感じてしまう。


「それじゃ渡すもんも渡したし、アタシはそろそろ退散するわ。メリークリスマス」

「え、あ、うん。メリークリスマス」


 ひと仕事終えたような口ぶりで滝野はさっさと踵を返した。

 再び背部の扉を開いてトラックから地面に降りる滝野。彼女の手で扉は閉じられ、私は中にひとり取り残された。

 十秒ほどその場でぼんやり立ち尽くした後、彼女の後を追う。


「ちょっと待って!」


 扉を開けて屋外に飛び出す。

 運転席に戻ろうとしていた滝野が振り返り目を丸くした。

 凍てつく冬の夜の駐車場で、街灯に照らされる彼女のひとつ結びが炎のように揺れる。


「急にどないした? 忘れもんか?」

「やっぱり私だけ貰うのはフェアじゃない。私も何かあげるよ」


 後から黙ってお返しを渡すほうがスマートなのはわかっている。

 けど私はちゃんと伝えたかった。一方的なのは嫌なのだと。

 滝野の大人に、私の子どもに、私は甘えたくなかった。

 対等な関係でありたかった。


「だから言うたやん、年長者の仕事やって。サンタクロースの代わりや」

「滝野はサンタなんかじゃないでしょ。これじゃあ私の気が済まない」


 我ながらガキっぽい言い分だけど滝野は気圧された様子だった。ここが勝機とみて畳みかける。


「なんでもいいから言ってみてよ。ほら、滝野は欲しいものとかないの? やって欲しいことでもいいよ」

「……ん~? なんでもええの? なんでも?」

「いいよ」

「真顔で返されたら敵わんな。うーん、せやなあ……」


 しばらく考えこむ素振りを見せてから、彼女は快活に告げた。


「ないな。アタシは今が一番や」


 白く凍りつく滝野の言葉が夜風に吹かれて散り散りに消える。

 両手をポケットに突っこんで言う彼女の笑顔に裏表はない。それだと私が困るのだけれど、と思いつつ問いかけを重ねる。


「えっと、それってどういう意味?」

「言葉の通りや。アタシの願いはもう叶っとる。満ち足りとるんよ」


 そう言って滝野は空を仰いだ。つられて私も首を上向ける。


「気の許せるアホとやりたいことやって、好きなとこ行って、食って、笑う。アタシ、こういうの夢やったんよね。きっと今が一番楽しいわ」


 名古屋の夜は街明かりが強く、澄んだ冬の空でも星は遠い。

 暗くも明るくもない夜の中、滝野の目は彼方を映していた。和らいだ瞳にはどうしようもなく優しい光が浮かんでいる。


「……自分じゃ、たい焼き焼いてないのに?」

「おうよ」


 穏やかなその返答には一片の迷いすらも感じられない。

 なんとなく寂しくなったので言う。


「そういうのって夢っていうのかな」

「デッカい夢やろ。これが夢やなかったらいったい何が夢なん」

「もっと、やりたい仕事~とかなりたい職業~とかだと思ってた」

「桃、意外と真面目やなあ」

「私をなんだと思ってるんだよ、これでも進路に悩む高二だよ。だから滝野のは夢っていうより、なんていうのかな……快楽?」

「せめて幸せ~とか青春~とか、綺麗に表現したってや」


 滝野が視線をこちらに戻した。

 寒さに火照る朱色の頬が楽しげな笑みの形に持ち上がる。


「幸せはともかくその歳で青春はくさ……うおっ」


 いつものようにツッコもうとしたらひときわ冷たい風が吹き抜けた。上着の上から冷気に突き刺されて全身がぶるっと震える。

 風が止むと会話も途切れていた。横槍を入れられた気分になる。


「まあいいや。滝野は今まで旅行とかしなかったの?」


 話の接ぎ穂を求めて尋ねる。滝野は「ん」と言って首肯した。


「昔は仕事で飛び回ったけど、遊びの旅行はからっきしやな。色々忙しかったし、周りとタイミングも合わんかったし。いくらでも機会はあったはずなんやけど」

「タイミングかー、なら仕方ないね。一緒に行く相手には困ってなさそうだからちょっと不思議だった」

「困っとる困っとる。こう見えてアタシ実は結構根暗やからな。せやからそのペンダントは付いてきてくれたお礼も込みやねん」

「ね、根暗あ?」


 思いもよらない発言を受けてつい全力でオウム返し。

 滝野はなぜか悪戯が見つかった子どもみたいにはにかんだ。


「一緒に来てくれてありがとな、桃」 

「……なんで旅行初日に総括みたいなこと言ってるの」

「なんでやろな」

「それにここまで来たのだって滝野に付き合わされたわけじゃない。そりゃちょっとは流された感もあるけど、私も来たくて来たんだよ」

「わかっとるって」


 滝野がへらへらと相槌を打つ。本当にわかっているのだろうか。


「滝野」

「んー?」


 千葉から高知の中継地点だから、というのはきっかけに過ぎない。

 私がこの旅を始めた理由は大きく分けて三つある。

 ひとつは、移動販売と年明けのイベントでお金を稼ぐこと。

 もうひとつは、私のたい焼きが他所で通用するか確かめること。

 そして最後のひとつは――


「イベントが終わったらさ、高知行く前に一日観光しようよ」


 ――道中で起こるひとつひとつの出来事を、めいっぱい楽しむことだ。


 行きたい場所も見たい景色も、食べたいものだってまだたくさんある。

 名古屋市科学館、ガーテンふ頭、テレビ塔に観音様にお城。ひつまぶしに小倉トーストに天むす、きしめん、味噌煮込みうどん。

 ミーハーだろうと紋切り型の観光と笑われようと構わない。予定が崩れてその辺のカフェで時間を潰すのだってありだろう。

 彼女と一緒なら、きっとなんだって楽しいし綺麗だしおいしい。

 そう思えるような人に出会えたから、私は今、この地に居るのだ。


「いろんなところに行って、見て、食べて、お金と時間が許すだけ遊ぼう。そのために明日から頑張ろうよ。観光はそのご褒美っていうか」

「……ええな、それ」


 しみじみと呟く滝野の双眸が柔らかい熱を帯びる。未来の話をしているのに過去を懐かしむような声色だった。


「あとさ、夏になったら海行こう! 美傘の海って水質良いんだよ」

「いや知っとるし。ちゅーか今の話の流れと関係あらへんやろ」

「関係なくないんだよ。あとあと、」


 私は一歩前に踏みこみ、滝野の顔を下から覗きこんだ。

 不思議そうにまばたきを繰り返す頭上の彼女へと宣言する。


「お返しはいつかちゃんと渡すからね。滝野がびっくりするようなの」


 なるべく不敵な感じに映るよう、眉と口角を吊り上げてみる。

 滝野は軽く目を見開いてから、吐息混じりに微笑んで答えた。


「楽しみにしとる」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る