大文字伝子が行く59改

国葬儀本番

　＝＝＝＝＝＝＝＝　この物語はあくまでもフィクションです　＝＝＝＝＝＝＝＝＝

　==============　主な登場人物　================

　大文字伝子・・・主人公。翻訳家。EITOアンバサダー。

　大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。

　愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。階級は巡査。

　愛宕（白藤）みちる・・・愛宕の妻。巡査部長。

　青山警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。愛宕の相棒。

　物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。モールで喫茶店を経営している。

　依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。

　小田慶子・・・やすらぎほのかホテル東京の企画室長。依田と結婚した。

　福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。

　鈴木祥子・・・福本が「かつていた」劇団の仲間。後に福本と結婚した。

　久保田（渡辺）あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。みちるより4つ年上。

　橘なぎさ二佐・・・陸自隊員。叔父は副総監と小学校同級生。

　渡辺副総監・・・警視庁副総監。

　金森和子空曹長・・・空自からのEITO出向。

　増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。

　大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

　田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

　馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

　右門一尉・・・空自からのEITO出向。

　久保田管理官・・・EITO前司令官。斉藤理事官の命で、伝子達をEITOにスカウトした。

　久保田警部補・・・あつこの夫。以前、愛宕の相棒だった。

　新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署勤務。EITOに出向。

　結城たまき警部・・・警視庁捜査一課の刑事。EITOに出向。

　草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

　柴田管理官・・・警視庁管理官。

　天童晃・・・EITO武術顧問。

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　EITOベースワン。剣道場エリア。

　伝子、久保田管理官、理事官がやって来た。

　あかりと立ち会いを終えた天童が、伝子に報告に来た。

「大文字さん。結論から申し上げると、逸材ですな。彼女は非力なので、面、胴、小手。どこもちゃんと打ち込めない。ところが、妙な太刀筋だ、他の者に変わって観察すると、体が斜め15度ほどずれているにも拘らず、竹刀は正面に入った。更に観察すると、あの手首がくせ者だ。聞くところによると、シューターをフォークボールのような投げ方をしたとか。理事官。立派な戦力ですよ。可能なら、彼女専用の武器を開発した方がいいかも知れない。長生きはするものですなあ。」と、天童は笑った。

「実は、午前中。病院で手首のレントゲン検査をしました。手首は変な成長をしている。先天的なものかどうか？というので、私から『怒らないから話してごらん』と言ったら、幼い頃の事故が原因のようでした。ある日、棚から物が落ちてきた。激痛だったが、両親が亡くなって叔父の家で育てられてきて、遠慮というか、今で言う忖度というか、とにかく叔父には報告せず、人知れず湿布して、ひたすら自分で揉んでいたそうです。1ヶ月もすると、痛みは消え、見た目は他の子供と変わらない手首になっていたそうです。」

「なるほど。成長期だったからこそだな。今なら叔父さんが虐待したと疑われそうだ。」久保田管理官が言った。

「少し情緒不安定でも、幼い頃のその『辛抱』は、不屈のものになっているかも。」と言う天童に、「ありがとうございました。副総監に報告をしておきます。実は、彼女は警視総監の友人の親族で、警視総監の推薦だったんです。これで肩の荷が下りるでしょう。」と理事官は言った。

　伝子と管理官は深く頷いた。

　翌日。遂にその日がやって来た。阿倍野元総理の国葬儀当日である。

　午前9時。EITOベースゼロ。会議室。

　理事官が説明している。

「警察庁警備局長から警備協力要請の通達が発出された。これをよく読んでくれ。」

　その通達には、こう書かれていた。

『共通要請事項として、

　１ 連絡体制の確立

　２ 自主警備体制強化

　３ 国葬儀に関する不審者情報等の警察への通報連絡の徹底

　４ 国葬儀の関連施設周辺における小型無人機 等の飛行規制についての注意喚起

　５ 業務用車両、小型無人機等の盗難・紛失時における警察への連絡の徹底

　６ 身分証明書、制服等の管理及び盗難・紛失時における警察への連絡の徹底

　７ 交通規制内容の周知

　８ サイバーセキュリティ対策の強化

　個別要請事項として、

　１ 関連施設等周辺における河川、道路、公園、共同溝等の管理及び警戒の強化

　２ 工事資機材、工事用火薬類等の管理及び盗難・紛失時の警察への連絡徹底

　３ 放射性物質等の運搬に関する管理強化

　４ 公共交通機関における広報媒体を活用した旅客への不審者(物)発見時の協力要請

　５ 公共交通機関及び関連施設に対する警戒警備の強化

　６ 船舶及び港湾施設に対する警戒警備の強化

　７ 航空機、空港及び航空保安施設に対する警戒警備の強化

　８ 鉄道ケーブル等、交通運行上重要な物件に対する警戒警備の強化

　９ ハイジャック等防止対策の徹底

　10 小型航空機・小型船舶所有者等に対する管理強化

　11 国葬儀に伴う飛行制限区域の周知

　12 空港等における訪日外国人等に対する航空法及び小型無人機等飛行禁止法 の積極的広報』

「過去に類を見ない厳戒態勢だ。EITOからも応援を出す。というか、自衛官と警察官を出向させているので、警察官は元の職務だ。従って、渡辺警視、結城警部、早乙女警部補、白藤巡査部長、新町巡査は、久保田管理官の指示の下、各部署に派遣。但し、緊急事態にはEITOに戻る。アンバサダー、いいね。今日の午後5時までの国葬儀には自衛官の出向組のみとなる。」

　理事官の説明に、「我々は、どこを守るんですか？」と、伝子が尋ねると、「我々は、言うまでも無くテロ対策組織だ。それで、公安がマークしている5人の自宅を監視して欲しい。」と理事官は応えた。

「阿倍野元総理を襲ったみたいなネクラですか？」「まあ、そうなるね。」「では、服装は？」「勿論、コスプレという訳にはいかない。地味な、街の人間を装って変装だ。」

　伝子が増田と理事官に割り込んで、「増田はワンダーウーマンの衣装が気に入ったのかも知れないが、ケースバイケースだ。」と言った。

　午前10時。会場近くの九段坂公園に一般向けの献花台が設置された。

　午前11時。国葬儀反対派のデモや賛成派が続いた。

　そして、午後2時。国葬儀が始まった。

　国葬は遺骨到着後、国歌演奏、黙祷(もくとう)の後、安倍氏の生前の姿を映像で流し、葬儀委員長の志田総理や友人代表の姿前総理らが追悼の辞を読む。天皇、皇后両陛下と上皇ご夫妻がそれぞれ派遣される使者が拝礼し、皇族方の供花、参列者の献花へと移った。式典は無宗教形式で執り行われるのだ。

　秋宮ご夫妻が参列されるほか、衆参両院議長ら三権の長や元職を含む国会議員７００人以上、経済界など各界から１千人以上が出席。国外からは米国の副大統領ら２１８の国・地域・国際機関の代表団約７００人が列席した。

　周辺道路は人や車の通行が規制され、献花者の手荷物検査も行われた。

　政府は阿倍野氏の国葬儀について「国民一人ひとりに喪に服することを求めるものではない」（官房長官談話）として各府省に弔旗掲揚などを求める閣議了解を見送った。学校や官公庁を休日とする措置も取らなかった。

　総理は国葬儀に先立つ２７日午前、参列のため来日した各国首脳との関係強化を図った。

　午後5時頃、国葬儀反対派を賛成派が『帰れ！コール』で蹴散らす一場面もあったが、国葬儀の会場内外に、不穏な動きや事件は無かった。

　伝子達は、理事官の指示の下、一旦EITOに帰還した。もうすぐ午後6時だ。伝子は高遠にスマホで電話した。Linenでメッセージを送ったが、返事がない。今は池上病院にいる筈だ。

　伝子が南原蘭に電話してみた。「蘭。学を知らないか？」「それが、先輩。夕食が6時だから、私と一緒に帰る予定だったんですけど、どこにもいないんです。服部さんや山城さんにも文子さんにも手伝って貰ったし、館内放送もして貰ったんだけど。」

　伝子は嫌な予感がした。伝子は物部に電話してみた。「高遠が？そうだ。高遠もDDバッジ持っているんだろう？」「ああ、持っている。」「前に、草薙さんが、押さなくても、ある程度のエリアはEITOで分かるって言って無かったか？」「そうだな。聞いてみる。」

　伝子は通信室に行って、草薙に事情を話した。

「うーん。今分かるのは、池上病院があるエリアということだけですね、アンバサダー。」

「DD招集して虱潰し・・・って、時間が遅いなあ。」と、伝子が呟いた時、伝子のLinenのテレビ電話が鳴った。

「大文字さん、大変よ。高遠君が誘拐されちゃった。」「ええっ！！」

　池上院長の家。

　愛宕と青山警部補、柴田管理官がいた。伝子の手には、わざと下手に書いたに違いない紙片があった。『君の可愛い夫、高遠学は預かったよ。いずれ連絡する。』

　紙片には、そう書いてあった。

「実はね、外部の人に報せたことはないけれど、ウチには温泉が出るの。」「えー！！」と一同は驚いた。

「こっちに来てくれる？」皆が移動すると、水の抜いた大きな風呂があった。

「災害時に一般開放して利用する積もりで改造してあるの。それで・・・。」

　池上院長が壁の大きな鏡を押すと、渡り廊下に出た。そして、ドアを少し開いて「覗いてみて。」と、言った。

　伝子達が覗くと、病院の廊下が見えた。「この廊下は普段使わない廊下。今言った災害時には、病院側からの出入りが出来るようになる、その予定。で、今は不要なんだけど、急ぐ時はつい使っちゃうの。今日は本庄病院の急患でオペの応援に行ってたの。ここを通って出たの。」

「つまり、高遠さんを誘拐した犯人は、院長が出るのをどこからか見て、入れ替わりに侵入したんですか。すぐには閉まらないんですか？このどんでん返し。」と愛宕が尋ねた。「タイムラグがあるのよ。よく確かめなかったのがいけなかった。家に帰ると違和感があって、あの紙片を見付けた後、このドアと、台所の勝手口のドアを確認したの。」

「で、賊は勝手口の内鍵を開けて、外に出た。高遠さんはナイフか何かで脅かされていたんですね。」と、青山警部補は言った。

「この紙片には、どこに連絡するか書いてないな。青山君。愛宕君連れて大文字宅に行ったら？電話番号は高遠君に聞いたら分かるだろうけど、連絡網は、やはり大文字君のところでしょ。鑑識の作業もあるし、ここは任せておいて。」と柴田管理官は言った。

　その鑑識が、高遠のDDバッジを見付けた。

「じゃ、お願いします。大文字さん、行きましょう。」

　伝子のマンション。

「今のところ、犯人から連絡なし、だ。」と物部が言った。

　青山達と帰宅した伝子に、依田が尋ねた。「先輩。高遠は、例のガラケー、持っていないんですか？」伝子は黙って、PCルームの高遠のPCの側にあるホルダーを指さした。ガラケーは充電中だ。

　1時間後。大文字家のイエ電が鳴った。伝子は、そばにいた福本に自動録音機を指さし、受話器を取った。

「もしもし。」と、伝子は出た。

「大文字伝子だな。亭主の声が聴きたいか？」声は変成器を使っていた。「ああ、聴きたいな。」「今、聴かせてやる。」

「伝子。僕は無事だよ。」一声、高遠の声が聞こえただけで、犯人が替わった。

「九段坂公園。明日午前8時。我々は待っている。応援は連れてきていいよ。ああ、金は要求しない。」電話は切れた。

　チャイムが鳴った。物部が出ると、警察の逆探知チームだった。「一足違いだな。」

　翌日。午前8時。九段坂公園。

　何故か国葬儀反対のデモ隊がいた。『国葬反対』のプラカードや横断幕を持っている。「もう終わったのに。国葬儀。献花台もないし。」と、みちるが呟いた。その声を聞きつけたのか、100人はいるかと思われるデモ隊はプラカードや横断幕を捨て、伝子達ワンダーウーマン軍団に立ち向かってきた。

　幸い、彼らが手にしているのは銃や日本刀ではなく、所謂『ゲバルト棒』だった。昨日までのデモ隊は高齢者だったが、彼らは違う。すぐに、伝子達は闘った。ペッパーガンやシューターで敵の動きを鈍らせ、なぎさはトンファー、伝子は三節痕で、あつこはヌンチャク、他の者は電磁警棒やペッパーガンやシューターで敵を倒して行った。新町のシューターはコントロール抜群で、正確に敵の動きを封じた。

　30分後。全ての敵は、ワンダーウーマン軍団に倒された。

　静かな拍手が聞こえた。どこからか、アイマスクをした男がバッグを持って現れた。猿ぐつわをされ、腕を後ろ手に縛られた高遠を連れて来た。

「見事だな。噂に違わない、強烈強力な戦士達だ。」と男が言うと、「黒井か？何故こんなことをした？」と、伝子はアイマスクを取って言った。

　男もアイマスクを取った。

「長かったよ、大文字。僕がイジメにあったのは、名前やネクラからだけじゃなかった。弱視だった。突然の親父の転勤で北海道に転校した。成長するに連れ、やはり弱視は日常生活に不便だった。それで、3度の手術で克服した。大学卒業後、国家資格を取り、会社を立ち上げた。風間先生のような優秀なカウンセラーを派遣する会社だ。がんになった。治療費用は、自転車操業をしていた経営者には辛かったよ。」

「黒井。」

「続けさせてくれ、大文字。ある日、目の手術をしてくれた先生に再会した。先生は、那珂国のスパイになっていた。君たちが言う『死の商人』の一人だった。がんの為の借金は、那珂国のスパイになったことで返せた。だが、それは那珂国の奴隷になることだった。新米巡査の精神の相談は、『飛んで火に入るなんとやら』だった。僕の出番は、もっと先の筈だった。僕のがんは、思ったより早く進行していた。僕は元々武闘派じゃない。そこに倒れているのは、死の商人が雇った反社の者、ヤクザだ。僕は負けた。今、君に返せる恩返しは・・・。」

　突然、ピュッという小さな音がして、黒井は倒れた。皆が振り返ると、公園のトイレの屋根から撃ったスナイパーは、素早くバイクで逃げた。なぎさが陸自バッジを押そうとしたが、間に合わないと悟って止めた。あつこが白バイ隊に連絡をした。警官隊がジープでやって来た。

　伝子が抱き起こした黒井は、もう虫の息だった。「恩返しを・・・。」それが黒井の最後の言葉だった。高遠は結城と早乙女が解放した。

　みちるがバッグを探った。時限爆弾だった。みちるは、あつこを呼んだ。取り出して調べたあつこは「おねえさま。手つかずです。おねえさまを殺す気も高遠さんを殺す気も無かったのかも知れない。」

　鞄をじっと見ていた伝子だったが、「なぎさ。ナイフはあるか？無ければシューターでもいいが。」「あります。」と、なぎさはナイフを伝子に渡した。伝子は、鞄の底板に使っている段ボール紙をナイフで剥がした。1枚の紙片が出てきた。

「このリストは・・・黒井は、これを私に託したかったのか。」近寄って来た愛宕が「ヒント、ですかね。次の計画の。」紙片は名前だけのリストだった。

「一応、鑑識で調べましょう。」と、青山警部補が言った。

　伝子は、黒井に手を合わせた。一同は、習って、手を合わせた。

「黒井。恩返し、確かに受け取った。決して無駄にはしない。

　午前9時。

「国葬反対」のプラカードや横断幕を持った高齢者達が集まってきた。

　ヤクザが警官隊に連行され、プラカードや横断幕を回収されて行くのを見て、高齢者達は回れ右をして帰って行った。ワンダーウーマン軍団のコスプレを見て、首を傾げながら。

　池上病院。南原の病室。「高遠さんが無事で良かった。と南原が言うと、「先輩は昔から正義の味方だったのね。」と蘭が言った。

　伝子が入って来た。「点滴終わったら、『本当に』帰宅する。」「今回のことを踏まえて、あの温泉は、入院中の患者さんに開放することにしたわ。家の間仕切り変えてね。」と、池上院長が入って来た。「大文字さん、本当にごめんなさい。あの会社が経営難だったなんて。風間先生は、この病院で正式採用するわ。中津興信所によると、他の会社と合併話が進んでいたみたい。その会社で、風間先生以外の登録カウンセラーの面倒を見るそうよ。」

「一曲どうですか、って言いたい所だけど、今日は止めておきましょう。これ、物部さんから預かってきました。」と、入って来た服部が伝子にコーヒー豆の袋を渡した。

「これ、日本製だろうな？・・・ま、いいか。」

　病室に笑いが起こった。廊下を通り過ぎる看護師が不思議な顔をしていた。

　―完―