伝言

佐賀暮多鶴が自宅で惨殺されたというニュースが報道されたのは二日前のことだ。


今回は彩華の時とは違い、凶器は発見されなかった。


ただ、殺し方が全く同じことから、警察は同一犯の犯行が高いとして、引き続き千宮司先輩の行方を追っている。


「...まずいな」


おそらくこれからはこれまでの倍以上の警察が千宮司先輩の捜索に動員されるだろう。


そうなるとさすがの千宮司先輩といえども逃げ切れるか分からない。


「...早く響を見つけないと」


相変わらず俺は響の行方を追っていたが、まったく手掛かりがない。


湖三や心春ちゃんなどにも協力してもらっているが、何も新情報はない。


「こうなると千宮司先輩だけじゃなくても衣珠季の身も...」


俺は響が衣珠季を拉致したと確信している。


あまり想像したくない話だが、今頃どこかに衣珠季を監禁して、拷問でもしているかもしれない。


「クソ!なんで俺はこんなにも無力なんだ」


千宮司先輩にあれだけ息巻いていて、しっぽを掴むことができていない。


「衣珠季を救うって言っておきながら、響にこれ以上罪を重ねないと言っておきながら、俺は何してるんだ!」


今日も意味もなく駅に来ているが、人目を配慮せず俺は大声で叫ぶ。


すると、誰かが声を掛けてきた。


「あの...」


「あ、すみません大声をあげちゃって」


駅員が注意してきたと思って顔を上げると、そこには俺と同い年ぐらいの女性が立っていた。


「えっと...」


俺が反応に困っていると


「あ、これは失礼しました。私正徳高校のですね」


「正徳高校!?」


正徳高校という単語が出た瞬間俺はその女性の方を掴んだ。


「正徳高校ってことは響を知っていますよね!?桐生響です!彼女が今どこにいるかご存じありませんか!?」


「あ、あの...痛いです...!」


女性がそう言って、俺は正気に戻る。


「あ、す、すみません。いきなり取り乱しちゃって」


「い、いいんです」


女性は俺の行動にびっくりはしたようだが、特におびえたりしている様子はない。


流石正徳生徒言う感じだ。


「それで、正徳高校の生徒さんが俺に何か?」


わざと”正徳高校”を強調して問う。


「は、はい。実はさっきおっしゃっていた桐生響のことなんですけど」


その名前を聞いた瞬間、俺はまた取り乱しそうになったが、抑える。


「あ、申し遅れました。私、正徳高校に通っていて、桐生響さんと同じクラスの三好田夏木と言います」


そう言うとお辞儀をする。


「あ、ああ。俺は響と中学校から付き合っている明善高校に通っている月城都斗と言います」


「付き合っているということは桐生さんの彼氏ですか?」


「そういうわけでは...」


そんなことを訊かれて普段ならもっとオーバーにリアクションをしていたが、今はその手の話は聞きたくない。


「実はその桐生さんから伝言をあずかっておりまして」


「伝言?」


響が?


わざわざ仲介役を立てて?


「それで、響からの伝言とは?」


「はい、”明日の16時に新岡千駅の総合病院で待っている”とのことです」


「...新岡千駅の総合病院?」


確か数年前に廃病院になったはずだ。


駅の近くにあるのに、何故か取り壊されない廃病院だ。


「それと、必ず一人で来るようにとのことです」


その言葉を聞いた瞬間に鳥肌が立った。


おそらく響は俺が何人もの人間と通じていることを把握している。


クラスメイトと湖三や、心春ちゃん、千宮司先輩と通じていることさえも把握している。


「?どうしました?」


「い、いや、何でもないんだ」


とりあえずこの伝言は大きな手掛かりだ。


行かない理由はない。


危険を伴うと思うが、一人で来ることを要求された以上一人で行くしかない。


「...何かあったんですか?」


「......」


おそらくこの三好田さんは響と出会ってあまり日がたっていない。


にも関わらずこのようにで伝言の仲介を頼まれるということはもう転校初日で友人関係となったのだろう。


その三好田さんに今すべてを話すというのはあまりにも残酷なことだ。


「ついこの間まで元気に登校していた多鶴と彩華が殺されたことと、何か関係があるんじゃないですか?」


...恐ろしい考察力だ。


だったらこれ以上三好田さんと話しをするわけにはいかない。


「...きっと、すべてが終わったら響から話してくれるよ」


「...そう信じています」


響。こうしてお前のことをまだ信じてくれている人はたくさんいる。


だから...だから待っていろよ。


俺が...元のお前に戻してやる。

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