ED:2 串刺姫の新生

(全身に巻かれた鎖がチリチリと鳴る音)


「(正面に立つ串刺姫の声)…おはよう♪ 7日間本当に頑張ったわね、おめでとう」


「…どうしてこんなに鎖でガチガチに縛られているのか? 吐き気や眩暈もする? フフ、質問が多いわね」


「(貴方の背後に回り込む串刺姫の声)え、今までの苦労やわたしとの時間も全て幻だったのか? フフ、いいえ。紛れもない事実よ」


(髪を撫でられる音)


「(左耳に囁く串刺姫の声)おまえはわたくしとのゲームに勝った…だけれど」


(紙きれが目の前で擦れる音)


「(静かに囁く串刺姫の声)催眠魔法に掛かったおまえが、何の手違いか契約書を破ってしまったのよ! 本当に偶然、運命の悪戯という奴ね…フヒヒ」


「(背後から囁く串刺姫の声)…どうしてこんな事を? 理由はたった1つ。1つだけよ」


(右耳に串刺姫の吐息が掛かる)


「(右耳に囁く串刺姫)おまえが、わたくしの友達だからよ」


(貴方の側を離れる串刺姫)


「(歩きながら話す串刺姫)初めて会ったあの日…わたくしは拷問のアプローチを変えると言ったでしょう? 正直、あれは負け惜しみだったの」


(金属の器具をカチカチと弄る串刺姫)


「(少し離れたところから串刺姫の声)限界まで来てしまった、と。わたくしという人間が織り成せる拷問の到達点はこんな程度のところだと思ってしまっていた。でも…(昂った様子で)わたくしはまだ行きたい! 先へ、もっと先の世界へ!! わたくしの壊れた生に意味があったのだと確認し、実感する為に!!!」


(勢いよく走ってきて正面から抱きついてくる串刺姫)


「(荒げた息で左耳に囁く串刺姫)おまえは特別で、愛しくて、素晴らしきわたしの友人…だから」


「(淡々と左耳に囁く串刺姫)おまえをぐちゃぐちゃにする…完膚なきまでに」


(一歩下がる串刺姫)


「(静かに乱高下する串刺姫の声)おまえを傷つけようとすると、胸の奥がズキズキと痛むの。ほら、見て! 生まれて初めて涙が溢れてきたの、わたしが心の底からおまえの事を慕っている証…」


「(静かな声で)ありがとう、ありがとう…おまえを壊す事が出来たら、わたくしは完成する。その確信があるの」


(串刺姫の荒い呼吸と嗚咽)


「(震える串刺姫の声)あぁ…はぁ…やめて? そうね、わたしも心の底からやめたいと思ってるの…でも、でもね? わたくしが完成されたがっている。(決意したような声で)…うん、やろう」


「(淡々と落ち着いた声で)1つだけ隠していた事があるの。おまえを苦しめて来た渾沌意層ケイオスコード…実は、おまえが早々に壊れないように出力を抑えていたの。これからおまえが味わうのはその10倍の苦悶とトラウマ…きっとおまえは壊れてしまう」


「(悲しそうに呟く)だから…始めましょう」


(串刺姫の指が鳴る音)(五感が狂いだす音)


『(串刺姫の笑っているような泣いているような音)ヒ、ヒヒ…ッアハハハハハハハハハハハ!! ウアァ、フフフ。ハッハッハッハッハッハ——』




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る