忘れたくない未来
てると
第1話 ある日のこと
人の顔が見えなくなって久しい。僕は部屋に籠ってひたすら無為で必要な作業に打ち込んでいた。だいたいのことは電子端末で片付くようになったこの頃、僕は何もできなくなっている。
「ぬわああん、疲れたああああんもう~」
情けない雄叫びを上げる。季節は梅雨、外に出て気を紛らわそうにも、連れ立つ人もおらず、しかも、雨。腹が減ったらコンビニに行けばいいからいいが、切実に生きた人間生活を求めていた。今や形容するなら死んだ機械の生活だ。
「とりあえず回答はコピペで出すか…」
オンライン講義の回答をコピペで出すことにする。とりあえず、仕方ない、時間はあるが、気力がない。将来、ということを考えたくない。ただ、なんとなく、みんなと同じようにやるべきことをこなしていれば、なんとかなる、気がしている。
「SNSでも見るか、くだらんけど」
それしかすることがない。みんな籠ってるんだろうか。
そうしたところ、ダイレクトメッセージが来ていることに気づいた。開いてみる。
こんにちは……。同じ大学の1年生の
今度の思想史の課題がわからなかったので、もしよければ教えて
いただけませんか…?
僕は、これは待ってましたとばかりに回答を教えようと思った。そこで、
こんにちは!
もしよかったら連絡先交換してそっちで一緒に進めませんか?
と送った。
いいですか?ありがとう!連絡先送りますね。
おけおけ!本当にこっちも助かるよ。困ってたから。
大学の人と連絡先交換するの初だあ、やったー!!
こうして、何かが始まってしまった。
果たして今になってもあれが何だったのか全く分からない。ただ、或る一つの人生の局面を彩ったということだけは間違いなく言える。人生とはそういうささやかで大切な局面の断面たちの連続ではないか。少なくとも、僕にとっては国家や人類の運命よりもよほど重い出来事として立ち現れたことだった…。
忘れたくない未来 てると @aichi_the_east
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