第27話 ドロテアさん?
映画の内容でいくと、私(リン・ヴィトリア・アヴィス)が、アドリスヴィル皇国の苛烈王を倒すための旗頭として立つことになるようで、打倒、苛烈王を目指すルーク第三王子と、辺境を守るハインツ・バッテンベルグとの間で、恋心に揺れ動きながら、隣国ビュルネイまで逃亡して、公国の支援を受けながら皇国の占領下となったローフォーテンを奪還して・・っていう話だったわけですよね?
ドロテアさんは、嫉妬にかられて苛烈王に私の暗殺唆される役らしくって、
「苛烈王が、男爵令嬢と知り合いだっていうのが凄いです、何処で知り合ったんですか?」
なんてことを言ったら、
「知り合ってない!誘拐を命令して来たのはお父様なのよ!」
と、答えていたけれども、苛烈王とは知り合いじゃなくても、ビュルネイの第四王子とは深い関係になっていたわけなんですね?
「わ・・わ・・私も知らなかったわよ!飲み屋で知り合っただけなんだもの!」
「の・・飲み屋で知り合ったのは事実なんですね」
「俺の母は、フィルデルン王国から輿入れしてきた姫だったのでな。王国への侵攻の指揮を取ることが決まってからは、何度もギルデアには侵入していたんだ」
第四王子がギルデアの街の飲み屋でドロテアをナンパしたのだろうか?うちの国の国境警備、甘すぎじゃないだろうか?
「バッテンベルグ家の当主は金で転んだが、その息子は、領地が我が国の支配下になることを反対して牙を剥こうとしているらしい。我が国がここまで侵攻していることにも気が付かず、今、この時に反乱を起こしているというあたりが、あまりに馬鹿馬鹿しい話なんだが、どこの世界にも極めつけのアホという奴はいるものさ」
『隊長、BM-Xが百騎、斥候部隊としてケブネカイル渓谷を進行中』
先行していた部隊員の通信が耳に入って来る。砂漠型装甲歩行兵器BM-Ⅹっていうのは全高6メートル、二本の長い足によってあらゆる地形の移動を可能とする。四基のブラスター・キャノンを搭載させている。
「汚染の流砂を越える特殊鋼金の開発に成功したっていうのは本当ですか?」
「もちろん、成功したとも」
チュアン・ルバーナ王子はにこやかに笑いながら言い出した。
「シュナの流砂を越えることが可能となれば、王国は我が物も同じこと。ルーク第三王子が王都でクーデターを起こしている間に、王国の三分の一は我が国のものとなるだろう」
現在の私、機械鎧を装備してない、手錠かけられている、鎖でも繋がれている状態。
「ねえ、チュアン様?貴方、リンを酷い目に遭わせたりしないわよね?」
ドロテアの質問に、ドロリと濁ったような瞳を向けながら王子が問いかける。
「何故、そんな質問をするんだい?」
「何故って・・・」
ドロテアは真っ青な顔で目の前にいる王子様を見上げている。
「彼女は黒の一族の族長の娘なのよ?」
「だからなんだって言うんだい?」
王子は黄金の髪をかき上げながら言い出した。
「そこの女はさ、散々、我が国の兵士を屠ってくれたわけなんだよ。恨みつらみを抱えている奴は山ほどいるし、あの『漆黒の死神』が居るんだから人間の盾にしないわけがない。ローフォーテンを占領下に置いたら、女子供は全て盾として、近隣の領地を征服していく。何せ、王国の宗教感覚では、女性や子供は大切に守るものなんだろう?きっと素晴らしい盾になるだろうし、素晴らしい効力を発揮してくれるはずだよ」
輸送機から降りてきた男が私の耳をべろりと舐めながら、
「さあ、死神さんよ、俺の上でどんなダンスをしてくれるのかな?」
と、言い出した。
ウオォォオオオオ!
大ピンチ?これは大ピンチってやつ?
ピンクブロンドのドロテアさんは下を俯いちゃっているし、特殊鋼壁に弾丸が当たる音すら止んでいる。
部下が捕まったのか、殺されたのか、逃げたのかは分からないけど、これは物凄いピンチなのではないだろうか?
「ドロテアさん?」
前世が日本人だという記憶を持っているドロテアさん、チュアン王子に腰を抱かれながら俯いているドロテアさん。
公国の第四王子であるチュアン王子は母親がフィルデルンの姫君だけど、母の生家に特別な心情とかそういうの・・なさそうですね。女子供はもれなく人間の壁にする宣言をしているし、心は完全にビュルネイ人ということなんでしょうね?半分でも母親の母国である王国を愛する気持ちがあれば別だったんでしょうけど、全然なさそう。全くなさそう。
「ドロテアさん?」
耳を舐めた男が胸を触ろうとしてきた為、手錠を起動させて無数の針(毒針)を突き刺していく。魔獣から抽出した猛毒(テトロドトキシン)を塗り付けてある、青酸カリの千倍以上の毒性が首や顔に突き刺さったら、堪ったもんじゃないよね?
「ドロテアさん!」
毒針を投げたんだけど、チュアン王子は自分の目の前に特殊鋼壁を展開して、簡単に弾き返しちゃったよ。
鋼壁を展開する一瞬の隙をついて、一歩前へと飛び出したドロテアさんが、私の方へと箱(ボックス) を投げつけた。
手錠を繋ぐ鎖を引きちぎり、両手を拘束していた手錠も空中に放り投げる。
手錠は空中で破裂すると、周囲が煙幕で包み込まれる。
走り込んだ私は宙返りをしながら箱(ボックス)に足を突っ込むと、すぐ様、箱(ボックス)は起動して、機械音と共に、全身が機械鎧に包み込まれていく。
フルフェイスが装着されると、こちらに走り込んでくるドロテアさんの姿が見える。
特殊鋼壁を飛び越えるために私をアシストしようとしているんだろうけど、その手を掴んで、壁の向こうへと投げ上げた。
「ドロテア!」
自分だけ特殊鋼壁の中へと引っ込もうとしていた王子は、壁の向こうへ飛んでいくドロテアに向かって悲鳴に近い声をあげている。
「おっと、妊婦さんだったもんね、ごめん、ごめん」
爆薬を百連続で爆裂させながら、一応、心の中で謝罪をしておいた。
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