第3話|せめてゲームのなかでは勝っていたい
今回開催されるレリックガンの大会は、全世界から上級プレイヤーが集まりトーナメント戦で最強を決めるというもの。
レリックガンは超メジャーなゲームと比較すると見劣りするが、世界規模でみると、それなりにプレイヤーがいる。そのためゲーム界隈では割と注目されている大会だった。
世界大会が開始されることを知ったときは「マジか!」と思わず叫んでしまった。
自宅から参加できるということもあり、マナとてっちんに声をかけて即座に申し込んだ。
「よっしゃー!世界を獲ってやるぜ!」
なんて意気込んでいた。今のShuutingsであれば、世界に通用すると本気で思っていた。
大会に出るにあたって環境面も重要だ。一般的に、オンラインゲームは回線速度が遅いと不利になると言われている。幸い我が家の回線速度は、それなりに速い部類に入る。
PCのスペックもかなりのものだ。会社員時代は仕事が忙しくてお金を使う暇がなかったので、多少の貯金ができていた。人生で一番の高額な買い物だったこともあり、迷いに迷ったが、貯金をはたいてハイスペックゲーミングPCを購入した。
自分以上の環境を整えているお金持ちと比べたら不利かもしれないが、戦略と技術があれば十分カバーできる。問題ないだろう。
今まで没頭してきたゲームだけあって、なんとしても優勝したい。
せめてゲームのなかでは勝っていたい。そんな気持ちが原動力になっているのだと感じる。
そして、せっかく仲良くなれたマナとてっちんの3人で一緒に勝ちたい。
大会に申し込んでからは、今まで以上にレリックガンに没頭した。
自分を取り巻く環境は何も変わっていないのに、ゲームをしている間だけは、嫌なことを忘れることができる。
いつかは向き合わなければいけない現実から目を背けて、言葉通り寝食を忘れるレベルでPCの画面にかじりついていた。
少しでも良い結果を残すことで、自分の自尊心を保とうとしていた。
・・・
大会当日。
あっという間に時間が過ぎ、待ちに待った世界大会が目前まで迫っていた。
思い入れが強い分だけ、緊張も半端ではない。手が震える…
緊張をなくそうと思えば思うほど、比例するように緊張が増していく。
「こんな調子でまともにゲームなんてできるのかよ」
引きこもりになってから、プレッシャーに晒される機会なんて皆無だった。想像以上に緊張していることに、自分自身が驚いていた。
自分が緊張していようがお構いなしに、本番の時間が近づいてくる。
「やばーい!めっちゃ緊張してきた!」
マイク越しにマナが唐突に大声を出した。どうやら、こちらの鼓膜を破裂させたいらしい。キーンと耳鳴りがする。
マナは、いつも明るくフランクな口調をしているため、緊張とは無縁のように誤解されがちだが、実際にはかなり繊細だ。
周りの空気を悪くしないように配慮しているからこそ、常に明るく振る舞っているのだろう。肝心なところで勘が鈍いことがあるけど。
逆にてっちんは「なるようになる」と達観している。てっちんが取り乱したところを見たことがない。
俺もマナ同様、プレッシャーに強いとは言い難い。チキンハートの持ち主だ。
「たしかに緊張するよな。俺も信じられないくらい緊張してるわ。心臓が『これでもか!』ってくらいダンスしてるよ」
そう言って、少し間を空けた。
「今からでも遅くないから、棄権するか?」
「えー!嫌だよ!そんなの!」
マナが真っ先に反応した。
「でも、負けて恥をかくかもしれないぞ」
問いかけるようにマナに伝える。
「なに言ってるの!私たちが負けたところで、かく恥なんてないでしょ!最近ちょっと界隈で有名になっただけで、私たちは何者でもないんだから」
「そうだな。だったら、もうやるだけだな」
「そうだよ!チームの司令塔が弱気になってるんじゃないよ!」
急にマナに元気が戻ってきたようだ。
責任感が強いマナは、自分以外に守る人がいると、パフォーマンスを高める傾向がある。お姉さん気質といったらいいだろうか。俺に発破をかけることで、緊張がやわらいでいるのが分かる。
俺も、少しだけ気持ちに余裕が出てきた。マナの余裕が伝播したようだ。
場の雰囲気がメンタルに与える影響はでかい。マナの緊張をやわらげつつ、実は自分の緊張も解きほぐしていた。まさに一石二鳥というやつだ。
「こういうところは、さすがだよな」
てっちんがボソッとつぶやいた。そのひと言の意味に、マナは全く気づいていない様子だった。
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