第3話 〜甘々♡♡ 〜 癒しのシャンプー☆

(温かいお湯が貴方の頭を流していく水音)


「(背後から少女らしい串刺姫の声)…もう、何度も謝っているでしょう? 悪かったと心の底から思っているのよ。まさか、1時間程度に留めたつもりが丸2日も経っていたなんて。わたくし、時を忘れて夢中になれた事など今までで一度も無かったの。ごめんなさい、どうか許して」


(良い香りのする石鹸の泡立つ音と串刺姫がそれを手に馴染ませる音)


「第3皇女である私がこうしてメイドの真似事などしているのだし、私の謝罪の気持ちは十二分に感じられているでしょう? では、しばし目を閉じていて」


(頭の上を串刺姫の細い手が走り、髪をゴシゴシと洗う音)


「はぁ…生物の後頭部を傷つけないように丁寧に洗うなんて…壊れている私にもこんな真似が出来るとは夢にも思わなかったわ…」


「(串刺姫が貴方の右側に回り込み、音が右から大きく聴こえる)お前も見たでしょ? お前を縛りつけていた拷問椅子の足下に出来た大きなみ・ず・た・ま・り。(串刺姫の声が離れる)…しょ、人間の身体のほとんどは水で構成されているのは…知っているか。お前も拷問を齧った者だものね…少し退屈な気分だわ」


「(少し昂った声で)でも! まさかあんなにも夥しい量の水分を失っても生きていられるなんて…早々に壊してしまったらどうしようという焦燥感と、これ以上やったらどこまで生きていられるのかという知的探究心の葛藤で…(落ち着きを取り戻す)凄く興奮したわ♪」


(暫くして串刺姫左へ)


「それにしても、お前の纏めたお前自身のレポート…まるで拷問されている自分を常に機械的に記録している自分でもいるかのように客観的で面白かったわ。(一瞬手が止まり串刺姫の囁き声と吐息が左耳に掛かる)お前も結構…壊れているのね。私と価値観を共有出来るくらい…(声が離れシャンプーされている音が再開される)」


(串刺姫が背後に戻り、泡だった貴方の頭を洗い流す水音)


「(串刺姫の鼻唄)〜♪ へ? 価値観を共有出来る友人が欲しいのか? …それは私の手を変えさせる為の謀りかしら。(少しの間と嬉しそうな声)中々巧妙で魅力的な一手だわ♪」


「——今の顔、カワイイ?」


(一瞬シャワーの音が止まり、すぐさま両耳に水が入りこんで串刺姫の声が全く聴こえなくなる)


「〜〜!! 〜〜〜〜!!! 〜〜〜!!(串刺姫が何か短い単語を感情的に連呼しているらしい)」


(暫くして耳に入っていた水が抜ける)


「やっぱり壊しちゃおっかなー(棒読み)」


(頭を綺麗に流し終わり、シャワーの音が止まりポタポタとお湯が床に落ちる音)


「取り敢えず3日目まで遊べたし、もうお前を壊して新しいオモチャに切り替えても…良くないわ」


「(タオルで頭と髪の水分を丁寧に拭かれながら右耳に囁き声)わたし、お前の事がとても気に入ったの。簡単には手放したりしないわよ? (声が遠のく)じゃ、拭き終わったら風魔法で髪を乾かして終わりに…」


「…足りない? まだ昨日一昨日の疲れを癒すには至らず? (小さい溜息)忘れているみたいだけど、私の目的はお前の精神を直接的に破壊する事で… なに? ムチの次はアメ、拷問の基礎中の基礎…そんな事も分からないのかクソアマ…ですって??」


「(明らかにイラついた声で)…全然効かないわねー。そんな品のない言葉を使うなんてお前は悪い子だわ…クソアマなんて言っていない? そうよ、私がお前への憎悪を高める為に意図的に付け加えてみただけ」


(深呼吸を何回かして、落ち着く串刺姫。同時に拭き終わり水の滴る音もなくなる)


「(聴こえるか聴こえないかの小さな声で)…何だか今日は変だわ、わたしの心…(少女らしい可愛げのある声に戻る)何でもないわ。お前のような悪い子の言の葉であっても、的を得ているのも確か。皇族として人間として、中途半端に事を済ませてしまうのも許せないし…」


「(何かの小瓶の蓋を開ける軽い音→適度にねっとりした花の香りがするオイルの音)人体の急所は正中線と呼ばれる身体の中央を縦断するラインだと言われているけれど、私の見解は違う。真の意味で急所と言えるのは五感…単純な痛みのみに留まらず精神にも影響を与える部位…例えば」


(両耳をオイルと串刺姫の白く柔らかい手が包み込む音)


「脳に近く視覚に次いで情報量の多い聴覚…それを司る耳とか♪ 性感帯になりうる程の感度もあると聞くし、耳をマッサージするば疲労回復も捗るでしょう」


「(串刺姫の手が円を描くように耳を撫でる)香りもゆったりとした甘さが感じられるでしょう? 庭園を彩る金木犀をいくつか拝借して作ったの。 …花言葉を知っているか? 「気高い人」「陶酔」「真実の愛」…確かその辺りの言葉だったと…「初恋」?」


(串刺姫の手が揉み込むような動きに変わる)


「(変わらず落ち着いた声で)恋は性交渉を伴う友情…という解釈なのだけれど。もしわたしがお前に対して恋焦がれていると思っているのなら、どうぞお好きに…とだけ言っておくわ。あら? オイルが足りない…」


「(追いオイる串刺姫・小瓶を開ける音と水音→手に馴染ませる音)私を犯したいと思う男なんて五万と見てきたし、私の評判を知らない辺境の国の王子が求婚しに来たなんて話も珍しくはないのよ? そう、めちゃくちゃモテるの。わたし


(串刺姫の手が耳を包み込み、音が篭って聴こえる)


「(少し弾んだ声で)まあ、お前を前にすると多少心拍が加速したり顔面の火照りを感じたりする事もあるけれど…そう。拷問を齧った者の手前、半端な技術は見せられないという謂わば、職人としての緊張なのよ?」


(串刺姫の手が離れたり、また包み込んだりを暫く繰り返す)


「お前が惚れて勝手にわたしにベタベタしたり、一方的に2人きりの状況を楽しもうと頑張っちゃったりする分には好きにすれば良いわ。むしろ努めてそうなさい♪」


「——今日は本当によく表情が変わって、凄くカワイイ?」


(マッサージの手が止まる)


「(ポツリと恥ずかしそうに)…ありがと」


(オイルを耳に塗り込むような動きに変わる)


「(無言が続き、串刺姫の息遣いだけが聴こえる)」


(マッサージが終わり、タオルで両耳を拭かれる音)


「こんなところね。じゃあ、拭いていくわよ」


「(再び無言、串刺姫の息遣い)」


「はい、おしまい」




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