古典SFと怪奇小説が産み落としたクリーチャー。

インモラルな恐ろしいSF小説でした。F・Kディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」に登場するペンフィールド情調オルガンをテーマに江戸川乱歩的な怪奇小説で再変換したような話です。確立された豊かな筆致の三人称で語られる話は、小さい物語でありながらゾッとするような作りになっていて、怪作であることは間違いないでしょう。露悪であり引き込まれる話である一方、筋としての何か物語の流れがあるわけではなく、長編ホラー小説の極一部を切り取ったような印象も受ける作品ではあります。その理由としてはキャラクターのバックボーンが端的な地の文の説明のみであり、複数のエピソードとしてキャラクターを深く語らない点が故ではないでしょうか。書きたいシーンとモチーフを言語化することが目的なのか、それだけで十二分に魅力的ではあるのですが、小説として連続し流れて行く物語の起伏が作られていないので、もっとこの世界とキャラクター達の物語が読みたいと思わせるものに留まってしまっています。6000文字でこれだけ魅惑的なエネルギーがある傑作であり怪作なのだから、長編やオムニバスになったらどんな作品に仕上がるのか、読後の興奮が冷めない作品です。

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