希望
「え」
衣珠季から間の抜けた声が上がる。
「なんで、なんで」
血走った目がだんだん元に戻ってくる。
「なんでここにいるの。都斗」
そう言った時には、もう衣珠季の興奮は収まっていた。
「......」
黙りながらも、衣珠季の興奮状態が収まったことに安堵する。
今は話ができる状態だと。
「衣珠季」
「な、なに都斗」
衣珠季は困惑している様子だ。
「そのレインコートを脱いでくれるか」
「え?」
またもや間が抜けた声が上がる。
「...そんなレインコート、衣珠季には似合わないだろ」
いつもの笑みを浮かべて答える。
「うん、都斗がそう言うなら」
衣珠季がレインコートを脱ぐ。
「なぁ衣珠季」
「なに都斗?」
「お前は救われたのか?」
「......」
そう訊くと押し黙った。
「俺はお前を暗い過去から救うと誓った。そのためにお前を肯定してやると言った。お前を冷酷な女じゃないと断言した」
「......」
「お前は...俺と一緒にいて救われたのか?」
「そんなの当たり前でしょ」
衣珠季は悩むそぶりも見せず、きっぱりと答える。
「私はそばに都斗が一緒にいたからこそ過去の自分の所業の罪悪感から逃れられた。自分は冷酷な女じゃないと思うことができた。私にまた誰かを好きになる権利を与えてくれた!」
「......」
「だから...救われたに決まっているでしょう...」
最後の方は消えそうなぐらい小さな声になった。
「...俺はそうは思えない」
「...ッ!?」
「俺と一緒にいたからお前はかつての幼馴染に暴行を加えてしまった」
「な、なにを言って」
「俺と一緒にいたから、千宮司先輩に意識不明の重体にさせられてしまった」
「やめて...やめてよ...!」
「俺と一緒にいたから...お前は二人の人間の命を奪ってしまった」
「やめろっつってんだろ!!!!!」
さっきとは比べ物にならないほどの怒号を上げる。
「なんで...なんでそんなことを言うの都斗...?」
「俺はただ事実を言っただけだ」
「おかしい...おかしいよ」
どれだけ言いつくろっても人を殺したというのは決して許される行為ではない。
衣珠季を救う責任がある俺が、しっかりと衣珠季に自分がで犯した罪と向き合わせなければならない。
「衣珠季。お前は二人もの人間を殺した。しっかりとその罪をつぐわなければならない」
「だ、大丈夫だよ都斗。彩華を殺した凶器には千宮司先輩先輩の指紋がついてるし、まだあの男の死体は見つかっていなし...ッ!」
「いい加減にしろ衣珠季!お前は二人の命を奪った。これは殺人罪だ!しっかり自分の罪を受け入れろ!」
顔を真っ赤に染めて、思いっきり怒鳴る。
「ッ」
衣珠季はただ信じられないものを観るかのような目で俺を見つめる。
胸倉から手を放すと、衣珠季が目から涙を流す。
「ゥゥゥゥゥゥ...」
手で顔を覆う衣珠季。
ただ、泣いたということは自分の犯した罪を自覚したということだ。
「お前はしっかりと自分の罪を自覚できた。お前を裏切ったあいつらとは違う」
「ゥゥゥゥゥゥ」
泣き続ける衣珠季に俺は静かな声で語りかける。
「...自首しよう衣珠季。お前はまだ...やり直せる」
そうだ。
夜桜衣珠季はまだ、やり直すことができる。
「お前が出所するまで待っている。そしてお前が社会に出てきたときに、やり直すために一緒に支える」
「......」
どうやら涙が止まったらしい。
後は衣珠季とともにここから去るだけ
「...フフ」
「え?」
立ち上がった時、衣珠季が小さな笑い声をあげたのが聞こえた。
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