最後の命令
「...久しぶりだね月城君」
「久しぶりというほど日はたっていないと思いますけど」
千宮司先輩が指定したのは、東南駅からだいぶ離れた駅の通りにいた。
「先輩は今...警察に追われている身なんですよね」
「そうだろう。なんせ妹を刺殺した凶器に私の指紋がついていたんだからな」
千宮司先輩はどこか自嘲気味に笑う。
「...一応聞いておきますが先輩が殺したわけじゃないですよね?」
「当たり前だろう。君も私のシスコン度がどれぐらいかは知っているだろう」
確かに、あの時の衣珠季への詰め寄り方は異常だった。
それほど妹を不登校にさせた衣珠季が憎かったのだろう。
「...いったい何があったんですか?」
凶器から千宮司先輩の指紋が検出されたことから、少なくても何かは知っているはずだ。
「...私が夜桜君を意識不明にさせた日から二日ぐらいが経った時かな。あの時はもう家族に迷惑はかけられないと思いずっとホテルを利用していた。それぐらいの金は所持していたからね」
確かに人を意識不明にさせたら刑事事件にも発展する可能性がある。
そんな時に家にいるのは家族がかくまっているみたいな状況になってしまうだろう。
「で、その日、私はいつも通り朝シャワーを浴びていたんだ。その時に、全身黒いレインコートを着ていた何者がいきなり入ってきて、スタンガンで気絶させられたんだ」
「...スタンガン」
スタンガンということはその黒いレインコートの人物は...
「次に目を覚ましたのは私の借りている部屋のベットだ」
「ベット?」
てっきり先輩の家で目が覚めたと思ったのだが。
「私はすぐにこのことをホテルの従業員に報告しようとしたが、もしそうなれば刑事事件になる。その時は警察に後ろめたい気持ちがあったから報告する気が起きなかったんだ」
「それで?」
「スマホを見ると一通のメッセージを受け取っていたよ。宛先人は不明だ」
「宛先人が不明のメッセージ」
「そこにはこう書かれていたよ。”お前は殺人者だ。凶器にはお前の指紋がついている”と」
「それは...」
「そう。私をスタンガンで気絶させ...妹を惨殺した犯人だ」
「......」
まさか犯人が先輩を襲っていたとは。
「...そのあとは?」
「最初はただのいたずらかと思った。でも襲われたこともあったからあながちただのいたずらでないことに気づいていた」
「家には戻らなかったんですか?」
「...正直言うと怖かった。もし自分の家族の誰かが殺されていて、その容疑者として私が挙がっているのを」
「......」
それが怖いのは誰だって同じだ。
「結局私は現実を確かめる勇気もなく、ずっと引きこもっていたよ」
「もうホテルは出たんですか」
「ああ、多分今頃はあのホテルにも警察の手が及んでいると思うからね」
これがここ数日間の千宮司先輩に起こった出来事か。
あんなことが起こった後だ。
千宮司先輩が嘘をついていると普通は思いたくなるだろう。
ただ何故か俺は今の話を真意を疑おうとはしなかった。
それはおそらく今までの千宮司先輩を見てきたからだろう。
この人が殺しなんてするわけない。
衣珠季は意識不明にさせたが、あの時も目は殺意を含んでいたが悲しみも含まれていた。
一線を越えることはなかっただろう。
「...先輩は誰が犯人かめぼしはついてるんですか」
「...あのレインコートの体系から女だということは予想ができる」
「女性ですか...」
ということはやっぱり。
「ただ、この先は私もできれば答えたくない。答えられるはずがない」
「先輩...」
「月城君。前にも言ったが私は君と桐生君と三人でともに雑務をこなした日々を大切な思い出として記憶している。だがもうあの日々を取り戻すことはできない...」
「......」
そんなのは俺だってよくわかっている。
「ただ...まだ桐生君を止めることはできる」
やっぱり先輩も響が犯人と確信しているようだ。
「だから...だから頼む月城君!」
「先輩!?」
千宮司先輩が突然土下座し始めた。
「桐生君を見つけて...以前の彼女に戻してくれ...!」
「......」
「情けない話だが、私は警察に追われている身なのでさほど協力できない」
「......」
「君にこんなことを頼める身ではないことは分かっている」
「......」
「私は君と夜桜君に許されないことをした」
「......」
「ただ君なら桐生君を見つけて正気に戻すことはできる」
「......」
「だから頼む。以前までの日々を大切な思い出として維持させてくれ!」
「...何土下座してるんですか千宮司先輩」
「え?」
「俺の知っている千宮司先輩はもっと高圧的にものを頼んでくる人でしたよ」
「月城君...」
「だからここは"この私が警察ごときに捕まるか!"ぐらいは言ってくださいよ」
「ああ...!」
千宮司先輩は体を起こし、俺の胸に拳を突き立てる。
「生徒会長として最後の命令だ。桐生響を見つけ出し、以前までの彼女に戻らして来い...!」
「はい!!!」
力強く頷いて、通りを後にする。
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