第28話  どうすればいいのか

こっちの世界でもそうなんだけど、どうやって処分すれば良いのか分からないような特級の汚染物質なんかは、地中深くに埋め込んじゃったんだよね。その埋め込んだ量は相当な量にのぼりますなんてことは、後世にも語り継がれてきているわけなんですよ。


その地中に深く埋めた汚染物質が何故、表に出て来ちゃったのかといえば、地殻変動が原因なんだってさ。岩盤層が激しく動くことによって、埋める際に利用した容器が破損した。汚染物質を含んだその大地はそのまま隆起をしてカルパティア山になったのだとも言われているくらい。


 砂岩を多く含むこの山は崩壊を繰り返し、流砂となって隣国まで流れこむ。汚染された流砂は高さ120メートルの断崖絶壁の合間を流れていくんだけど、崖のあちこちから古びたドラム缶が顔を突き出していたりするんだよね。


 風化が進んでいるし、中身が遥か昔に溢れ出てしまったものがほとんどだったんだけど、極まれに中身が残った物もある。汚染物質は様々あるとは言われているけど、きらきらと輝く物体(放射性物質)に出くわした時は死を覚悟しなくちゃいけなかったりするわけね。



「ドロテアさん!」


 キラキラの幕は放射性物質で出来た幕で、これを突っ切る間は息をしてはいけない。

 ケブネカイル渓谷を落下していくドロテアさん(妊婦)の体を救い上げるためには、ブーストの開放が必要だった。


 何倍速もの速さで追いかけた私は、遂に、流砂の上へと着地することになったんだけど、この流砂は強い酸を含んでいるため、私の持っている程度の機械鎧では腐食の進行を止めることは出来ない。


「ドロテアさん!」

 落下途中で引き寄せて、現在、お姫様抱っこ中のドロテアさんは失神中、私が渓谷に落下するように投げたのが悪いんだけど、今は切実に起きて欲しい。


「隊長!」

 私の降下を確認してここまでやって来てくれたアリーセは、呆れた様子で声を上げた。


「そんなもの、早く捨てちゃってください!」

「いやいやいやいやいや」


 アリーセには男を盗られた恨みがあるんだろうけど、私情云々をかましている暇が今はない。


「ドロテアさんのお腹の子の父が、ビュルネイ公国の第四王子、チュアン・ルバーナだって言うんだよ?交渉材料になるかもだよ?」

「そんな女を助けるために、そんな馬鹿げた嘘つくなんて!隊長、人が良さすぎますよ!」


 嘘じゃないんだけどな〜、いや、嘘みたいな話にしか聞こえないんだよな〜。


「隊長、無事なようで良かったです」

「本部まで撤退命令が出ています」


「敵は汚染砂に耐えられるだけの特殊鋼金の開発に成功したみたいだ」

「BM-Xの後方から装甲地上戦車と共に巨大な兵員輸送挺が侵攻を開始しています」


八十年ほど前にこの国境に赴任して来た将軍が、

「世の中に絶対ということはないよね?」

と、言い出して、汚染が凄すぎて、敵の侵攻など到底不可能といわれたケブネカイル渓谷に大量の爆薬を設置したんだよね。


 ローフォーテン領ではハイデ平原が主戦場となる場合が多いんだけど、万が一にも、敵が渓谷への侵攻を成功させれば領都の侵略を易々と許すことになってしまう。その万が一を考えて、絶妙な位置を選んで、渓谷に爆薬を仕掛けたわけだ。


 電磁波の影響で、至近距離からの信号を送らなければ爆発を誘導することは出来ない代物のため、潜航していた部下が無事に起爆させたようだ。


『ドガァアアアアアンッ』


 連続して起こる爆発音に続いて、渓谷が崩れ落ちて行く。カルパティア山脈を中心としたこの地域は砂岩部分が多いからこそ、見事なほどの断崖絶壁が続く渓谷を作り出していたわけだけれど、衝撃に弱いのは間違いない。



「汚染地域にいつまでも妊婦さんを置いておけないよ」

 ドロテアを近くの部下に渡すと、後方へ下がるように指示を出す。

「隊長、貴方も後方へ下がってください」

 コリンナが私の腕を掴んだ。

「王家との婚姻は無くなったんだから、あなたが前線に出る意味なんてないじゃないですか」

「そうなんだけどさ」


 私はソニックブレードを引き抜くと、流砂の中に差し込んだ。

 私の機械鎧は他の兵士と同様の第六メタルを使用、装備も古く補修を何度も繰り返しているようなものだが、ブレードだけは違う。


超振動と電磁波を帯びる一級品であり、汚染された流砂に耐えうる硬度を保っていたとしても、難なく相手を機械鎧ごと斬り裂いていくことが出来るんだよね。


 敵は砂中の潜航が可能となった機械鎧の開発に成功したみたいだ。

 崖の上には未だに第四王子がいるわけだし、敵の精鋭がここまで潜入していたとしても何の問題もないと思うもの。


 砂から出てきた銃口を切り上げ、刃渡り90センチの金色に輝くブレードを回転させるように投げると、両腿から取り出した機関銃を手に、弾丸を発射させていく。


「隊長!」


 足の下は流れる流砂であり、その流砂の中から機械鎧を装備した敵兵の他にも、BM-Xが砂を押し上げるようにして浮上する。


 斥候部隊に見えたBM-Xすら囮であり、すでに潜航した部隊がここまで来ていたということになる。砂中へと潜航可能なほどの改良が進んでいると言うのであれば、いくら爆発を起こして砂岩を落下させたとしても、敵は潜航を開始してダメージを受けていないのかもしれない。


 ブーメランのように回転しながら敵の首を斬って戻って来たブレードを右手に掴むと、敵のフルフェイスを横なぐりに斬り裂き、そのままの勢いで地中に深々と刺しこんだ。


 そうして地面が振動するようにして金色に輝くと、まだ地中に潜っていた敵兵が機能不全を起こした状態で地上へと現れて来た。


 無数のキャタピラ音が渓谷に鳴り響いた。シュナの砂中や崖の上を移動するBM-Xの姿が視界に入って来る。私は一人、崖の窪みの上へと飛び上がりながら、崖が崩れ落ちたシュナの川を進む敵軍の姿を眼下に眺めた。


 シュナの川は蛇行する事はない、崩れた岩壁から一直線状に汚染された砂を流していく為に、きりだった崖の遥か向こう、汚染された幕の向こうを眺めることができる。

 

 何処の国も飛空艇を所持してはいるが、使用するのはあくまでも主戦場である。山間に囲まれたローフォーテン領の上空を航行すれば、あっという間に地上砲の餌食となってしまうからだ。

 その巨大な飛空艇が何艘も、遥か先の上空に並んでいる事に気が付いた。


 敵の飛空艇を止める為には、地上の迎撃システムを起動させなければならない。

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