第4話|いくら対戦相手が強かろうが、やることは変わらないわけで…
とうとう世界大会がスタートした。
さすが世界大会だけあって、出場チームは猛者揃いである。一瞬の気も抜けない。
しかし、猛者なのはこちらも同じ。
「どれだけこのゲームをやり込んでいると思ってるんだよ」
対戦相手が猛者ばかりだとしても、俺たちだって延々とこのゲームをやり込んできた。トップランカーにだって勝てるチャンスはあるはず。
結果……、一回戦、二回戦と順調に勝ち進むことができた。
運も良かったと思う。相手がこちらの戦略にハマってくれたので、有利にゲームメイクができた。追い込まれるシーンもあったけど、なんとか勝ち抜いていけた。
気がつけば、とうとう決勝戦。あと1回勝ち残れば、俺たちのチームは世界チャンピオンになれる。
自信はあったし「優勝を目指す」とも言っていた。しかし、実際に決勝まで勝ち抜いてくると、イメージしていた心境とは全く別物だった。
あと1回勝てば優勝、だけど負ければ優勝を逃す。一回戦で負けようが決勝で負けようが、優勝を逃すのは同じことなのに、一回戦とは違った感覚のプレッシャーがある。
一回戦はひたすら緊張したけど、決勝はちょっと慣れてきて緊張はやわらいでいる。だけど、目の前に優勝があるから欲が出て、焦りのような感覚が生まれてしまう。
「あと1回勝てば優勝だよ!優勝!」
「まさかここまでこれるなんて思わなかったよ!」
マナもてっちんも、少し舞い上がっている様子だ。無理もない。
今まで、こうして世界レベルのプレイヤーと肩を並べて戦える機会は少なかった。格上の相手に勝っても、心のどこかでは「上には上がいる」と思っていたに違いない。
しかし、今はまさに世界の頂点を決める戦いの真っ只中。その戦いにあと1回勝てばトップに上り詰めることができる。舞い上がってしまうのも、仕方がないのかもしれない。自分も二人と同じような感覚になっている。
だけど、勝って兜の緒を締めよ、だ。
「前にも言ったかもしれないけどさ、俺は結構自信があったよ。このチームだったら、よいところまでいけるんじゃないかって。でも、今のままだと最後のゲームは俺たちの強みが活かせない可能性があると不安になってる」
「なんだよ、俺たちの強みって」
てっちんが聞き返す。
「各々が役割を全うできることだよ。全員が自分の役割を理解して、それを確実に実行できて、勝ちパターンが崩れない。だから、ここまで勝ち上がれたんだと強く思っている」
「なるほど」
「でも今は、目の前に優勝がチラついていて、いつも以上に欲が出てしまっていると思う。欲が出ると、気持ちが焦ってミスが多くなるから、いつも通りのパフォーマンスが出せない」
てっちんもマナも、静かに俺の話を聞いてくれている。
「だから、最後の一戦はいつものゲームみたいに、各々の役割を全うしよう。勝率を最大化できるし、それで負けたとしても悔いは残らないと思う。それにいつも通りプレイしたほうが、やっぱり楽しいよ」
「そうだな。決勝目前で舞い上がっていたけど、いつも通りプレイすればいいだけだよな」
「たしかに!いいこと言うじゃん」
二人とも、気持ちが落ち着いてきたようだ。こうして周りを落ち着かせてはいるものの、もしかしたら一番舞い上がっているのは自分なのかもしれない。二人に伝えているようで、実は自分に言い聞かせているというのが意味合いとしては大きい。
このチームで最後まで勝ち抜きたい。そのために、いつも通りのプレイを徹底していこう。俺ができるのは、それくらいだ。
・・・
いよいよ決勝戦がスタートした。
さすが決勝まで勝ち進めたプレイヤーたちだ。とてつもなく強い。
「さすがに強いな。簡単なトラップには一切引っかからない」
ボソッとひとり言をつぶやく。マナとてっちんにも聞こえているはずだ。
チーム連携が群を抜いている。さらに、こちらの罠や誘導を的確に見破り、効果的な攻めを展開してくる。
後手に回ってしまえば、詰将棋のようにジリジリと押し切られてしまうだろう。
「でも、相手を上回る搦め手を仕掛ければ問題なし」
今、俺たちが戦っているのは"木のエリア"。チームメンバーには、前もって木属性の武器と防具を装備させている。
木のエリアは、木々が生い茂りジャングルのようになっているため、遮蔽物が多い。マナが奇襲を仕掛けたり、罠を仕掛けたりするのに適している。そのため、木のエリアは俺たちの持ち味が活かせるエリアでもあった。
ただ、今までの戦闘の傾向から、相手もそのことに気づいているのだろう。罠を警戒して、なかなか誘いに乗ってこない。
「マナ、てっちん。仕掛けよう」
俺たちは、罠を仕掛けやすいポイントに敵チームを誘導していった。相手に気づかれないように、慎重に相手を誘導していく。普通であれば、見破られることはない。俺たちは、それだけ場数を踏んでいるから。
しかし、相手は罠のポイントに近づくと、罠を避けて俺たちに回り込むような動きを見せた。
さすがだ。こちらが放つ僅かな違和感も見落とさずに、適切な攻め方をしてくる。
「マナ!てっちん!撤退だ!」
俺たちは脱兎のごとく撤退し、火のエリアに移動した。火のエリアは、火山からマグマが吹き荒れる灼熱のエリアだ。
木のエリアとは違い見晴らしがよく、俺たちのように相手を罠にハメて勝つチームにとっては、比較的相性の悪いエリアだ。
しかし、木と火のエリアは隣り合っている。今いる場所から敵と距離を取るためには、火のエリアに逃げ込むほかない。
敵は「チャンス」と判断したのか、猛追撃してきた。罠を回避され、俺たちには立て直す時間が必要だ。ここで追撃されるのはきつい…
しかも、見渡しのよい火エリアでは、相手から背中を狙われ続けることになる。
俺たちのチームは、ゲームメイクの都合上、装備は火力重視ということではなく、戦略の幅を広げられるような武器を選んでいる。そのためゴリゴリの火力重視のチームと正面から戦うのは分が悪い。
残念なことに、相手は搦め手を見破ったうえでスピーディーなチーム連携と高い火力で圧倒してくる。Shuutingsにとって天敵といえる存在だ。
敵にとっては最高の条件が整い、俺たちにとっては圧倒的に不利な状況になっている。
先に火エリアに着いた俺たちは、敵が火エリアに到着したのを見計らって、三人バラバラになって逃げることにした。三人バラバラになると、各個撃破されやすくなるが、全滅は回避できる。
敵チームから見ても、苦肉の策に出ているように映るだろう。自分たちが敵を追い詰めていて、有利な状態になっていると。
スピードのあるマナ、最初から後方で援護射撃をしていたてっちん。二人と比較して、俺がもっとも逃げ遅れている。当然、相手チームは俺を優先的に潰しにくるだろう。敵の3人が俺を狙って距離を詰めてきている。
条件はすべてクリアされた。
「よし!マナ、てっちん、罠を発動させるぞ!」
もうすぐ敵から集中砲火を受ける、というタイミングで、罠を発動させた。
実は、ゲーム開始直後に俺だけ別行動をして、各エリアに罠を仕込んでおいた。もちろん、火のエリアにもいくつか罠を仕掛けている。いざというときに罠を活用するためには、こうした事前準備が必要不可欠だ。
仕掛けたのは"マグマの沼"という罠で、マグマで大ダメージを与えつつ相手を少しのあいだ移動不能にできる。さらに"ヤケド"という状態異常を発生させ、継続的にスピードを減少させられるというオマケ付きだ。
罠の中では、かなり強力な部類に入る。
普通、火エリアではもっとも警戒するべき罠だが、敵チームは俺たちを「火エリアに逃げ込んだ」と思っているため、罠に対する警戒心が下がっている。それに、見つけづらいところに罠を仕掛けるのはお手の物だ。
「よし!罠にかかった!」
予期せぬ出来事に、相手チームは今パニック状態だろう。
「マナ!てっちん!勝負をかけるぞ!」
俺の号令と共に、マナとてっちんが敵に対して集中砲火を始める。
ただ、相手がダメージを受けているとはいえ、武器の火力は相手が上。普通に撃ち合えば、勝負はどうなるか分からない。
しかし、ここでも小細工を弄していた。アイテムを使って、装備している武器の属性を一時的に火属性に変えていたのだ。火属性の武器を火のエリアで使えば、攻撃力が上がる。
さらに、装備している防具は木属性であり、木は火の効果を高める作用がある。防具の耐久力を削るというデメリットはあるものの、短期決戦を前提としているのであれば、得られる恩恵は大きい。
仮に相手が火属性の装備だったとしても、一時的に俺たちのチームの攻撃力が上回っている。
ここが勝負どころだ。
「ゴツい遠距離用の銃を装備しているやつを先に潰すぞ!たぶん、そいつが一番命中精度が高い」
もっとも脅威になりえる敵から確実に潰していく。
「よし!ゴツい銃のやつは倒せた!次は、その後ろにいるチビを狙って!」
Shuutingsでは、いつも頻繁に武器や防具の属性を変更して、いろいろな戦い方を試してきた。試行錯誤の数でいえば、他の追随を許さないだろう。
今まで試して有効だと判断できた戦略を余すところなく相手チームにぶつけている。
「よし!チビも倒した!二人の残りの体力は?俺は残り3割くらい」
「私は半分ちょっと!」
「俺は8割くらいあるわ」
ヤバい、俺が一番死にそうじゃん。相手チームから一番狙われる位置にいるから、役回り的に仕方がないのだが。
「俺が死ぬ前に押し切るぞ!」
「お前が死んでも、俺たちがきっちり勝っておくから安心しろ!」
「いやだ!俺も生存勝利したい!」
勝利が近づいてきて、徐々に余裕が出てきた。でも、油断は禁物。
勝率がもっとも高くなる方法を選択し、その選択を着実に実行していくことで、勝利を手繰り寄せる。
世界大会だとしても、それは変わらない。今回の戦いも、勝つための策を忠実に実行した。
「オラオラオラオラオラオラ!そろそろ終わってくれーーー!!」
薄暗い部屋の中に、無我夢中のバカでかい叫び声が響き渡っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます