氷は砕ける

都斗に馬乗りになり、深々と包丁を突き刺す。


「ガッ!?」


都斗の顔が苦痛に歪む。


その顔を見て、私の中の何かが激しく揺れた気がした。


「ギャッッッッッ!!!!!!」


刺したまま放置していたら、今度は大きな悲鳴を上げた。


その声を聴いて、またもや私の中の何かが刺激された。


「あー痛そうな都斗!でも我慢してね?これは私から離れようとしたお仕置きでもあるんだから」


自然とのどから出た言葉を聞いて理解する。


私は今愉悦を感じているんだ。


都斗の顔が苦しそうに歪んで悲鳴を上げる姿を見てゾクゾクしたんだ。


「イギッ!」


包丁を抜くとまた苦しそうな声を上げる。


「うーん、その出血量だとまだまだ時間がかかるね」


冷静に推測する。


これはまだまだ刺す必要があるようだ。


「ま」


都斗が何か声を上げようとするのを無視して、もう一回包丁を深々と突き刺す。


「ギィィッッッッッ!!」


やめて...やめて


そんな苦しそうな姿を見させられたら私


「もう自分でも止められなくなっちゃうじゃん!!!」


本当だったら、一回一回深々と突き刺して、なるべく苦痛を与えないようにしていたが、もうそんなのどうでもいい。


「都斗が悪いんだよ!?そんな可愛い姿を見せてくるから!!!」


包丁を抜くと、またすぐに刺す。


だが今度は浅く刺す。


そしてすぐに抜き、また浅く刺す。


これはできるだけ長く苦痛を味合わせるためだ。


刺して抜くたびに、都斗は可愛い悲鳴を上げる。


「ああいい!すっごくいい!最高に可愛い!!!!!」


もうなんでこんなに可愛いの都斗は!?


こんな可愛い都斗を今は私だけが独占できている!


その事実に、たまらなく熱気が襲ってくる。


あの雌ダニを刺した時とは比べ物にならない快感がする!


包丁で刺すときの音、感触、都斗の顔、悲鳴、抜く時の音と感触。


全てに興奮を感じる。


「もっと、もっとその可愛い姿を見せて!!!!!」


自分の目的をも忘れ、ただただ包丁を持つ手を動かす。


気づいたころには、私は返り血で血まみれになっていて、都斗は見るも無残な姿になってくる。


「......」


もう可愛い悲鳴をあげてくれないことに落胆しながら本来の目的を思い出した。


「あ、そうだ。今解放してあげるね」


都斗に一声かけ、今度は深々と包丁を突き刺す。


何回も刺しまくったため、ちょうが飛び出している。


「邪魔だな」


心臓を取り出すためには腸が邪魔だ。


私は腸を掴むとそのまま引きちぎる。


「いい...」


腸を引きちぎる時にも、また快感が襲ってきて我を忘れそうになったが


「イタッ!」


腕に包丁を突き刺し、痛みで快感を抑える。


我に戻ると、すぐに心臓を取り出す作業を再開した。


包丁でお腹に開いた穴を広げていき、手を伸ばす。


「これが都斗の体の中の感触なんだね」


恋人の体の中まで堪能できるなんて。


なんてロマンチックなのだろうか。


胸のあたりまでに手を伸ばすと、何か物体が当たった。


「これだ!」


それが心臓だと思い、私は思いっきり引き抜こうとした。


ただ何かに繋がれていて簡単には引き抜けない。


スマホのライトで体の中を照らし、肺動脈はいどうみゃく上大静脈じょうだいじょうみゃくを包丁で引きちぎる。


そしてやっと体から心臓を取り出す。


「これが...これが都斗君の心臓!!!」


取り出すとすぐに心臓を頬っぺたにすり合わせる。


「これで、ずっと一緒だよ。私の都」


......


「違う」


違う。これは違う。


「都斗の...都斗のぬくもりがしない!!!!!」


ほっぺたにくっつけていた物体を思いっきり床に投げつける。


「どこ...どこ...どこなの都斗!!!!!」


呼んでも、この病室には私と...形が崩れた肉片しかない。


「ああ...ああ」


これは肉片なんかじゃない。


「あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝ーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


叫ぶ私を客観的に観察すると、一つの事実が分かった。


確かに今の私は冷酷なのではない。


私は冷酷な女からただの壊れた醜い女になった。

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