第29話 私はヒロイン
鋭い鉤爪を岩壁に食い込ませて2本脚で移動するBM-Xが一騎、私に気が付いた様子で機関砲を向けて来た。すかさずブレードを引き抜くと、銃口を向けたBM-Xが二本の足を切断させて崖下へと落ちていく。
「アリーセ!」
「隊長!」
BM-Xを崖下へと落としたアリーセは、どうやら私を追いかけて来たらしい。
「隊長!後方に下がってください!」
あっけなく撃ち落されていく味方の兵士の姿を横目に見ながら、両手に構えたブレードで敵の機械鎧を撫で斬りに斬り払い、球状のBM-Xの機体の下へ滑り込んではブレードを深々と突き入れていく。
頭上まで移動してきた敵の飛空艇が砲座をこちらへ向けて、弾丸を打ち込んできた。爆破して飛散する汚染された砂の中に輝く粒子が混ざりこみ、その粒子に触れて溶けるようにして崩壊していく敵兵を見ながら、アリーセの身体を掴み、後方へ高々と跳躍する。
うつ伏せとなってアリーセの上にかぶさると、後方で爆裂音が何度も炸裂した。
「隊長!本当に!後方に下がってください!」
急激に汚染濃度を高くする大気の変化などまるで気にしない様子でアリーセはフルフェイスマスクを下すと、
「隊長は王都に行かずに済んだんでしょう!王家に嫁ぐ必要はないんでしょう!もう、壺詰めにされる恐れもないんでしょう!」
必死の声をあげながら私の両肩を掴んできた。
「下がって!もうここはいいから!」
「これほどの大気汚染でマスクを下すなよ」
首のスイッチを入れてアリーセのフルフェイスマスクを起動させると、
「そりゃね、もう、壺詰めはなくなったとは思うんだけど」
と言いながら立ち上がった。
アリーセは、たまにナ○シカみたいなことをするんだよな。汚染地域だって言うのに、フルフェイスマスクを外して、息を吸わないように極力気を遣いながら、私に対して訴えてくるわけよ。
おーい!やめろ!お前はナ○シカか!と、心の中で絶叫しながら、はたと冷静になる自分がいるのも確かなんだよな。
シュナの川で偵察部隊が消息を絶ったということで、百人隊をケブネカイル渓谷に移動させたわけだけど、敵方2万に対してこちら百では、多勢に無勢が過ぎる状態。渓谷を迂回する形の迂回路を敵が隙をついて進軍すると言うのなら、我が方百でも一応、足止めくらいのことは出来たけど、川幅も広い特級汚染地域であるシュナを越えてくるのなら、こちらは全速力で逃げるしか方法はない。
ただし、逃げたとしても、敵軍が渓谷を越えれば、現在ガラ空き状態のギルテアの街は即座に占領されてしまうだろう。
ビュルネイ軍の残虐さは有名で、奴らがお得意の人間の盾とやらも今まで三回ほど見たことがある。あれを、ギルテアの住民を使ってやると第四王子が豪語しているのだから、おそらく実行するのだろう。
人には死に所があるとは思うんだけど、今、ここで最大限抵抗をした上で多くを道連れにして死ぬか、人間の盾にされて死ぬか、どちらを選ぶかといわれれば前者だろう。
そもそも、王家に嫁いだ父の妹が、手足を切られての壺詰めという武則天スタイルで帰って来た時には、
「絶対に、王家には嫁がない。嫁ぐ前に、死んでやる」
と、決意した私だよ?
「アリーセ、人間には最低でも三回、人生の中で主役になる時があるって話を聞いたことあるか?」
ひたすらヤキモキしているアリーセが、ここで何を語り出すの?みたいな感じで敵兵を切り裂いている。
どこでも移動が可能なBM-Xだけど、巨大な二本足で歩行するというところがネックなんだよね。そりゃ、めちゃくちゃ強い鋼材で足を作っているんだけど、私のブレードだったら何度でも切れる。
「生まれた時と、結婚式と、死んだ時、この三回は主役になれるっていうんだけど、とりあえず、生まれた時と、死んだ時だけは絶対に主役になれるんだよ」
「え〜!そうなんですかね?そうとも思えないんですけど?」
敵と味方がボコボコ死んでいく中で、みんな主役とか思えないか?
「全ては自分次第だと私は思う!ここから主役(ヒロイン)やるから、ここは私が引きつけるからアリーセは後方へ逃げろ!」
「隊長!」
頭上には敵の飛空艇、周囲にはBM-X、特殊鋼金を使用した機械鎧を装備した敵兵が無茶苦茶いる。崖を破壊して渓谷の封鎖は出来たけれど、こちら側に移動して来ている奴らの多さに眩暈がする。
そもそも、特級汚染の中に居すぎて具合が悪いだけかもしれないけれど。
「ドロテア曰く、私はヒロイン!やってやる!やってやるぞーーー!」
このブレードは父がくれたものであり、同じものをローフォーテン領内では見た事がない。カートリッジを最大3つまで装着する事が可能であり、そのカートリッジの数に応じてブレードの帯電量が変化する。
腐食を進ませるシュナの砂は強い電磁波を含んでおり、通信機器を使用不可能とするが電気を流すとその何十倍もの発電効果を発揮する。
黒の一族とは古に、大気や水を操る事を得意としたのだという。放電させるようにして空中でブレードを回転させるその姿は舞そのものであり、空気中の粒子を帯電させ、発光させながら渦を巻く。
敵の弾丸が私の左腕を断裂させ、真っ赤な血が舞い上がった。
その真っ赤な血が粒となって大気に浮かびあがり、流線を描く。
「隊長!やめて!」
アリーセが叫ぶ中、右手にブレードを掴んだまま深々と流砂の中へ突きいれた。
鋼金技術の進化は著しく、一時期は帯電効果を付与することも流行したんだけど、装甲が貧弱になるっていう理由で、電磁波防衛についてはどこも手を加えていやしないんだよね。
当たり前だけど、電磁波を人為的に操れるなんて不可能なので、戦時下で脅威に感じることなどほとんどない。
そんな電磁波を操りながら、最大出力で10キロ四方に広げていく。
何と言っても、乙女ゲームじゃなったのよ。
確かに敵の武器も、こちらの武器も、未来が過ぎる装備だとは思ったよ。
この宇宙だか、未来だか、何だかわからない世界に転生した私だけど、最後の最後で、ウィルさんとハインツの間で、罪悪感を感じながら右往左往していたのは、大元となっていた映画とやらと似通った展開だったとは思います。映画の強制力すげーなー。。
ハインツは映画の通り辺境を収めるバッテンベルグの嫡男で、ウィルさんは、映画にも登場しない商人(モブ)だったけど、ドロテアが苛烈王とじゃなくて、ビュルネイの第四王子と仲良くなっている時点で、原作は崩壊しているってことなんだろう。
ちなみにSF超大作とドロテアが言っていた通り、敵も味方も、機械で装備しているような状態なので、電磁波攻撃でショートしちゃっているような状態。
上空の飛空艇はそこまでの被害は受けなかったみたいで、砲座がこちらの方に向けられていることには気がついていた。
「ああーああ、これで終わりか」
鼻血が出て息しづらい、左腕が弾丸でぶっ飛んで何処かに行ってしまった。口の中でドロドロの血を味わいながら倒れると、汚染された流砂によって、機械鎧の腐食が始まっていく。
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