そして絶望に帰る

「...フフ」


「え?」


衣珠季が突然ぐぐもった笑い声をあげた。


「フフフフフ」


「い、衣珠季?」


「フフフフ...ハハハハハハハハハハ!!!」


「っ」


身の危険を感じた俺は距離をとろうとする。


だが


「!?」


どうやら腰が抜けてしまったようだ。


その場から動くことができない。


「私は...私は都斗のためを思ってあのダニどもを駆除したのに」


笑い声は憎しみに変わっていく。


「私に...自首しろとか言うんだ!!!!」


「ッ!?」


衣珠季の目は完全に血走っていた。


「あ...あ」


恐怖で声も出せない。


「...私がもし捕まったら都斗と離れ離れになっちゃうね」


18歳未満だといっても、さすがに二人も殺したのだから罪は軽くない。


「でも、でも...誰にも邪魔されずに二人でいる方法が一つだけあるよ」


「......」


俺はその言葉で自分の運命を悟る。


「ずっと周りの害虫どもを駆除すればいいと思っていたけど、虫は無限に湧いてくるよね」


もう、逃げられない。


「都斗も私に自首しろなんて言ってきたし」


俺はここで...


「せっかく都斗が私に与えてくれた誰かを好きになる権利を捨てたくないしね」


衣珠季に


「だからさ...もうその害虫に侵されまくった肉体なんていらないよね」


殺される。


言い終えると衣珠季はすぐに包丁を持ち直し、俺に飛びかかってきた。


「待っててね。すぐそんな汚い肉体から解放してあげるよ」


「や」


やめろと言い終える前に、衣珠季が包丁を振り下ろす。


「ガッ!?」


俺のお腹に深々と包丁が突き刺さる。


すぐに異次元の激痛が襲ってきた。


「ギャッッッッッ!!!!!!」


こんなの叫ばずにはいられない。


しばらくすると激痛に加えて、異物が体に侵入してきた違和感が襲ってきた。


「あー痛そうな都斗!でも我慢してね?これは私から離れようとしたお仕置きでもあるんだから」


そう言うと衣珠季は包丁を思いっきり抜く。


「イギッ!」


抜かれる時も鋭い痛みが全身に伝わる。


包丁が抜かれると今度は寒気がした。


「うーん、その出血量だとまだまだ時間がかかるね」


「ま」


制止しようと声を出すのもかなわず、無慈悲にまたもや包丁が突き刺さる。


-----------


これで包丁で刺されたのは何回目だろ。


もう痛覚も機能してこなくなった。


だんだん意識がもうろうとしていき、視界も悪くなっていった。


今はただただ寒気がするだけだ。


「ああ...」


俺はここで死ぬのか。


まぁそれも贖罪としては悪くない。


それに


「アーハハハハハハハハハハハッ!!!!」


今笑いながら俺を刺している衣珠季の顔はとても楽しそうだ。


”だからなんで自分のことを冷酷な女だなんて言うんだ!”


以前、自分の吐いた言葉が頭の中で再生される。


ああ、本当にその通りだ。


衣珠季は冷酷な女なんかじゃなかった。


だって


「ハハハハハッ!あともう少し、あともう少しだよ都斗!」


こんな楽しそうに興奮している人間が冷酷な女なわけがない。


自分の言った言葉が嘘じゃないと分かっただけで


「よかっ...」


無理して声を出すものじゃないな。


死ぬときには走馬灯が見れるという迷信があるが、どうやら本当のようだ。


意識がなくなってくるのに比例して、今までの記憶が流れてくる。


思い出すのは、別れの一言も言えなかった家族のこと。


仲良くしてくれた湖三のこと。


約束を守れなかった心春ちゃんと千宮司先輩。


救えなかった響。


そして、目の前にいる最後の最後で俺に救われたと示してくれている衣珠季。


もう思い起こすことは何もない。


これで死を受け入れることが


嫌だ。


いやだいやだいやだいやだいやだいやだ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイ怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けてタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ.....................................................................................................................................................

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