傷薬

あなたのかすれた声がわたしの耳をなぜる

優しいまなざし 深い吐息

今は風に吹かれたくない

青い視線たちに刺される駅の上で


あれは多分、暑く狂った8月だったと思う

真夏のロシアは夕焼け空のような超越でわたしたちを包んだ

過ぎ去っていく日常がもう帰れないおとといになったことを知った

だめになったわたしたちはただ柔らかい黒曜石の道を歩いていた


100年の時はわたしたちに何も言わないことの大切さを忘れさせた

50年の時はわたしたちに語り上げることの大切さを忘れさせた

ヘルメットは枕になり バリケードは豆腐になった

心臓は撃ち抜かれた


去り際の日常が夜の伴走曲を産んだ冬の二階

網に絡んだ青い鳥は飛ぶことを忘れた

愛の合唱が粛々と進行する

掴み損ねた彫刻刀は血に濡れていた

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随意の詩 てると @aichi_the_east

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